第11話「俺様の名はサレマーオだ!!」
「俺か? 俺様の名は……サレマーオだ!!」
王都の街に降り立ったミコトとアルティーは、ジャガイモ警察という謎の組織に連行されそうになった。だが抵抗したミコトに対し、警察官が警棒を振りかざし殴りかかろうとしたところをある男(イケメン)によって止められたのだ。
「何をするのじゃが! 君はなぜ我々の邪魔をするのじゃが?」
「はぁ? ていうか貴様らこそ何者だ?」
「わ……我々はジャガイモ警察なのじゃが! 我々は正しい知識を伝えるために虚偽の史実を是正し……って君! 本官の手を放すのじゃが! 痛い痛いっ!」
サレマーオと名乗る男は、片手で警察官の手首を掴むとそのまま一気に持ち上げた。サレマーオは見た目が190センチ以上ある長身……警察官は吊るされた状態になり、足をバタバタさせていた。
「わーったよ! ほれ、放してやるよ」
と言うとサレマーオは、まるでゴミの入った袋を投げ捨てるように壁へ向かって警察官を放り投げた。
「きっ君! この様な侮辱は許されないのじゃ……」
〝バンッ!〟
「ひぃっ!」
警察官が壁に寄り掛かりながら上体を起こしたところへ、サレマーオが蹴りを入れてきた。蹴った足は警察官の顔面すれすれの所を通り壁で止まったが……壁には大きなヒビが入っていた。
「やかましい! 貴様……茹でて裏ごしして牛乳とバターで味付けしてマッシュポテトにしてやろうか?」
「ひぃっ! 本官は牛乳アレルギーじゃがらそれだけは勘弁じゃが……」
(おいおい、茹でて裏ごしはいいのか?)
ミコトは心の中でツッコミを入れた。
サレマーオは警察官の顔面ギリギリに足を置いたまま、殺気立った様子で警察官を睨みつけた。あまりの殺気に他の警察官も手が出せないでいた。
「さっきから聞いてりゃ何なんだぁ? 中世ヨーロッパの史実ってよぉ? 確かに似てるがココは異世界だ! 貴様らが言う中世でもヨーロッパでもねぇ……別にどんな設定だろうが構わねぇじゃんかよぉ」
「じっ……じゃが異世界といえども同じような背景で描いている以上、嘘を書いては……ひぃっ!!」
警察官の顔面近くに再びサレマーオの蹴りが飛んだ。
「ほぉ、嘘は書くな? じゃあ貴様に聞くがな……SF小説ってあるだろ? アレに出てくるワープとかタイムリープとか……あんなの現実にはありえないよな? あれって嘘だよな? 嘘を書いてるよな!?」
「じ……じゃが……」
「貴様らの論理が通るんだったらSF小説は全て発禁だよなぁ……貴様ら、そんなに嘘や間違い設定を指摘したかったら同じことを小松左京や星新一にやってみろ……できねーよなぁ? 要するに貴様らは半分素人の『なろう作家』が相手だからマウント取れると思ってんだろ! つーか貴様らはそもそも間違いを正すのが目的じゃなくて、単に世界史の知識をひけらかしたいだけじゃねーのか……あぁっ!?」
「じゃが……じゃが……じゃがじゃがじゃがじゃじゃーん!」
「じゃがじゃがうっせーなぁ、ア●ガールズかよ……ってゆーか」
サレマーオが今度は警察官の胸ぐらを掴んだ。そして反対側の手で警察官の持っていた「ある物」を指差すと……
「コレって……ホイッスルだよな? 確かホイッスルって、中世には存在してねぇよなぁ? 何だよ……貴様ら自身が設定を無茶苦茶にしてんじゃねーか!」
サレマーオは拳を高く振り上げた! 素手でマッシュポテトを作りそうだ。しかしジャガイモ警察官をすりつぶす……もとい、殴ることなく解放した。
「いいか、ここは『異世界小説』だ! 史実の間違いを指摘したかったら『歴史小説』でやれ! 異世界は自由な場所だ……ただの人間や異世界人じゃなくても宇宙人、未来人、超能力者でもいいからドンドン来やがれ! 以上!」
(いやいや、そんなに来たらS●S団を立ち上げないと……)
ミコトは再び心の中でツッコミを入れた。
「でも貴様らは来るなよ! わかったら立ち去れ!」
「ひっ……ひぃいいいいっ!」
と悲鳴を上げて1人の警察官が逃げ出すと、他の警察官も次々と「芋づる式」に逃げ出していった。じゃが逃げた先の路地が狭く全員身動きが取れなくなってしまい「芋を洗うよう」になってしまったのじゃが……。
ジャガイモ警察が逃げ出すと、遠巻きに見ていた街の人たちからどこからともなく拍手が起こった。そして若い女性たちからは、
「まぁ、サレマーオ様よ!」
「キャーッ! ホントだぁ! いつ見てもカッコいいお姿だわー」
と歓声が上がった。ミコトは隣にいるアルティーに、
「おい、アイツって有名なのか?」
と聞くと、
「さ、さぁ……どうなんでしょう? あははっ……」
はぐらかされてしまった。どうやらアルティーは、このサレマーオという男の正体を知っているらしい。
ジャガイモ警察が去ると、サレマーオはミコトの元に近づき声を掛けた。
「大丈夫か?」
「あ……ありがと」
「お前さん、名前……何て言うんだ?」
「ミ……ミコト、折旗ミコト」
ミコトは助けてもらったことで、見ず知らずの男に対し警戒心を緩め自らの名を名乗った。だがこの後、男の「ひと言」がミコトを凍り付かせることになる。
「そっか……俺様の名前はサレマーオだ! しっかり覚えておけよ」
「……え? 何で?」
「何でって……そりゃあ……」
「?」
「これからお前さんが、生涯呼ぶことになる名前だからさ!」
……
……
……
「はぁ?」
その言葉を聞いたミコトは一瞬、子どもが描いた絵のような顔になった。
俺様はまだ続けるぜ!




