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雪は瞬く間に視界を覆うほどの吹雪となり、行く手を阻んでいた。それでも氏勝は、ただただ幽鬼のように山中を進んでいた。どこへ向かっているのかもわからぬまま。そもそもおのれが、どこへ向かおうとしているのかもわからぬまま。
父に命じられた通り、上見城を目指そうという気はもうまったくなかった。そもそももはや、どちらが北でどちらが南かもわからない。あたりは見渡す限りがただ白一色で、まるで雲の上を歩いているかのような心地になる。
それでもいい、と氏勝は思った。おのれは何もかも失ってしまった。もはや生き続ける理由はない。ならばこのまま天上近くまで歩き続けて、どこかで果てるのがいい。それが何よりだ。
おのれに残っているものはただひとつ、どういうわけかまた握り締めている大弓ひとつ。どこかで金森の軍勢と出くわしたら、今度は隠れずに戦ってやろうと思ったのか。せめて何人か道連れにして果てようとでも。されど軍勢どころか、もはや兎一羽とも行き合わない。あるのはただ、雪、雪、雪ばかり。
そうしてとうとう氏勝は、足を縺れさせて倒れた。積もりはじめた雪の中に半ば埋もれ、もはや立ち上がる精力すらなかった。足倉を出るときに母が持たせてくれた芋茎も、いつ齧っていたのか、気が付けば無くなっていた。もはやあとは、飢えと寒さで力尽きるのを待つばかりだ。
もういいだろう。ならばこのまま、静かにそれを待てばいい。氏勝はそう決めて、ゆっくり目を閉じる。聞こえてくるのは、ごうごうという風の音だけ。しかしその合間に、ふと遠い空耳が混じってくる。
(そもそも京の大坂のなどと言われても、どちらもこの目で見たことなどないわ)
はい、某も見たことなどありませぬ。
(どれほどのものかもわからぬ)
そうですね。実は某もわかりませぬ。偉そうにわかるなどと申したのは、ただの強がりでございました。
(見たことないわ……)
はい。某も……
氏勝は、また目を見開いた。そこに映るのは、やはりただ真っ白な雪のみ。されどその向こうに、ぼんやりと何かの影が見える気がした。いくつもいくつも、果てることなく続く大きな屋敷の甍。彼方に見える、雲にも届こうかという巨大な天守。
「若殿……では、見にまいりましょう」
何に突き動かされたものか、氏勝は身を起こした。立ち上がった。そして、再び歩き出す。
「ともに見ましょう……京を。大坂を。半三郎とともに……若殿」
知らず、口元には笑みが浮かんでいた。そうして譫言のように、何度も何度も繰り返す。
「ご案じめさるな……半三郎は、いつだってともにおります。いつだって、若殿のお傍におりまするぞ……」
ひどくゆっくりと、されど力強く、氏勝は一歩ずつ歩き続けた。その足跡も、降りしきる雪がすぐに覆い隠してゆく。




