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第26話「城に入るならスペクタクルな方がいい」

「あー、君たち」


 ミコトとアルティーは王宮の前で声を掛けられた。


 王都は高い城壁に囲まれた城郭都市だが、王宮は大きな堀によってさらに市街地と区切られている。王宮に入るためには門の前にある橋を通らなければならない。

 橋の前には2人の門番が立っていた。ミコトたちが橋を渡ろうとしたとき、そのうちの1人に止められてしまったのだ。


「何の用かね? 許可証か身分を証明するものは……」


 と、門番が問いかけると……


「チョベチョベシテッド・ブサラウドーーーーッ!!」

「ぐあーっ!!」


 〝バッシャーン!〟


 ミコトがいきなり門番を殴り飛ばし……堀に落としてしまった。


「なななっ、何をするんですかミコト様ぁああああーっ!!」

「いや、城に攻め込むんだったらスペクタクルな方がいいかなーって……」

「何で『攻め込む』って発想になるんですかーっ! それにスペクタクルとかいりませんっ! しかもここはアナタの城になる場所なんですよーっ!」



 折旗ミコト(おもしれー女)……行動が予測不能。



「おい貴様! 何をする!!」


 もう1人の門番が武器を手に取った。アルティーは慌てて


「あっわわわっ、私たちはこういう者です!」


 と、水晶玉を取り出して見せた。


「おぉ! これはクローベラの水晶玉……ミコト姫様でいらっしゃいましたか、これはとんだご無礼を……」


 とんだご無礼をしたのはミコトの方なのだが……。どうやらアルティーが見せたのは王家の証しとなる水晶玉のようだ。


「ところで、あの門番はどうなった?」


 〝バシャッ、バシャッ〟


 〝ズブズブズブ……〟


 〝……〟


 鎖帷子(チェインメイル)を着ていた門番は、重すぎたためそのまま沈んでいった……。


「うわぁ! マズいマズいっ!!」

「はっ早く助けましょう!!」


 2人は「ササッケース」という魔法を使って沈んだ門番を探し出した。そしてアルティーが「ツルサレーシ」と呪文を唱えると、手から緑色に光るロープのような物が飛び出し、門番はそれにぶら下がり救出された。



 ※※※※※※※



「お待ちしておりました。ミコト姫様と、従者のアルティー様でございますね?」


 門をくぐると城の使用人と思われる男性が出迎えに来た。玄関まで案内されたところで使用人が突然、


「すでに国王様は今か今かとお待ちですが……ミコト姫様、大変申し訳ございませんがそのお召し物で国王様とお会いさせるワケにはまいりませぬ。なので建物に入られましたらまずはドレスにお着替えくださいませ」


 ミコトにドレスの着用をお願いしてきた。


「えっ、この格好じゃダメなのか? コタルディですら面倒くさいのに……」

「ミコト様、国王様にお会いになられるのですよ。ガマンしてください」


 ミコトとアルティーはヒソヒソと話していた。だが使用人から、



「それにしても……()()()はずいぶんと衣装が汚れておられますな」



 と言われ2人は顔を見合わせた。


「……え?」


 実は衣装が汚れていたのはミコトの方である。馬●を踏み、裾を自らハサミで切り刻み、サレマーオやじゃがいも警察をブン殴り、激辛スナックの食べかすをこぼしたり……まぁ無理もない。

 一方のアルティーも、ノシーレの攻撃からミコトを守った際に汚れたはず。だがそこは天使……聖なる者は汚れを寄せ付けず、衣装はキレイなままなのだ。


「ささっ、こちらの侍女がご案内いたしますのでどうぞ別室へ……」


 使用人がそう促すと、侍女が


「ミコト姫様、どうぞこちらへ!」



 と言って…………()()()()()()連れ出そうとした。



 どうやら衣装のみすぼらしさから、ミコトが従者だと思われたようである。


「えっ、ちょっと待ってください! 私は……」


 事態を把握したアルティーは誤解を解こうとした。だが使用人たちは完全にアルティーをミコトだと思い込んでいたので聞き入れる気配がない。


「ミッミコト様! 助け……」



(あ゛っ……ダメだこの人、味方じゃない!)



 アルティーはミコトの顔を見た瞬間、諦めの境地に達した。ミコトは思いっきりニヤケ顔をしていて、この状況を心の底から楽しんでいる様子……もう彼女(コイツ)に何を言っても無駄だと悟った。


 ミコトはアルティーに向かって


「じゃあねー、()()()()さまぁ~! 素敵な王女様になるんだよぉ~!」

「はっ、薄情者ぉおおおおっ!」


 涙目になったアルティーは、そのまま王族専用の衣裳部屋に連れていかれた。


「さて、従者様! 従者様もさすがにその格好で国王様とお会いになるワケにはまいりませぬ。従者様もお着替えになられてくださいませ」


 使用人はそう言うと、ミコトを召使いの控室へ連れて行った。


「従者様! 大変恐縮ではございますが、あいにく今は召使い用の制服しかございませぬゆえ……新しい衣装が仕上がるまでしばしの辛抱をいただけたらと……」

「あぁいいよ! 本当はジャージが楽なんだけどな」



 ※※※※※※※



 従者(アルティー)と間違えられたミコトは召使い用の制服に着替えた。


「では従者様、ミコト姫様のお着替えが済むまでこちらでしばしのご休憩を……」

「オッケー! わかったよ」


 ミコトは1人、召使いの控室で待機していたが……


(ヒマだな……アイツ、まだ着替えてるのか)


 思いのほか時間が掛かり退屈していた。


「スマホも使えんし……しゃーない、何か食うか……モチニーク」


 ミコトが取り出したのは「スフレ・プリン カフェラテ(にゃて)」だ。


「何これ、おいふぃー! 上のスフレはしっとりしていてカフェラテを食べている感覚……その下のホイップやキャラメルソースと合わせると味変して美味! さらになめらかなプリンはカフェラテの香りが口の中いっぱいに……って。う~ん、アイツみたいに可愛く表現できねぇなぁ」


 ミコト……アルティーが放つ「無自覚のカワイイ」を思い知らされる。


「あーもう食い終わっちまった! やっぱヒマだなぁ……ちょっと部屋から出て城内でも探索してみっか! 何かダンジョン攻略するみてーで楽しそうだ」


 やはりミコト(コイツ)には大人しく待機……などという行為は無理であった。控室を出ると、目的もなく城内をぶらぶらと歩きだした。


 しばらく歩いていると、


「ん? 何か美味そーな匂いがするなぁ」


 つい今しがたスフレプリンを食べたばかりであるが、ミコトは食べ物の匂いに導かれるように足を進めた。すると


「おい、何やってるんだ! そんな所で」


 振り返ると、そこにはミコトと同じような服を着た中年男性が立っていた。

スペクタクルに続きます。


※用語解説【ササッケース・ツルサレーシ】

甲州弁で、無くした物をひっくり返したりして探すことを「ささっけえす」と言います。私はこの方言を使ったことがありません。

同じく「ぶら下がっている」は「つるさってる」と言います。この方言は私も使ったことがありますが、「ぶら下がりなさいよ」と命令するシチュエーションは日常生活でほぼあり得ないので「つるされし」という言葉は使わないと思います。

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