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娑羅  作者: のこりごころ
2/2

月夜に紛れる音(娑羅の状況)

目を閉じ頬に風を感じる。


頬を触る風の中にひと撫での暖かさを感じて目を開ける。


見つけた。


口元を緩め吐息と共にか細い声を吐き出す。

少し乱れた服装を整え地にしゃがむ。

左手でアスファルトを軽く撫で、砂利を弄び、少し息を吸う。


右手を少し前にだし、大地を強くつかむ。左手を前に出し大地を押す。

腰を軽く上げ、前に重心を傾け、足首からつま先に力を込める。

今度は息を吐く。

深く。

深く。

深く。

…。

肩は落ち、せっかく込めた力も抜けてしまった……。


風が吹く。


冷風の中に心地よいモノが混じっている。

息を吸う。

強く吸う。

素早く吸う。

全身に息が駆け巡る。

全身に生が焚きあがる。

右足で大地を蹴る。鋭く息を吐く。左足で大地を踏み飛ばす。もう息を吸っているか吐いているかわからない。

前を向く。暗闇が見える。いや少し光が見える。でも何も見えない。通り過ぎていくから。

耳を澄ます。あらゆる音が聞こえる。嘘。本当は何も聞こえない。風が耳を鳴らしているから。足音さえも。


暗き場所を駆ける。誰にも見られぬように。悟られぬように。

誰かに見られたらきっと恥ずかしい。未熟だから。

冗談。いや本当。でも冗談。一人前は人々を怖がらせぬ為と答えるだろうから。


体に触れる心地よい感じが増してくる。

もうすぐ。

もうすぐ。

もうすぐ。

あっ。

見えた。


瞳に妖を映す。体に込めた力を緩める。少しずつ。少しずつ。足が大地を踏むようになる。しっかりと。

一歩。

二歩。

三歩。

四歩。

五歩で近くの壁に背を預け止まる。妖からは死角。私からも死角。瞳から妖は消えていた。

息を吐く。

息を吸う。

息を吐く。

息を吸う。

息を吐く。

目を瞑り。

目を開く。

そろりと壁から顔を覗かせる。

瞳にまた妖が映る。

妖の瞳には私は映っていない。


よいよい(良い宵い)

声に出さず口ずさむ。

なんとなく心が躍る。


~宵~心結び(よい・こころむすび)

次は少し声を出す。

右手に銀色の薙刀が現れる。

にぎにぎと指を動かし、心地の良い握り箇所にずらしていく。

いい感触になる。

口元が少し緩む。

少し気持ちが昂っている。

これはいけない。未熟だ。

息を吐き、息を吸う。

そして深く深く息を吐く。

目を閉じ、

目を開けた。

鋭い気持ちと瞳になった。


上半身を下の方にずらしていく。

腰ももちろん落としていく。

瞳はもちろん妖を映している。


そろりと左足を出す。

上半身が遅れてついてくる。


そろりと右足を出す。

今度は一緒についてきた。


またそろりと左足をだす。

もう上半身が遅れてくることは無い。


またそろりと右足を出す。今度は先ほどより早く。

そろりと左足を出す。先ほどより早く。

そろりと右足を出す。先ほどより早く。

左足を出す。右足を出す。

左足を出す。右足を出す。

左足を出す。右足を出す。

先ほどより早く。

先ほどより早く。

そろりと。そろりと。

そろりと。そろりと。

風と宵闇を斬るように抜け駆ける。


そしてまたしても何も聞こえなくなった。


ごめん嘘。


今度は聞こえる。


風が耳を鳴らす音ではなく。








「…オオ…オォ…。」

妖の断末魔が。

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