第31話「オゴッソ・コテッサラ・クッチモー」
「さっそく王女が決まったことを国民に宣言せねばならぬ! 今すぐ支度を……」
(えっ、まさか……アレをやるの?)
国王の言葉を聞いたミコトは柄にもなく緊張した。というのもミコトの考えている「国民に宣言」とは……王宮の前を埋め尽くすほど多くの民衆が集まり、バルコニーから民衆に向けて声高らかに宣言し拍手喝采を浴び、ついでに白いハトが飛び立つ……という映画やアニメのラストシーンにありがちな「お約束」だからだ。
「えぇっ! じゃあ今みんな集まっているってこと? うわぁ、さすがにそれは緊張するわぁ」
ミコトの顔が青ざめていると、使用人から何やら箱を受け取った国王が、
「いや、それはないぞ!」
「えっ!?」
「国民も仕事で忙しいのじゃ! 王宮までわざわざご足労掛けるのは忍びない。そこでこれなんだが……」
そう言って国王が箱を開けると中から漏斗の形をした金属管が出てきた。
「これは伝声管と言ってな、これに向かって話すと声が遠くに伝わるのじゃ」
「えっ、それってパイプの先に声が伝わるヤツじゃん……パイプねーし」
ミコトが至極当然のツッコミを入れると、
「魔法を使うんじゃよ! 魔力で国中全てに伝えることができるんじゃ」
「はぁ?」
国王は漏斗に向かって「ハンデメタメタゴッチョデゴイス」と、お馴染みの詠唱を始めた。続けて
「ボンチコーフ・ノシントーキー・テクリョー」
と呪文を唱えると、王宮の外から女性の声が聞こえてきた。
『ピンポンパンポーン! 国民の皆様にお知らせ致します。本日、ボンチコーフ連合王国に新たな王女としてミコト姫を迎え入れました。これからも……』
この『宣言』は市街地や住宅地、畑や公民館など国中の至る所に設置された塔の上から、メガホンのような物を使って発信された。ただ、場所によっては……
『ピンポンパンポーン! 国民の皆様にお知ら……『ピンポンパンポーン! 国民の皆……『ピンポンパンポーン! 国……』
いくつかの放送が重なり聞き取りづらい場所も存在する。
「これでよし! 国民にはミコトが王女になったと伝わったぞ」
「いや、コレって田舎の防災無線じゃねーか!」
※※※※※※※
「皆様、お食事の用意が出来ましたので大広間にお越しくださいませ」
女性使用人に案内され、手洗いを終えたミコトたちは大広間に入った。大広間には大勢の使用人と料理人が無表情で整列していたが、ドレス姿のミコトを見たとたん彼らの表情が少し緩んだ。
召使いたちは大広間と厨房をつなぐ入り口から王族の様子を覗き見ていた。普段は厨房から出てくることはないが皆、ミコトを一目見ようと集まっていた。
そう、先ほどまで新入り召使いとして一緒に働いていたミコトは、すでに使用人や召使いのハートをガッチリ掴んでいたのだ。
大広間のテーブルはとても長くて大きいが、どこぞのアニメなどで描かれるような上座と下座で会話できないほどの距離を取った座り方ではなく、国王を中心にコの字型になるように全員が席に着いた。
テーブルには銀の食器が置かれていたが料理は大皿に盛られている。スプーンやフォークはなく、2人1組で使う切り分け用のナイフが置かれていた。
そして……テーブルの上にのせられた料理は尋常ではない量だ。国王が口にする物なので、あらかじめ毒見役の召使いが試食をしている……平和な国なのでその必要もないのだが。
顔にそばかすのある毒見役の少女は1つの料理につき1口ずつ食べていたが、それでも満腹で食べきれなくなりギブアップしたほどである。
「うわぁ! こんなにあるんだったらコンビニスイーツ控えとけばよかった」
「そうですよ、上流階級の食事は残すことが前提ですから量が半端ないんです」
そう言ってミコトをたしなめたアルティーが自分の皿を見て何かに気付いた。アルティーは料理を指差すと、
「ミコト様、あの料理は何でしょうか?」
「ん? あぁ、あれは……確か肉じゃがだったかな(もちろんウソ)」
ミコトが目を逸らした隙にアルティーは、自分の前に置いてある皿とミコトの皿を交換した。そう、アルティーの皿にはミコトの鼻クソが付いていたのである……ていうかマジでやったのかミコトは!?
