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第19話「オッオレの名前はレーデンツだからな!」

「アイタタタ……」


 王都の市場でひったくり犯を追いかけたミコトは、見通しの悪い角を曲がったところで青い髪をした騎士風の男とぶつかり倒れてしまった。


()ってぇなーオメー! 何すんだよ!?」


 同時に倒れた青髪の男は、上体を起こすといきなりミコトを怒鳴りつけた。だがミコトは怒鳴られたくらいで萎縮するような女ではない。


「はぁ? そっちからアタシにぶつかってきたんじゃねーか!」

「なっ何だって!? べっべべ別にオメーに()()()()()()()こっ、このタイミングを狙った……ワケじゃねっ……ねーからな!」

「んなことぁわかってるよ……えっ?」


 ぶつかりたくてこのタイミングを狙ったワケじゃない……普通はそうだろう。だがこちらから何も聞いていないのに、自らそのようなことを言う必要があるのだろうか……ミコトはこの男の発言に違和感を覚えたが、今はひったくり犯を捕まえるのが最優先だ。


「マズい! ひったくり犯が行っちまった……おいアンタ! どうすん……」

「オメーが取り返したかったのはこれか?」


 そういうと青髪の男は巾着袋をミコトに差し出した。


「えっ、それって……?」

「あぁ……前から慌てて走ってくるヤツがいて、しかもその後ろから待てコラとか威勢のいいねーちゃんの声が聞こえたからな……怪しいと思ってその男を止めようとしたら殴りかかってきたんで、返り討ちにしてやったんだが……」


 ミコトが角を曲がった先を見ると、ひったくり犯と思われる男がぐったりと仰向けに倒れていた。


(うわっすげぇ、あの短時間で倒したのか?)


 するとハァハァと息を切らして、ひったくりに遭った老婆がアルティーに付き添われてようやく追いついた。


「お婆ちゃん! 取り返したよ……これかい?」

「あぁそれです! ありがとうございます」


 老婆に感謝されたミコトは、ニコッと微笑むと青髪の男の腕を掴み、


「あっ、あと犯人も捕まえたから! 自警団にでも突き出していいよ」

「おっおい! オレじゃねーぞコラァ!!」



 ※※※※※※※



「だからさぁー、冗談だってぇー!」

「冗談でも言っていいことと悪いことがあるからな!」


 曲がり角にはミコトとアルティーと青髪の男の3人が残っていた。


 このときすでに老婆は3人にお礼を言いその場を去っていた。ひったくり犯は街の(顔がじゃがいも……ではない)自警団に連れていかれた。

 そして、ミコトのシャレにならないジョークで機嫌を損ねた青髪の男を見たアルティーは顔が引きつっていた。


「それにしてもすごいなアンタ! あのひったくり野郎を1発KOなんて……」

「そっそうか……いや、べっ別にこんなの大したことねーよ!」


 ミコトに褒められた青髪の男は、一瞬まんざらでもない表情をしたがすぐに不機嫌そうな顔になって否定した。


「いやでも助かったよ、あのままじゃ逃げられるところだった」

「べっ、べべ別にオメーに感謝されるためにやったワケじゃねーからな!」

「あぁ……そう……」


 ミコトは青髪の男に「ありがとう」とお礼を言おうとしたが、先にそのようなことを言われてしまったのでお礼を言う気が失せた。同時に


(何かコイツめんどくさそうだ……)


 と思い始めた。面倒くさそうな青髪にペースを乱されそうになったが、


「ところで……アンタ名前は?」

「べっ、別に名乗るような者じゃねーよ!」

「あっそ、じゃあ聞かない」

「おっおい聞かねーのかよ! あっさりし過ぎじゃね!?」


 そこは折旗ミコト……このような相手にペースを乱されるような女ではない。


「てって言うかオメーよ、他人の名前聞く前にまずは自分から名乗らねーか?」

「アタシ? 別に名乗るような者じゃねーよ!」

「あっ……そっ、そうか……」


 こうして2人はどちらからも名乗ることはなく、お互い「名前も知らない人」として街の中に消えていくのであった……。




     【完】




「いや終わってねーからな!!」




     【続行】……めんどくせーなおぃ!




「わーったよ、言うよ! オッオレの名前はレーデンツだからな!」


 ようやく名乗った……名前を言うだけでどれだけの字数を使わせるんだよ!?


「そっか……アタシの名前はアンジェ●ーナ・ジョリー……」

「ミコト様、ウソはいけませんよ」


 すかさずアルティーのツッコミが入った。


「アタシは折旗ミコトだ!」

「そっそうか……だがな! お互い名乗ったからと言ってそこから恋愛に発展するとかそんなこと……ぜ、ぜってーねーからな!!」


「ん? あぁ、そんなこと1ミクロンも思ってねーけど……」


「えっ、あっ……おっ、思ってねーのかよ! そっか……」


 思いのほか冷静な反応をするミコトにレーデンツは戸惑っていた。彼の頭の中では、ミコトが頬を赤らめて「何よそれー!? アタシだってそんなこと思ってないもーん! フーンだ!」という反応を期待していたようだが思惑が外れた。


 そう、読者の大半は気が付いていると思うが……



 ――この男、『ツンデレ』である。



 だが今、レーデンツが対峙しているのは折旗ミコト……相手が悪かった。この女にツンデレなどという概念は存在しない。レーデンツは見事な空振りで終わった。


「じゃあ、アタシたちは用事があるからこれで……」

「えっ……あぁ、じゃあな」


 ミコトとアルティーは、レーデンツの元から去って行った。レーデンツの足元には〝ヒュゥゥゥ〟と風が吹き枯れ葉が1枚舞っていた。


 そっか! 枯れ葉が舞ったり「コーシューハッチンカー」が実っていたのだから異世界の季節は「秋」だったのだ。でも異世界と現実世界は必ずしも季節が一緒とは限らない……作者はつじつまを合わせようと必死になった。



 いやいや、それよりも……レーデンツの出番はこれで終わりなのか?

まっ、まだ続くからな!

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