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第13話「おもしれー女」

 

「チョベチョベシテッド・ブサラウドーーーーッ!!」



 ウザ絡みしてくるサレマーオをブン殴ろうとミコトが打撃系強化魔法の呪文を唱えると、ミコトの腕まわりに稲妻のような光が現れた。

 ミコトは、サレマーオの190センチ以上ある長身から振り下ろすように繰り出された右ストレートをかわすと、今度はサレマーオのアゴを狙って右アッパーカットを食らわせた。


「んごおーっ!!」


 魔法で強化された一撃にサレマーオは上空へ吹き飛ばされていった。身体はものすごい勢いで宙を舞い、そのまま空の彼方まで飛ばされると〝キラーンッ〟という音とともに星となって消えてしまった。でもさすがに「ばーいば●きーん!」とまでは言わなかったが。


「ふぅ……」


 通行人たちが唖然としている中、ウザい赤髪俺様男を「退治」したミコトは満足げに「オジラーの聖水」を飲んで魔力を回復させていた。そこへ天使のアルティーが血相を変えて近付いてきた。


「なななっ、何てことするんですか!?」

「えっ、何が?」

「あの魔法はメチャクチャ強力だから手加減してって耳打ちしましたよね?」

「だってアイツさぁ、ウザすぎるから全力で潰したかったんだもん」

「あのお方が誰だかわかっているのですか!? もう、どうなっても私は知りませんよ! だいたいアナタに魔法を使わせるとロクなことをしませんよね~! こうなったらミコト様には魔法を使わせないよう私が……うぐっ!?」

「ほれ、約束のモンだ」


「ふぐっ、ふにゅっ……んんんん~っ! 何これおいふぃいいいいっ!!」


 ミコトがアルティーの口に入れたのは「ふわもちレアチーズどら」だった。


「こっ……この白くてもちっとしていながらもふんわりとした生地に、ちょっと酸味のある爽やかな甘みのレアチーズクリームがたっぷりと……こっこれはどら焼きじゃありません! 新感覚スイーツでふぅううううっ! ほわぁああああっ! おいふぃいいいいっ!」


 折旗ミコト……天使の操縦スキルを習得する。



 ※※※※※※※



 ミコトとアルティーがその場を去ってしばらくすると、倒れていたサレマーオがむくっと起き上がった……あれ? この人確か星になったんじゃ……?


「くそぉ……あの女……」


 サレマーオは地面に座り込んだまま、殴られたアゴをさすっていた。


「サレマーオさまぁああああっ!」


 そこへ、ものすごい勢いで執事風の中年紳士と護衛の兵士と思われる男たちが走り寄ってきた。


「はぁ、はぁ……突然いなくなられたのであちらこちら探し回っておりましたぞ」

「何だジョッケか……よくここだとわかったな」


 どうやら執事風の男はジョッケという名前のようだ。


「街の者に聞いたところ、何やらマーフーン通りでいざこざがあったと……で、もしやと思い参りましたところやはり、というか……」

「何だよ、人をトラブルメーカーみてぇに」

「サレマーオ様は一体何をされて……うわっ、何と汚い! 今から大事な会合があられるというのにそのお姿……すぐに着替えなされませ」


 サレマーオの衣装は、踏んだり蹴ったり●●が付いたりしてボロボロになっていた。ジョッケはハンカチを取り出すと()()()汚れを(ぬぐ)いだした。


「会合? 何だそれ?」

「何だそれじゃございませぬ! 本日は王宮にて新しく王女となられる姫様との謁見の儀がございまする! 今後、姫様と婚姻関係になられたあかつきには連合王国の代表……王の中の王つまり『皇帝』となられるのですぞ」

「あぁそれか……ジョッケ! 元々俺様はそんな政略結婚に興味ねぇんだ! だからよぉ、久しぶりに王都へ来たから何かおもしれー事ねぇかなぁって街をブラついてただけだ!」


 それを聞いたジョッケという執事は声高に、


「何をおっしゃられるのですか! 貴方様には是非とも皇帝の座についていただきたく……そうすれば我が東ゴーリ国も安泰でございまするぞ! もう少しご自分の立場をお考えくだされ……()()()()()()()!」


 そう……このサレマーオという男は、ボンチコーフ連合王国を構成する4つの国のうちの1つ「東ゴーリ国」の王子である。だが……


「なぁジョッケ、お前に頼みがある」

「……何でございましょう?」

「ある女を探して欲しい……かなり『おもしれー女』だ」

「は?」

「決めたぞジョッケ! 俺様はあの女を嫁にする! しかも第1夫人……正妻としてだ! あの女は俺様の壁ドンにも全くなびかなかった! それどころかこの俺様をブン殴りやがって……でも見た目はなかなかの上物(イイ)女だ。俺様はあの女を嫁に従えて、一生この俺様に頭が上がらないようにしてやる!」


 サマレーオ……正義感は強いが男尊女卑傾向の強い自己中俺様系男である。


「なななっなりませぬぞ王子! めかけならまだしも正妻などと……」

「いいから早く探してこい! まだこの街にいるハズだ! 名前は『ミコト』というらしい」

「えっ、今何と……?」

「ミコトだ! オリハタミコトという名前だ」


(もっ、もしかして……)


 ジョッケという執事風の男は、どうやらこの名前に心当たりがあるらしい。


「王子、でしたら人探しは我々に任せて王子は王宮に向かわれてくだされ。それと……その『ミコト様』という女性、意外と早く見つかるやもしれませぬ」

「何だジョッケ、えらい自信だな? まぁ頼んだ……では参るぞ!」

「王子! その前に新しい衣装へお着替えと……鼻血をお拭きくだされ」


(おもしれー女だったぜミコト! 俺様はお前をぜってぇモノにしてやる!)


 サマレーオは護衛の兵士を従え王宮に向かっていった……もちろんこの後ミコトと再会する「お約束(テンプレ)」など知る由もなかった。

まだ続きますぞ!


※用語解説【ジョッケ】

甲州弁で「左利き」のことを「じょっき」と言います……ビールを注ぐグラスのことではありません。

ただしこの言葉は山梨全体で使われているワケではなく、主として「国中」と呼ばれる甲府盆地のある地方で使われています。しかも、「じょっき」「じょっけ」と2種類の方言が混在しており、主に「東郡ひがしごおり」と呼ばれる地域で「じょっけ」が使われているそうです。


(※参考文献・五緒川津平太 著「キャン・ユー・スピーク甲州弁?②」樹上の家出版)

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