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第20話「オマエ……アタシの『コレ』が欲しいのか?」

「なぁ、追いかけたり面倒くさいヤツ相手にしてたらお腹空かないか?」


 青髪のレーデンツと別れたミコトがアルティーに話し掛けた。


「今から王宮で食事会もあります。できれば控えてください」

「えーっそれって()餐会だろ? 時間あるじゃん!」

「晩餐会じゃありませんよ! 異世界の時代設定(中世ヨーロッパ)で、一番豪華な食事は昼食です」

「そうなの?」

「そりゃそうでしょう……電気の照明がない異世界(中世)では、人々は日没とともに眠りに入るのです。夕食はあることはありますが質素なものですよ」

「そっそうなのか!? でもまぁいいじゃん……モチニーク!」


 ミコトは異空間からスナック菓子を取り出した。


「スイーツじゃないんですね……」

「あのなぁ! アタシだっていつもスイーツばかり食ってるワケじゃねぇよ! ポリッポリッ……あぁうめぇ」

「もうっ! ミコト様、食べない方が良いと言いましたよね!? そんなに食べたら転生前の体型になってしまいますよぉ~!」


 と、アルティーはミコトをからかいつつも物欲しげな顔をしていた。


「おぅ、オマエも食うか?」

「あっはい♪」


 ミコトはアルティーに、スナック菓子の()()()()()()に中身を取らせた。


「いただきまーす! ぱくっ」


 すると、2~3回噛んだところでアルティーの顔色が一気に変わった。


「う゛げっ……何ですかコレ……辛っ! メッチャ辛いぃいい!」


 アルティーがパニくっていると、ミコトがニヤリと笑った。


「何って……これだよ」


 ミコトはスナック菓子の包装を見せた。それは、コンビニではお馴染みの「激辛スナック」だった。


「ひぃっ!」


 あまりの辛さにアルティーは涙目になった。


「ふっふっふっー、引っかかったな! さっきの『コーシューハッチンカー』の恨み……アタシが忘れたとでも思ったか!?」


 折旗ミコト……ヘビのように執念深い。


「ふっふぇえええん! いふら何へもこれふぁひどふぃでふぅうう!」


 口の周りが真っ赤になったアルティーはついに泣き出してしまった。


「おっおい泣くなよ! わーった、やりすぎたよ!」


 焦ってモチニークを使うことすら忘れたミコトは、激辛を和らげる牛乳を探したが売っていない。するとアルティーが、


「そこに聖水を売っていまふ」

「聖水? 水はダメだろ?」


 唐辛子を食べたときに水を飲むと、辛さが口の中に広がり逆効果である。だが、


「その聖水ふぁ体の不調を取り除きまふ。薬草のようなものでふ」

「そっそうなのか……わかったよ」


 2人が訪れたのは「幸せな飲み物の店」という看板が掲げられた無人の店だ。


「何これ? もしかして自販機?」

「はい、自動販売機の元祖は古代エジプトの聖水販売機と言われていまふ。この国でも改良を重ねた物があるんでふ」

「改良って……これ元いた世界にある機械(ヤツ)と変わんねーじゃん!」

「薬効のあるのはこの『ラムーユの聖水』でふ。本来は温めてお風呂に入れると良いのでふが……」


 ミコトはアルティーからコインを借り、投入口に入れようとした。そのとき……


「「あっ……」」


 同時にお金を入れようとした男がいて、手が触れてしまった。



 その男とは……そう、青髪の『レーデンツ』だ。



「何してるんだよ!?」

「オッ、オレはさっきオメーとぶつかって痛みが残るからラムーユの聖水を買いに来たんだよ! べっべべ別にオメーを見かけたからこっ、ここに来たワケじゃねーからな! かっ勘違いすんなよ!」



 ……明らかに不自然。



 この男、イケメンじゃなければ完璧にストーカー認定だ。


 このような「偶然の再会」は、恋愛モノでは定番のシチュエーションだ。このとき、恋愛に疎いミコトでもさすがに気が付いたようである。この男、もしかしてアタシに気があるのでは……と。



(この男、アタシが犯人扱いしたのをまだ根に持ってやがるな……)



 前言撤回……やはりこの女は恋愛に疎かった。


「何が目的だ……」

「えっ!?」

「オマエが欲しいのは何だと聞いているんだ!」

「えぇ!? ちょっ待てよ! いきなりそんなこと直球で聞かれても……」



 ※レーデンツ=ミコトが欲しい(付き合いたい)と思っている。

 ※ミコト=レーデンツが謝罪または金品を要求している……と思っている。



 あいにくミコトは金品を持ち合わせていない……持ち物は全てアルティーに預けている。だが、ミコトはあることに気が付いた。


「あぁそうか! オマエ……アタシの『コレ』が欲しいのか?」


 というとミコトは、たわわに実った自分の胸を指差した。その言葉を聞いたレーデンツは顔を真っ赤にしたが、ツンデレの性格なので


「えっえええっ! ちげーよ! そっそんなん欲しくねーからな!」

「えー、何だよー! せっかく『食わせてやろう』って思ったのにぃ♥」

「おおおおいっ! 何だよ食わせるって……オッオメー何考えてるんだよ!?」


 いきなり積極的になった(?)ミコトに対し、レーデンツのツンデレモードは全開だ。しかし「据え膳食わぬは男の恥」ということわざもあるので……


「わっ、わかったよ! オメーがそんなに言うんだったら……そっその……オメーのソレとやらを……食って……やろうじゃねーか!」

「ホント!? うれしい! じゃあ目ぇつぶって、口を大きく開けて……」


 口を大きく開けて……って!? コイツ、いきなり自分の乳房(おっぱい)を口に押し込む気か? とんでもねー変態痴女じゃねーか! レーデンツはかなり動揺したが、ここまで来てしまったら……と覚悟を決めた。


 そして……ミコトはレーデンツの口いっぱいに押し込んだ……


 乳房(おっぱい)ではなく……



 先ほどアルティーが悶絶した『激辛スナック』を……




「くぁwせdrftgyふじこlpあzsxdcfvgbhんjmkkkk!!」



 レーデンツの口から言葉にできない絶叫と、何か熱そうなモノが噴き出した。


「おぃオマエ! せっかく買ったんだから聖水(コレ)持って帰りなー!」

「んーっ! んぐーっ! んぐーっ!」


 さっきとは違う理由で顔が真っ赤になった青髪のレーデンツは、聖水を持ってどこかへ消えてしまった。


「ばいばーい! もう2度とアタシの前に現れるなよー!」


 ミコトは満面の笑みでレーデンツに手を振っていた。聖水を飲んで口内を治していたアルティーは、そんなミコトを見て


(絶対にこの人を敵にしてはいけない……悪魔だ)


 と、心に誓うのだった。


「くぁwせdrftgyふじこlp」

↑(訳)「まだまだ続くからなー!」


※用語解説【ラムーユの聖水】

甲府市北部にある温泉郷、「甲府湯村温泉」……現在は「信玄の湯 湯村温泉」と名称を変えているそうです。一部の旅館・ホテルで飲泉ができます。


激辛を緩和する作用があるかどうかは試したことがないのでわかりません。乳製品を摂る……等の方法をお勧めします。

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