「あーっ、オマエ! 交換しやがっ……」
〝ドンッ〟
「……」
切り分け用のナイフをテーブルに突き刺したアルティーは、殺気立った表情でミコトを睨みつけた。
アルティー……本気で怒ると悪魔並みに怖い。
「うっ!」
ミコトが一瞬怯むとアルティーは
「じゃあミコト様、私が切り分けてあげますね」
有無を言わさぬスピードで肉を切り分け、鼻クソの付いた皿の上にのせた。
「さぁミコト様、め~し~あ~が~れ♥」
「えっ! あっ、ちょっと」
「食わねぇのか?」
アルティーは再び睨みつけた……ほぼ悪魔。
「うう゛っ」
ミコト……自業自得。
※※※※※※※
観念したミコトは自分の鼻クソが付いた皿を使って食事を始めた。幸いにも食事の味は、その「マイナス点」をカバーできるほどであった。
「うわー、この肉うめーなぁ」
「そうじゃろう! この国はワインの生産が盛んでな……家畜にもワインを与えておる。こちらからワイン牛、ワイン豚、ワイン鶏、そしてワイン魚じゃ」
この物語はフィクション……ただし実在するものもある。
「ただ、美味いんだけど……さすがにこの量はキツい」
大きなテーブルに所狭しと並べられた大皿料理にミコトは苦戦していた。それでも「私、こう見えて大食いなんだよ♪」と、痩せているのに大食いというギャップ萌えアピールするが実は言うほどでもないマウント女よりは多く食べている。
「いやいや、無理して食べることはないぞ」
「ええっ……でも残したらもったいないじゃん!」
ミコトは小さいときから両親に「食べ物を粗末にしてはいけない」と躾けられてきた。何としてでもテーブルにのせられた大量の料理を食べつくすつもりだ。しかしミコトの腹は限界に近かった。
「もう食えん……あっ、そういえばゴハンがたくさん食える魔法があったよな」
ミコトはほとんどの生活魔法を使うことができる。だが生活魔法の呪文を全て覚えているワケではない。そこで生活魔法の呪文をすぐに思い出す生活魔法を覚えるための生活魔法を脳内にインプットして生活魔法で生活魔法を思い出した。
「えっ? アレは使わない方がいいですよ」
「いや、アタシはあきらめんぞ!」
アルティーは止めようとしたがミコトは呪文を唱えてしまった。
「オゴッソ・コテッサラ・クッチモー!」
マダマダ・コテッサラ・ツヅケチモー!
※用語解説【ボンチコーフ・ノシントーキー・テクリョー】
「~の人たち」を甲州弁で「し」または「しんとう」と言います。
(例)
女の人たち→おんなし
あの人たち→あのしんとう
「し」と「しんとう」の使い分けは私もよくわかりませんが、おそらく「~の」が付いた場合は「しんとう」を使うんじゃないかなと……? 基本的には「し」だけでも使えるはずです。
……地元のしんとう、わかるけ?
※用語解説【オゴッソ・コテッサラ・クッチモー】
甲州弁で「ご馳走」を「おごっそう」といいます。でも「ご馳走様」を「おごっそうさま」とは……たぶん言わないです。
同じく「思いっきり・これでもかっていうくらい」を「こてっさら」と言います。
「こてっさら」と似た言葉に「おめっきし」「おめっさら」などもあります。地域や使う状況で変わるようですが、まぁどれ使ってもだいたい伝わります(笑)。




