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第10話「我々はジャガイモ警察なのじゃが!」

「じゃーん! これだよ」


 ミコトが取り出したのは何と「モチニーク永久使用権」と書かれた紙であった。


「なななっ……何で?」


 まるで手品のような展開にアルティーが驚いていると、


「こんなこともあろうかと思って、あらかじめ(使用権の)バージョンアップしておいたんだよー! 今度はなぁ、心の中で詠唱すれば発動できるように変更もしておいたぞ! もちろんその変更された設定もモチニークを使って……な」


「あぁ……」


 ミコトに詰め寄り立ち上がっていたアルティーは、ショックのあまり顔が青ざめ崩れるように座り込んだ。そして……


「女神さまアルティーはもうダメです何でこのような悪知恵だけ働く人を転生させたのですかもう耐えられません私はもう胃が痛くて死にたくなってきました……」


 うつむいたままブツブツと呟きだした……精神崩壊する寸前である。


「おい、エクレアもう1口食うか?」

「食べますぅうううう♥」


 ……治った。



 ※※※※※※※



「それにしても……全然進まねーし揺れもひどいなぁ」

「えーっ……でもこの馬車には特別にサスペンションを取り付けてありますよ。ここだけの話、本来この時代には存在しない物なのです」

「だったらさぁ……アタシがモチニーク使って車を……あっそうだ! 王室御用達なら■ールス■イスがいいんじゃね?」

「ミコト様……そんなモノが現れたら街中がパニックになりますよ!」


 ミコトとアルティーを乗せた馬車は王都に入っていた。陸亀(トータス)の宿は少し寂びれた場所にあったが、ここには市場が立ち並び活気にあふれていた。

 ゆっくりとではあるが順調に馬車は進んでいた。だが突然、ガタンと揺れたと同時に止まってしまった。御者(馬車の運転手)はミコトたちの方を向くと、


「すいやせんねーお嬢さま方、馬がちぃーっと用足してまして……」


 よく見ると馬が生理現象(ウ●コ)中であった。


「あーもうヤダ! 待ってられん! 王宮ってこっから近いんだろ? アタシ降りるぞ! 馬車のおっさん、ここまでありがとな!」


 と言うとミコトは箱馬車の扉を開けて外に出ようとした。


「えぇっ!? 待ってくださいよミコト様! あともう少しですから……」


 アルティーの制止を振り切り、ミコトは衣装(コタルディ)の長すぎる裾をたくし上げると馬車から降りた。だが、ミコトが地面に足をついた瞬間……


 〝ぐにょ〟


 イヤな予感しかしない感覚がミコトの足へ稲妻のように伝わってきた。



「うげっ! 馬糞……踏んじまった」



 (この)世界の道路は、馬車がよく走っている……ということは当然、道路に馬糞が散乱しているのである。食事中に読まれている方には大変申し訳ない。


「くっそぉおおおお! ウ●コだけにくっそぉおおおお!」


 こんな状態で街を歩けば衣装(コタルディ)の裾などウ●コだらけになりかねない。ミコトはモチニークを使いハサミを取り出すと……


 〝ビリビリビリッ〟


 衣装(コタルディ)の長すぎる裾を、ひざ下まで切り裂いてしまった。初めのうちは貴族階級が乗る高級な馬車から降りてきた容姿端麗なお嬢さまに見とれていた街の住人も、下品な言葉を連発しハサミで裾を切って脚を見せたミコトの言動に全員ドン引きしてしまった。そこへ……


 〝ピーッ! ピピーッ!!〟


 突然ホイッスルが鳴り、遠くから制服を着た数人の男たちが向かってきた。


「おぉーい! そこの君!」

「えっ、アタシのことか? 誰だオマエら……」


 少し遅れて、ミコトの後を追い馬車を降りたアルティーがやって来た。ミコトの袖を掴むとアルティーは小声で説明した。


「気を付けてくださいミコト様! 彼らは……ジャガイモ警察です」

「ジャガイモ警察? 何だそれ……」


 よく見ると彼らの首から上は、文字通り「ジャガイモ」になっていた。


 彼らは、中世ヨーロッパをモチーフとした異世界小説で、史実ではあり得ない設定に対し取り締まりを行う私設警察だ。

 その代表例が「ジャガイモ」で、これは中世ヨーロッパに存在しない野菜だ。にもかかわらず異世界小説でジャガイモを使った料理が登場すると、まるで鬼の首を取ったように間違いを指摘し登場人物を投獄・処刑して小説を打ち切りにするというとても恐ろしい組織である。


「おい君! 君は確か……馬車の中で、19世紀発祥と言われている中世には存在しないはずのエクレアを食していたの()()()な?」

「あぁっ? だから何だって言うんだよ!?」


 するとミコトの隣でアルティーが必死に止めに入った。


「お止めくださいミコト様! 彼らに逆らうと面倒くさいことになります」


 ()()()、ジャガイモ警察の矛先はアルティーにも向けられた。


「それとそこの君! 先ほど馬車を確認させてもらったが……サスペンションが取り付けられていたのじゃが!? あれは17世紀に登場したものであって、中世であるこの時代には存在しないものじゃが!」

「えっ……あっ……その……」


 ミコトのため良かれと思って取付けていた物が裏目に出てしまい、アルティーは言葉に詰まっていた。


「何だよテメェら……さっきから黙って聞いてりゃ偉そうに! だから何だって言うんだよ?」


「何ですか君は? 我々に逆らうというのであるじゃが? 我々は中世ヨーロッパの史実に基づき、虚偽の事実を平然と語る異世界小説なるものを取り締まっているのじゃが! 嘘をついて人を騙すことはもちろん犯罪なのじゃが! 犯罪には極刑をもって臨むのじゃが!」

「上等だオメェら! やれるもんならやってみろ」

「お止めくださいミコト様! 彼らに捕まったら全てが終わってしまいます」

「わかったのじゃが! では貴方たちは逮捕じゃが! この物語はワタクシたちのクレームにより打ち切りなのじゃが!」


 と言うと、警察官の1人が警棒を振りかざし殴りかかろうとしてきた。ミコトとアルティーは絶体絶命のピンチ! そのとき、


「おい貴様ら! なに女性に殴りかかろうとしてんだよ!?」


 1人の男が警察官の手首を掴むと、そのまま持ち上げた。


「あうっ痛い痛い! 君は誰じゃが!?」


 たまらず警察官は警棒を落とした。警察官を持ち上げた男は、背が高くて赤い髪をしたワイルドそうなイケメンだ。




「俺か? 俺様の名は……サレマーオだ!!」



まだまだ続くのじゃが……。

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