第15話「コイツは裸の王様だ!」
「我か? 我の名は……シルナートス」
街中を散策していたミコトとアルティーは突然、女性たちとバラの花(を身に着けた黒衣)に囲まれた金髪イケメンに呼び止められた。
「で、一体アタシに何の用?」
ミコトに聞かれたシルナートスと名乗る金髪ロングのイケメンは、おもむろに白いハンカチを取り出し、
「お嬢さん、ハンカチ……落としましたよ」
そう言うとミコトの手にハンカチを差し出した。
ちなみに……じゃがいも警察が巡回する前に説明すると、ハンカチの規格を正方形に統一したのは18世紀のマリー・アントワネットだが、ハンカチそのものはエジプト文明の頃から存在していたそうだ。
「あっ、それアタシのじゃないから……」
恋愛マンガに出てきそうなベタな出会いをミコトは一蹴した。
「ええっ、そんなことはない! このような上品なハンカチ、貴女のような高貴なお方でなければお持ちにならないでしょう」
「いやいや、それ……オマエが仕込んだんだろ?」
「えっ!?」
「だってアタシ……ハンカチなんて持ったことないもん」
ミコトの一言に、シルナートスだけではなく隣にいたアルティーも引いた。
「えっミコト様、普段手を洗ったときどうされて……」
「どうって? こうやって服で」
ミコトは自分の衣装を使って手を拭くジェスチャーをした。
「……はぁーっ」
この人には王家としての心得を教える以前に、人としての心得を教えなければいけない……アルティーはそう確信した。
この時点で脈がない、つーかこの女やべーな……と、普通の男ならミコトにアプローチするのを諦めるだろう。ところがこのシルナートスという男は違っていた。
「お嬢さん!」
シルナートスはミコトに一気に近付くと、いきなりミコトの髪を触った。そして
「芋ようかん……髪に付いていましたよ」
……こいつもやべーやつだった。
「おい、そこは芋けんぴじゃねーのかよ? つーか芋ようかん髪に付いてたらいくら何でも気が付くわ……完全に仕込みだろ! しかもなぜか異世界で舟●の芋ようかんって……何なんだオマエは一体?」
「これは失礼! 貴女があまりにもお美しいのでつい……」
「あっそ、そりゃどーも」
折旗ミコトに「美しい」という誉め言葉は刺さらない。なぜなら転生前の「デブス」姿が一番のお気に入り……美醜には全く興味がないのだ。
「貴女はとても美しい……ただし! この国では2番目だ」
「オマエは快傑ズ●ットか!」
作者……昭和生まれを逆手にとって若者に伝わらないネタをぶっこむ。
「申し訳ないが、この国で1番美しいのは我だ。貴女は2番目に美しい……そこでどうだろう、この国で1番美しい我と2番目に美しい貴女が一緒になればこの国で最も美しいカップルが誕生するのだが……」
「モグモグ……はぁ? 言ってる意味がわからん」
ミコトは●和の芋ようかんを食べながら、間違いなくその辺のキャッチセールスより面倒くさいシルナートスという男にイラ立っていた。
「あぁ……少し表現が難解過ぎただろうか?」
「いやそーゆー意味の『わからん』じゃねーし」
「つまりだな、この国で1番美しい私には2番目に美しい貴女が1番相応しいというのが1番の理由で2番目には……」
「余計にわからん! てゆーかオマエ! さっきから自分が美しいとか言ってるけどな、ぶっちゃけ言うほど美しくないからな!」
「何ですと!?」
ミコトから「美しくない」と言われてシルナートスは顔がこわばった。
「我が……美しくないだと? ははっ……何かの聞き間違いだろうか?」
「いやマジでオマエは美しくねーから」
「2度も言ったね! 父上にも言われたことないのに!!」
シルナートスは顔面蒼白となり、体がプルプルと震え出した。そして、
「オラント! オラントはおらんか!?」
偶然なのかダジャレなのかわからない口調で誰かを呼んだ。するとシルナートスを囲んでいたバラの背景から1人の黒衣が分離した。
「はい、シルナートス様」
シルナートスの前に出てひざまずき黒い頭巾を外したのは、ミディアムボブの黒髪で目が少しつり上がった美少女だ。よく見るとバラをまとっている衣装は黒衣ではなくメイド服……どうやらこのオラントと呼ばれた少女はメイド長らしい。
「オラント……そして皆の者! この国で1番美しいのは誰か? 言ってみよ」
「それは、シルナートス様でございます。私たちはシルナートス様が1番……お美しいと信じております」
続けてバラの花(をまとったメイドたち)が
「「私たちはシルナートス様が1番……お美しいと信じております!」」
と、復唱した。だがこのときミコトはあることに気が付いた。
(あれ? コイツら『お美しい』って言う前に一瞬、間があったな……)
メイドたちから「美しい」と言われシルナートスの震えは治まった……どうやらこの男、承認欲求がかなり強いようだ。現代社会なら間違いなくイン●タを始めて「いいね!」やフォロワーを稼ぐためにどんなヤバいことでもやるタイプだ。
そこでミコトは、ひざまずいているオラントというメイドの肩に手を添えると、シルナートスに気付かれないようボソッと
「……辛いだろ?」
と声を掛けた。するとオラントの肩が「ビクッ!」と反応したのだ。この反応にミコトは確信した。
(間違いねぇ! コイツは……『裸の王様』だ!)
それは、続くのでございます。
※用語解説【オラント】
「あの人たち」を「あのしんとう」、「あなたたち」を「おまんとう」……と、甲府盆地周辺(国中地域)では「~たち」を「~とう」という言い方をします。
「私たち」は「おれんとう」「おらとう」「うらんとう」と地域によって若干の違いがありますが、「西郡」と呼ばれる地域では「おらんとう」という人が多いそうです。
(※参考文献・五緒川津平太 著「キャン・ユー・スピーク甲州弁?②」樹上の家出版)




