第30話「お母さんって呼んでいい?」
「アタシ、肩揉んでやるよ!」
養子となるミコトを正式な王女として認めたくないフーチャン王妃は、控室にこもってしまった。4人の実子が全員亡くなったことを未だ悲しむ王妃に声を掛けられなかったミコトは、突然国王の肩を揉むと言い出した。
「おいおい、いきなり何を言い出すかと思えば……肩を揉むってマッサージのことか!? そんなもん召使いにやらせる……姫である其の方がすることではない!」
「まぁまぁ、遠慮しないでさぁ! 実はアタシ、肩揉み得意なんだよ! 元いた世界じゃよく両親の肩揉んでやったんだよ」
ミコトは半ば強引に国王を座らせると肩を揉みだした。
「おっ……おおぉっ……ミコト姫、其の方はなかなかマッサージが上手じゃのう」
「えへへっ、そうでしょ!? 小さい時からやってたから自信あるんだよ!」
ミコトが転生者だということは、あらかじめ女神様から聞かされていたので国王は知っている。親孝行な娘だとも聞かされていたが、まさかここまでとは……国王は驚き、そして満足した。
「ありがとうミコト姫、おかげでスッキリしたよ」
「どういたしまして! あっ、それと……姫はいいよ! ミコトって呼んで」
「そっそうか、ミコ……トよ」
「あっ、それから……国王様! お願いがあるんだけど……」
「何じゃ? 言うてみよ」
「これからは……『お父さん』って呼んでいい?」
国王は一瞬目を見開いたが、すぐに笑顔になり
「あ……あぁ、いいぞ」
快く受け入れた。
(お父さん……か、何年ぶりに言われたのじゃろうか……)
※※※※※※※
「じゃあ王妃様! 次は王妃様の肩を揉んでやるよ」
ミコトはそう言うと、王妃の背後に立った。ミコトと国王のやり取りを横目で見ていた王妃は、ミコトが自分の方にやってきたので焦り出した。
「なっ、何をなさるおつもり!? こっ此方はそのようなことをしていただかなくて……けっ、結構ですわ!」
王妃は強い口調で拒否したが、ミコトは強引に王妃の肩に手をやると
「まぁまぁ、そんなこと言わずに……あ、それは置いといて!」
と言い、王妃が持っていた4個の水晶玉をテーブルの上に置くよう促した。肩を揉まれたら水晶玉を落としかねない……王妃は仕方なく水晶玉を並べて置いた。
「うっ……あぁっ……そっ其方……確かに上手ですわね」
初めは嫌がっていた王妃だったが、しばらくミコトが肩を揉んでやったことで少しリラックスしたようだ。するとミコトは
「アタシね、お父さんお母さんの肩揉んでやるのが好きだったんだよ。いつも苦労ばかり掛けていたから、何か恩返ししたいなって思って……そしたらいつの間にかこうやって、両親の背中を見るのが楽しみになっていたなぁ」
「……そうなの?」
「でもね……知っての通り、アタシ死んじゃってさ……子どもの方が先に死んじゃうなんて、親不孝者だよねアタシ……」
その言葉を聞いた王妃は、肩がビクッと震えた。
「生きていたらもっともっと肩揉んでやれたのに……両親には悪いことしちゃったなぁって思ってる……だからさぁ……あっ、アンティーク! それ貸して」
ミコトは、「これは骨董品ではありません、ちなみに私はアルティーです」と冷静にツッコミを入れたアルティーから自分の水晶玉を受け取ると、それをテーブルに並べられた4つの水晶玉から少し離れた場所に置いた。そして……
「アタシのこと……5人目の子どもだと思ってもらえるとうれしい。アタシはこれから、こうやって国王様王妃様の肩を揉んであげたい……ねぇ王妃様、王妃様のことを……お母さんって呼んでいい?」
王妃は無言だったがしばらくすると、うつむいていた王妃の膝の上にポタッ、ポタッと滴が落ちた。やがてその滴は、王妃の頬を伝わるように流れ落ちた。
「だ……ダメよ」
「……えっ?」
「此方は……母親として失格なのよ……其方の母にはなれません」
「……どういうこと?」
ミコトが尋ねると、肩を震わせた王妃が重い口を開いた。
「あれは5年前、此方は些細なことから第1王女……長女を叱りつけたの。彼女は家を飛び出し、そして後をついて行った妹たちも一緒に魔物の呪いに遭って……生きて帰ることはなかったの」
「……」
「なぜあのとき叱りつけてしまったのか……なぜあのとき引き留めることができなかったのか……思えば思うほど後悔ばかり。この国には、思いを伝えられず死んでしまった子どもは妖精になって生前伝えられなかった思いを伝えに帰って来る……という伝説があるけど、未だにあの子たちは此方の元には……。やはり此方のことを憎く思っておるのでしょう。此方は…………母親失格なのですわ!」
「そっ……そんな事ない!!」
ミコトは声を上げた。
「お母さんって……自分の体内を使って子どもを産んで、自分の体内から栄養を与えて子どもを育てるの! 自分の身を削っているんだよ! だからそれだけで合格なんだよ! それを知っている子どもたちがお母さんのことを嫌いになるワケないじゃん!? アタシは(実の)お母さんが大好きだった! たとえどんなに叱られても……最後はギュって抱きしめてくれるから……」
そう言うとミコトは王妃を、後ろから覆いかぶさるように抱きしめた。
「ミ……ミコト姫……ミコト……さん?」
「もし、その子たちが妖精になったんだったら……アタシが探してやるよ! その子たちも、本当はお母さんと会いたがっているって証明してあげる! だから……もう母親失格だなんて言わないで」
「ミコト……ありがとう」
王妃はミコトの水晶玉を手に取ると、4つの水晶玉の真ん中に置き直した。
※※※※※※※
「よかったよかった……これで王位継承への心配がひとつ無くなったのう! それにしても……うらやましいなぁ」
「何がうらやましいのですか?」
「うわっ!」
ミコトと王妃のやり取りを、鼻の下を伸ばしながら見ていた国王は、アルティーに背後から声を掛けられ驚いた。
「なななっ、何でもないぞ」
「え~、本当でございますかぁ~?」
アルティーはニヤニヤしながら国王に聞いた。よく見ると王妃の背中には、ミコトのたわわに実った胸が押し付けられていたのである。
「そそっ! そんなことより……さっそく王女が決まったことを国民に宣言せねばならぬ! 今すぐ支度を……」
「えっ!?」
国王の「国民に宣言」という言葉を聞いたミコトは緊張した。
(えっ、まさか……アレをやるの?)
続くことを国民に宣言するのじゃ!




