花は短し造花は永し
友情。
それがライラックの花言葉。仲のいい友達に贈る花。だから、快斗が「あげるよ」と言って差し出したそれを、私は素直に受け取れなかった。
「友好の証だ」
「嬉しいけど、私の部屋置くとこないし」
「花瓶もあるぞ。いるか?」
「いや、無いのはスペースなんだけど」
「じゃあ、どうやって変換するんだ?」
刹那、私の脳はフル回転してその言葉の真意を考察し、ついには回答を導き出した。
「キーボードの話はしてないよ!?」
分かりずらいボケを唐突にかまさないでよ。ツッコミが遅れてしまう。tabキーでいけるでしょ、たぶん。
「でも、そっか。残念だな」
「ごめんね、気持ちだけ貰っておく」
言いながら、今一度花に目をやる。照明を受けて、表面をてらてらと光らせている。やはり綺麗だ。『友好の証』としてこれ以上のものは無いだろう。
「そういえば、話したっけ?俺、留学することにしたんだよね」
「そうなの?どこに?」
「イギリス。短期留学で」
「そうなんだ…」
しばらく会えなくなるってことか。ズキッと胸が痛む。このまま終わっていいのか?
告白するか?「その花が受け取れないのは、あなたの事を恋い慕っているからです」って。
……でも、私は快斗にとって、こんな重要な話を事が決まってから報告するような相手なのだから、きっと勝機はないだろう。
もういっそ、友達でもいいから、花だけは貰っておこうかな。
「頑張ってね。そういう事なら。あと、部屋を整理し直す気になったから、やっぱりそのライラックは貰っとく」
「残念ながら、こいつは保険に入れんのだ」
「クワックワッ…って、ア○ラックじゃなくて!ライラックをください!」
「だが、そこまで言うならしょうがない。幸運を祈るぞ」
「グッドラックってか!?私そんなに危なっかしくみえるの!?」
「うーん、見た目によらず、大胆不敵に…ハイカラ革命…」
「磊磊落落、反戦国家!?」
「ぷふっ」
「あははっ」
いつもの調子で、私たちは笑いあった。
「快斗ー」
彼を呼ぶ声がする。
「すぐいきまーす、先輩」
簡単に返事をして、私に向き直る。
「じゃあ、はい、これ」
「ありがとう」
受け取るとき、わりにしなやかな彼の指が触れる。やだな、顔見れない。
「おう、小春も頑張ってな」
「うん」
「今日はありがとう」
「うん」
「またな」
「またね」
彼は華道部の先輩と並んで帰っていく。楽しそうな横顔が見えた。
所詮は友達。
珍しく部屋を片付けて、良い塩梅に配置したあの花を眺めながら思い出されるのは、快斗との会話―――くだらないけど、分かり合っている感じがする、心地良い会話だった。
朝日が、頬を伝った涙の跡を照らす。
「永遠の、愛」
造花の花言葉をつぶやく。きっと快斗は、そんなの知らないんだろうなぁ。
水も肥料も愛情もいらないライラックは、今日も憎いほど美しい。