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第6話「モチニーク!」

「それは……この魔法、生涯で1回しか使えないのです」


 アルティーから「元いた世界のアイテムを取り出せる」魔法、『モチニーク』を伝授されたミコトだが、1回しか使えないと言われ発動をためらってしまった。


「えっマジか! そんなレアな魔法使って取りに行くのがロールケーキって……さすがに能力の無駄遣いだ! うわぁ、どうしよう……慎重に考えないと!」

「そうですよミコト様、よくお考えになってくださいませ」

「わかったよ……でもさぁ、これってそんなに魔力が必要なのか?」


 ミコトは率直な疑問をアルティーにぶつけた。確かに次元を超えて物体を移動させる魔法なので強力な気はする。だが、生涯に1度しか発動できないほどの魔力なのかというと甚だ疑問だ。


「実はですね……この魔法、本来の目的は『好きなものを何でも取り出せる』魔法なのでございます」

「……好きなもの?」

「はい、この魔法を使うと異世界や現実世界……この世に存在する物も()()()()()()も全て取り出すことができるのです。唯一できないのは生命の宿ったモノ……それは召喚魔法になりますからね」

「ふーん……んっ?」


 このアルティーの言葉を聞いて、ミコトに「ある考え」が浮かんだ。


「おい()()()ン向」

「アニメ好きの『じゃない方芸人』ではありません」

「ってことは……その魔法使うとMPは爆下がりするのか?」

「MP? あぁ、ゲームのマジックポイントのことですか? えぇ、魔力はかなり消費しますよ」

「じゃあさ、ついでに回復の方法あったら教えてくれ」

「はい……回復には『オジラーの聖水』が必要です。これを飲むと元通りに近いくらい回復します」


 と言うとアルティーは、水が入ったビンをミコトに見せた。どうやらそれがオジラーの聖水らしい。


「そうか、サンキュー! じゃあ欲しいもん決めたからやってみるわ」


「よろしいのですか? まぁ、この魔法はご身分の高い王族クラスなら体力的なダメージは少ないのですが……それでもお気をつけてください」


 欲しい物を決めたミコトは右腕を伸ばし、手で何かをつかむようなポーズを取った。そして


「ハンデメタメタゴッチョデゴイス……」


 アルティーから教えられたように詠唱すると


「モチニーーク!」


 と大きな声で叫んだ。すると目の前の空間が、まるで加工アプリで小顔にしたときの背景のように大きく歪んだ。加工アプリで小顔にしても背景でバレバレになることがあるから気をつけよう!

 やがて大きく歪んだ小顔……ではない背景から直径30センチほどの宇宙空間のようなものが現れ、吸い込まれるような風が起きた。すかさずアルティーが


「ミコト様、今です! その空間に手を入れてください!!」


 と叫ぶとミコトは、


「えっ、えぇっ!? この中? ちょっと思ってたのと違うんだけど……」


 と言いながらも異空間に手を入れた。手を入れた瞬間〝バチバチッ〟と稲妻のようなものが光ったが、ミコトは勇気を振り絞り中から何かを取り出した。するとすぐに稲妻と風が収まり、空間のひずみが消えて部屋の中は何ごともなかったように静かになった。


「はぁ、はぁ……」


 ミコトが取り出したのは、1枚の「紙切れ」と1本のビンだった。


「ミ……ミコト様、それは一体……?」


 何の紙なのかアルティーはわからなかったので思わずミコトに聞いた。ミコトはアルティーの顔を見つめるとニヤッとしながらその紙を見せた。そこには……




『モチニーク永久使用権(発動ごとにオジラーの聖水1本オマケ付き)』




 と書かれていた。


「は? 何で……すか? それ?」


 目が点になったアルティーに、ミコトは聖水を飲みながらドヤ顔で言った。


「存在しないモノも取り出せるって言ったよな? だったら『モチニーク』を何度でも使える許可証を作ればいいんじゃね?」


 するとみるみるうちにアルティーは顔が真っ青になり


「あっああああああああっ! 何てことするんですかアナタはーっ!!」

「いいじゃねーか、やったもん勝ちだ!」


 折旗ミコト……やはりとんでもないチートキャラであった。



 ※※※※※※※



 翌日……


「モチニーク!」〝ゴクッゴクッ〟「モチニーク!」〝ゴックン〟……


 異世界転生した者が最初に目覚める「陸亀(トータス)の宿」の一室に、アイテム獲得魔法「モチニーク」を連発してはすぐに「オジラーの聖水」をガブ飲みしているミコトがいた。


「もうっ! ミコト様、いい加減にしてください」


 アルティーは焦っていた。今日からミコトに「王女としてのたしなみ」を学ばせようとしていたのだ。だが本人に全くその気がなく、ずっと「モチニーク」を連発しては元の世界から次々と物資を運び入れていたのだ。


「何やら色々とワケのわからないものを……これは何ですか?」

「あぁ、それ? マヨネーズだよ! だって宿の食事、薄味なんだもん……これがないとムリ」

「調味料ですか? それにしても……いくら自由に使えるからと言って、この魔法を連続で使われた前例がありませんから……ミコト様のお身体に何か『副作用』が起こるかもしれませんよ」


 1回の発動でさえMPが爆下がりする魔法……アルティーはミコトの身を案じていた。だがミコトは


「ふーんだ! そんなもん恐れてこの世界でやっていけるか! モチニーク! モチニーク!」


 アルティーの忠告に一切耳を貸さなかった。



 そして1時間後……アルティーの心配は現実になった。



「うわぁ、まただぁ! トイレトイレ! おしっこもれるぅ~!」

「ほーら、だから言わんこっちゃない……自業自得ですよ!」

「う゛ぅっ……」




 ミコトは「オジラーの聖水」を飲みすぎてトイレが近くなってしまった。




「まぁこのくらいで済んで良かったですけどね……」


 アルティーはあきれ返っていた。

続くんじゃないかな?


※用語解説【モチニーク】

忘れ物をした時などに使う言葉「~を取りに行く」を山梨では「~を持ちに行く」と言います。おそらく「取りに行く」と「持ってくる」がごっちゃになったのではないかと個人的には推測しています。

この「持ちに行く」……山梨県民が最も気を付けなければいけない『危険度MAX方言』として有名です。普段から「オレ、絶対に甲州弁なんて使わねーし」と豪語する若者ですら、うっかり使ってしまう可能性があります。なので「取りに行く」と言わせる状況をうまく作り出すことができれば「隠れ山梨県民」をあぶり出すことができる……かもしれません。

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