第2話「アナタに恋愛をしていただきたいのです」
「ん……ここは?」
折旗ミコトが目覚めるとそこはベッドの上だった。
ミコトはベッドから起きると周囲を見回した。そこはまるで●●高原のペンションのような、旅好きリア充アピールク●女がこぞってイ●スタに画像をアップしそうなヨーロッパ風のお洒落な部屋だった。だが、どことなく中世を思わせる古めかしい感じでもあった。
すると、まだ状況がつかめていないミコトの背後から
「お目覚めになられましたか、折旗ミコト様……」
「うわっ! 誰だオメーは!」
いきなり声を掛けられ驚いたミコトが振り返ると、そこにはミディアムストレートの美しい銀髪で全身に白い衣装をまとった、見た目が女子中学生のような可愛らしい子が立っていた。
「あっ、驚かせてしまい申し訳ございません! 私は女神さまの命により今日からミコト様のお供を仰せつかった天使のアルティーと申します」
「3人組のおっさん……」
「ジ・アル●ィーではありません」
「で、ここはどこなんだ? アタシは……これって『転生』なのか?」
「はい、ミコト様は女神さまのお導きにより転生されました。ここは『陸亀の宿』と申しまして、異世界から転生された者が最初に目覚める場所でございます」
と言うとアルティーと名乗る天使はニッコリ微笑んだ。
「異世界? あぁそっか、異世界から見たらアタシがいた方が異世界か……っていうか何でアンタと普通に会話できてんの?」
「ミコト様、すでに貴女にはいくつか能力が与えられております。そしてその中のひとつ、チャクーイの魔法によって私……そして異世界の人間とは普通に会話できるようになっております」
「何? 魔法使えんのアタシ……そっか、転生ボーナスは魔法だったのか!」
「えっ、転生ボーナ……ス?」
突然、目を輝かせて喜ぶミコトに天使のアルティーはたじろいだ。さらにミコトはアルティーの手を握ると
「なぁなぁ! これってチート能力なのか? だったらスゲーよ! 他にどんな魔法が使えんだ!? なぁ教えろよ」
「あっいえ……この世界の住人は誰でも魔法が使えまして……」
「え……何だって!?」
アルティーの言葉にカチンときたミコトは握った手に力を入れた。
「イタイイタイ! あっ……でもミコト様はそのお立場ゆえ、他の住人より魔法の力も手数も多くなっておりますぅぅぅっ!」
するとミコトはパッと手を放し
「なぁんだ、チートかと思ったらLv.3くらいか……まぁ世の中そんな甘くねーってことか! まぁいいや、いっちょ異世界でもやってやるか!」
大した転生ボーナスはもらえなかったが、それでもミコトは異世界で頑張っていこうと心に決めたようだ。意外とプラス思考である。
「でさぁ、テンシン飯! もうひとつ聞きてーんだけど……」
「私はカニ玉をのせたご飯じゃありませんよ!」
「アタシはこれから何すればいいんだ? まぁいきなり魔王ってワケにはいかねーだろうから……剣の修行? 魔法のレベルアップ? それとも……お金貯めてパーティー作るのか?」
「えっ、えっ!? おっしゃってる意味がよくわかりませんが……」
ミコトの言葉にアルティーは困惑していた。
「えっ、だって異世界だろ? 魔王倒すために呼ばれたんだよなアタシ……」
「いいえ、違います」
「……えっ」
違いますと言われて動きが止まったミコトに対して、呼吸を整えたアルティーが諭すように説明し始めた。
「ミコト様、この国にはそのような物騒な者は存在しません……一応、軍隊はありますがとても平和な国でございます」
「えっ!? じゃあ何でアタシが……」
するとアルティーは満面の笑みでこう告げた。
「それは……アナタに恋愛をしていただきたいのです」
まだ続くと思います。
※用語解説【チャクーイの魔法】
甲州弁で「ずるい」ことを『ちゃくい』と言います。子どもがゲームなどで遊んでいるとき、姑息な手段を使うと、「あー! おまん、ちゃくいこんしちょー!」と、他の子から言われることがあります。
チートという言葉がありますが、これは「最強」という意味ではなく正しくは「騙す」とか「不正」、「ズルをする」というのが語源のようです。なので「チート」は甲州弁で「ちゃくい」と言います……たぶん。