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第9話「王様に会いに行こうぜ!」

「亡くなった?」


 国王夫妻に子供がいない理由が死別……しかも4人全員亡くなっていたという話を聞いたミコトは驚きアルティーの顔を見た。


 身体がまだ完全に形成されず、免疫力のない乳幼児が亡くなることは可能性としてはある。だが今の世の中、子どもが病気で亡くなる……などという話はほとんど聞くことはない……しかも4人も。


「ちょっ、どういうこと? そんな……4人全員って…おかしくね?」


 ミコトが尋ねるとアルティーは神妙な顔をして答えた。


「この異世界が存在する時代では普通のことです……医療も衛生観念も未熟なのです。母親は平均4人の子どもを産みますが、そのほとんどが病気や栄養失調で命を落としているのです。母親自身が出産時に亡くなることも珍しくありません」

「そんな……」

「この国の王妃様も4人のお子さまに恵まれました。しかし『ある病』に感染し第1王女、第2王女、第1王子、第2王子と後を追うように亡くなられたのです」


「そういえば世界史の本で読んだことがあるな。確か黒死病かなんかだっけ?」


 中世ヨーロッパでは「黒死病」とも呼ばれたペストが大流行し、当時の人口は3分の1にまで減少したとも言われている。


「あっいいえ、この国では現実世界と違う感染症が流行していまして……」

「へっ?」

「このボンチコーフ連合王国には、他の国には存在しない地方独特の病があるのです。この国の中央部には『ヌータ』と呼ばれる湿地帯がありまして……その湿地帯に棲む『ある魔物』によって人々が感染していくのです。4人のお子様も、この湿地帯で遊んでいたときに感染して亡くなられました」

「魔物の仕業か……何だ、戦う相手いるじゃんか!?」


 魔物という言葉を聞いて、ミコトの目が輝きだした。


「ミコト様、前にも言いましたように異世界へはそのような目的で転生されたのではございません! 王子と恋愛をするために……」

「よし! そうとわかったら『魔物討伐』の許可を取るために王様に会いに行こうぜ! 魔王の前に先ずは魔物で小手調べだ!」


 俄然やる気が出たミコトは、血気盛んにドアを開け部屋から出ようとした。するとアルティーが、


「あぁっ! ちょっとお待ちくださいミコト様!」

「何だよ? オマエが止めても行くぞ」


「いえ、ミコト様……まさかその格好で王に会われるおつもりですか?」


 ……そう、ミコトはジャージ姿のままだった。


「……えっ? これってヘンか?」

「アナタが元いらした世界でも非常識だと思われますが……」



 ※※※※※※※



「うへぇ、腰がきつくて着心地悪い……ってか裾、長っ! 自分で踏みそうだわ」


 ミコトは「コタルディ」と呼ばれる衣装を身に着けていた。当時の女性は脚を隠すことが一般的であり、裾は引きずるほど長い物が好まれていた。コルセットは無かったが体にピッタリと仕立てられたこの衣装は、ジャージ好きのミコトには耐えられない代物である。


「ミコト様! 表に馬車を用意させてあります。さっそく向かいましょう」

「えぇっおい、急がせんなオマエ……うわっ、たっ!!」


 〝ドスンッ!〟


 案の定、ミコトは自分で裾を踏み転倒した。


「あぁっ、もう!!」


 ミコトは長すぎる裾を手でまとめ上げると、脚が丸見えになったまま宿を飛び出していった。



 ※※※※※※※



 ミコトとアルティーを乗せた馬車は、思いのほかゆっくりとしたスピードで王宮に向かって進んでいた。


「なぁ、じ()()()ゃ」

「紛らわしいですね、今乗っているのは馬車です。今度は単語の中央に『天使』が入るボケを使われましたか……」

「この馬車……遅くね?」

「仕方ありません、この時代の道は未舗装で状態が悪いのです。スピードを上げたら車輪が壊れるか、下手したら転倒事故になります」

「それでか……さっきからガタガタ揺れてケツに響く……」


 すると、ミコトの言葉を聞いたアルティーが語気を強めた。


「ミコト様!」

「何だよ?」

「前から気になっておりましたが……その品の無い話し方はお止めください! 仮にもアナタは一国の王女となられるお方です。間違っても王室で……その……ケツなどと……」


 アルティーは不安でいっぱいだった。本来ならミコトに王室での振る舞い方などを伝授する予定だったのだが……異世界に馴染まないミコトは、そのような所作を学ぶ気など全くなかったからである。


「あっそ、じゃあ『おケツ』の方がよかったか?」

「敬語で『お』を付けたところで状況は変わりません! 私はですねぇ、ミコト様がちゃんと王室にふさわしいお方になってもらわないと……」

「まぁまぁそう言わず……これでも食え♪」


 大きく口を開け説教を始めたアルティーに、ミコトがまたもや何か咥えさせた。


「ぱくっ! むしゃむしゃ……なっ、何これおいふぃいいいい! こっこのチョコレートでコーティングされたシュー生地の中にとろけるようなクリームが……口の中でマリアージュして……はっ……はぁああああっ!」


 ミコトがアルティーに食べさせたのはコンビニスイーツの「エクレア」だった。


「あれっ? ちょっと待ってくださいミコト様……何かおかしいです!」


 正気に戻ったアルティーがミコトに詰め寄った。


「私は先ほど廃棄魔法『ブチャッチモー』を使い、ミコト様が所持していた『モチニーク永久使用権』も破棄したはずです……なのに、なぜ今ミコト様はエクレアを出すことができたのでしょうか?」

「フフッ、それはだなぁ……」


 ミコトは不敵な笑みを浮かべた。そして……


「じゃーん! これだよ」

「なななっ……何で?」


 ミコトが取り出したのは何と「モチニーク永久使用権」と書かれた紙であった。

まだまだ続くぜ!

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