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第32話「アンタなんか追放よ! ざまぁ」

「いや、アタシはあきらめんぞ! オゴッソ・コテッサラ・クッチモー!」


 王宮の昼食会に出された大量の料理に苦戦するミコト……幼いころから「残さず食べる」と躾けられていたので、魔法を使って食べきろうとしていた。


「うっ……うははっ! なんか食欲わいてきた……よっしゃー、食うぞーっ!」



 10分後……



「だっ、ダメだ! もう食えん……どうして?」


 ミコト……ついにギブアップ。アルティーはあきれた顔で、


「だから言ったじゃないですか! あれは食欲が出ないときにモチベーションを上げるための魔法なんです。消化機能と連動するワケじゃないですから満腹のときに使っても無意味ですよ」

「そっ……それを先に言ってくれ」


 すると国王が、


「ミコトや、この料理はあくまで王室の威厳……という建前で盛り付けているだけじゃ。実はこの後、使用人や召使いたちに分け与えることになっておる」

「そっ……それも先に言ってくれ」


 余った料理は切り分けられ、王宮の使用人や召使いたちに下賜された。とは言っても城で働く人はメチャクチャ多い……実際には1人あたり、会社で土産菓子をおすそ分けとして配られるくらいの量だ。



 ※※※※※※※



「ごちそーさまでしたー! 美味しかったー!」


 ひと通り食事を終えくつろいでいると、遠くの方で大騒ぎをしている女性の声が聞こえた。


「ちょっとアナタたち! 何でワタクシたちがここに入ってはいけないの!? そこをお退き!!」

「…………退け」


 じゃがいも警察から完全にクロ認定されそうなドレスを着た女性が2人、大広間の入り口付近で使用人と揉めていたのだ。


「えっ、何だ何だ?」


 ミコトが気になっていると、王妃が頭を手で押さえ困惑していた。


「まったく……あの()たち」

「えっ、お母様のお知り合い?」


 ミコトが王妃に尋ねると、王妃はため息をつきながら


「あれは……お恥ずかしながら此方(こなた)のめ……」


 と言いかけたところで、異世界アニメでしか見たことがないブッ飛んだドレスを着た2人が、使用人を振り切りミコトたちの元へ駆け寄ってきた。


「そうよ! ワタクシがダッチモ((ネェ))よ! で、こっちが……」

「…………名乗るのメンドい」

「スッチョ((ネェ))よ! 覚えときなさいよバーカ!」

「…………バーカ」


 登場した時点で関わりたくないと思ってしまう2人の女性は、フーチャン王妃の姪でミコトとは従姉の関係になるダッチモ((ネェ))とスッチョ((ネェ))だ。


「アナタがミコト姫なのね……ふーん……」

「いや、まだアタシは関係性を聞いてない……何なのオマエら」

「よくぞ聞いてくれたわね小娘! そう、ワタクシたちは……悪役令嬢でございますわ! おーっほっほっほ!」


(おい、()()令嬢って自分から名乗るか?)


「叔母様!」


 ダッチモ((ネェ))が王妃に詰め寄る。基本的に話をするのはダッチモの方だ。


「叔母様! ワタクシたちも王族の一員だから王女なのですわ! 本来なら叔母様の子どもたちが全員亡くなった時点で、ワタクシたちが王妃になれるチャンスだったハズ……なのに何で養子をとってまでしてワタクシたちを王妃の候補になさらないの!? これは陰謀ですわ!」

「…………チャンス潰した……おかしい」


 ミコトはこの2人にカチンときた。それは王妃の実子が亡くなったことを「チャンス」と言った……つまり自分のことしか考えていない発言に対してである。

 本来ならこの2人に「チョベ()チョベ()シテッ()ド・ブ()サラウ()ド」を発動してやりたいミコトであったが、ここは正式な次期王妃として……そして王妃の手前、暴力的な行動は避けようと思った。


「で、アタシに用でもあるの?」

「大ありよ! アナタねぇ……王子との婚約破棄しなさい!」

「いや、まだ婚約どころか会ってもいないが……」


 本当は会っているがミコトはその事実を知らない。


「はぁ? 何よそれ! アナタは4人のイケメン王子たちをはめさせて……じゃなかったはべらせて逆ハーレム作っていい気になってんじゃないわよ! 全くもってうらやましい……じゃなかったうらめしいわね」

「…………はめさせてうらやましい」

「スッチョ! 人の言いま()がいをほじくり返さないで! 要するに……こっちにも1人くらい回しなさいってことですわ!」

「…………やらせろ」


 この2人、言ってることが完全にクズ。すると王妃が


「お止めなさい! 其方(そなた)たちはそういう品の無い所が(王妃候補として)相応しくないと気付かないの!?」

「だってさ! オマエら下品なんだってよ」


(ミコト様、アナタもです)


 アルティーは心の中でツッコミを入れた。


「うっうるさい! とにかく……王子たちに囲まれた逆ハーレムは悪役令嬢であるワタクシたちのものですわ! ミコト姫とやら……アナタはこの王宮から追放ですわ! そして辺境の地でスローライフを送るがよいですわ! ざまぁですわ! 婚約破棄でざまぁな転生王女は追放されてのんびりスローライフで錬金術師になってもふもふしていなさい! アナタは追放! そしてざまぁよ」


(あー、いるんだよなぁ! こうやってちょっとバズった言葉をすぐに使いたがるヤツ……こういうのを『バカのひとつ覚え』って言うんだよなぁ)


 ……んんん? 誰のことを言っているのかなぁ~? ちなみにダッチモの台詞に出てくるワードは「小説を読もう!」の人気キーワードから集めたのだが……。


 ミコトは、このまま放っておくと永遠にしょうもないことを言い続けそうなダッチモ((ネェ))と不愛想なスッチョ((ネェ))を逆に「追放」してやろうと考えた。


「まぁまぁお姉様方、そうカリカリなさらずに! ちょうど食事も終わってデザートでも……と思っていた所ですが、どうです? ご一緒にいただきませんか?」


 急にお嬢様口調になったミコトはニコッと笑うと2人にそう提案した。


「おいミコトや、其の方は満腹ではなかったのか?」


 国王が心配すると


「あっ大丈夫! アタシが元いた日本っていう国に『スイーツは別腹』っていう有名な()()()()があるんだよ」

「ミコト様、ウソを教えないでください」

「しかし……デザートはさっきコンポートを食べたばかりではないか」


 ミコトは、国王の心配やアルティーのツッコミを無視して「モチニーク」を使い何かを取り出した。


「そっ、それは何じゃ?」


 ミコトが取り出した物は、コンビニスイーツの定番「シュークリーム」だった。

まだまだ続きますわよ! おーっほっほっほ!


※用語解説【ダッチモ((ネェ))とスッチョ((ネェ))】

甲州弁で「くだらない」を「だっちもねぇ」と言います。そういえば昔、「だっちもねえこんいっちょし」というタイトルの歌が山梨県内でプチブレイクしたことがあります。

同じく「素っ気ない」を「すっちょねぇ」……別に……それだけ(←これ)。

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