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03_それぞれの教室

葛西裕司かさいゆうじの視点

昼休み、みんなが心配してくれて、一緒に弁当を食べようと集まってくれた。

男女合わせて10人もいる。

ありがたいことだ。


騒がしいけど、今の僕にはこの騒がしさがちょうどよかった。


「で、どうして会長と別れちゃったの?」


高田がずかずかとデリケートな部分に踏み込んできた。

前言撤回。

静かがな方が嬉しい・・・


「ねぇ、告白したとか?」


「告白してフラレたっていうか、告白すらさせてもらえなかった・・・」


「あんなラブラブなのに?」


「いや、それは僕の勘違いで・・・ああ・・・恥ずかしくて死にそうだから勘弁して・・・」


「まあねぇ」


「僕が床でうずくまって泣いてたら、頭は撫でてね・・・」



「キャハハハ」


(なでなで)「早速かーい!」


後ろから頭を撫でられたので、振り返ると、小田島由香さんが頭を撫でてきた。

小田島さんは、クラスの中で男女垣根無く友達の多い感じの話しやすい子だ。

たまたま席も近い。



「ねね、葛西くん、今度、ユカん家に来ない?」


「え?!」


「あ、変な話じゃなくて、うち、美容院だから、タダで髪きってあげる♪」


「髪?」


「うん、髪切ると気持ちもさっぱりするよ?」


女子は失恋すると髪を切るなんて、漫画やドラマではある。

そんな感じか。

そう言えば、ここ1年くらいは出来るだけ髪を切るのを遅らせていた。


これまでは、月1くらいでカットしていたのだけど、バイトしたいと思っていたので、土日は髪を切らなかった。

平日は生徒会の仕事があたし、髪を切る暇がなかったというのが正解かもしれない。


僕が落ち込んでいるから気を遣ってくれたみたいだ。

いい機会だ。

切ってもらうか。


「ありがとう。甘えさせてもらうよ」


「ホント?じゃあ、いつ切るか決めよ」


その後、小田島さんも机をつけて、打ち合わせしながら弁当を食べた。






■中野ウルハの視点

「ウルハ、お弁当食べよう」


昼休みにいつもの様に由香里が声をかけてきた。


「あ、ごめん、由香里ちゃん、今日、生徒会でトラブルがあって・・・生徒会室で食べるね」


「そう・・・頑張って!」


何がどうしてしまったのか。

配布予定のプリントの原稿がまだできていないというのだ。


ここしばらくこんな問題は起きてなった。


ユージと別れて以来、次々問題が起きている気がする。

バイオリズムか何かの関係だろうか。




ガラッと音を立てて生徒会室のドアを開けた。


「お疲れ様。問題の原稿はどうなってる?」


「お疲れ様です、会長」


「お疲れ様です」


役員全員が集まっている。

いつもならこんなに原稿が遅れることなんてないのに・・・


「問題はなんなの?」


「会報なんですが、『地域の活動』の部分の情報が無くて・・・」


「いつもはどうしてるの?」


「地域のボランティア参加状況とか、清掃活動とか、スポンサーからの寄付の情報とかについて書いているんですが、ほとんどユージ先輩がやってくれていたので・・・」


「僕らは内容を聞いて、記事にしていたんですが、情報がない上に、活動記録も分からなくて・・・」


「じゃあ、今月は休刊して、来月発行しましょう」


「でも、連続発行記録更新中だったので・・・」


「なにそれ」


「会報は毎回学校のファイルに保管するんですが、1年間連続発行できたのは今期だけなんです。10年ぶりの快挙で、先生方も注目してくれていて・・・」


「うーん・・・でも、書けないものはしょうがないわよね」


「今からでもユージ先輩に・・・」


「それはダメよ。ユージはもう関係ない。部外者よ」


「・・・」




生徒会の空気がもう一段階悪くなるのを感じた。

ただ、欠員による一時的なトラブルだと思っていた。

時間経過とともに空いた穴は埋まってくるもの。

そう私は考えていた。




(がらがら)「ちーっす。あ、ウルハちゃん、ここにいた!」


生徒会室に現れたのは、光山先輩だった。


『ウルハちゃん』と呼ばれることに不快感は感じたが、まあ付き合い始めたのだからこれから慣れて行けばいいのだろう。


「光山先輩、どうされたのですか?」


「冷たいなぁウルハちゃん、」


「ごめんなさい、このところ色々トラブル対応で忙しくて・・・」


「今日、放課後カラオケいかない?ウルハちゃんのこと友達にも紹介したいし」


「すいません。今日はちょっと忙しくて・・・トラブルがあって」


「そんなの、下のやつらに任せたら?ウルハちゃん会長でしょ?」



ああ、何だこの会話。

頭が痛くなる。

トラブルの予感しかしない。


クーリングオフできないだろうか・・・


「会長、お話し中すいません。放課後だったら僕らで何とかしておきますよ?行ってください」


「そうもいかないでしょ(行きたくないのよ)」


「ほら、下のやつもそう言ってるしさぁ」


『下のやつ』って何!?

一緒に生徒会を運営してきた仲間に対してすごく腹が立った。


「とにかく、忙しいので、すいません。光山先輩、また連絡します」


「あ、ちょ、ちょっと待ってって!」


そう言って、生徒会室から追い出した。

何だろう。

胸の辺りが苦しいような・・・頭が痛いような・・・


「今は『会報』!過去の会報を出して!使えるところがないか調べてみましょう!」


「「「はい!」」」






■放課後・生徒会室

生徒会メンバーはそろっていた。

会長を除いて。


「会長は?」


「バスケ部に呼ばれたから対応してもらってる」


「しばらく帰ってこないな」


「ああ、確かに」


「なあ、最近、日に日に仕事増えてないか?」


「なんかなぁ」


「今日も遅くなりそうだな」


「こんな時、ちょっとおかし食べたくなるよね」


「そういう意味じゃ、ユージ先輩は、時々おかしの差し入れしてくれてたし、モチベーション上がったよな」


「ああ、分かる。一番働いてんのユージ先輩だから、『これ以上この人を働かせちゃいかん』って思ってた」


「あ!わかる!」


「私は、一番大変な時に先輩から『大変だけど、なんとか乗り切ろうね』って言われたのが印象的だったー。キュン死するかと思った」


「ああ、もし『がんばろう』とか言われたら、『もう頑張ってるし』って言いたくなるよな」


「そうそう、『一緒に乗り切ろう』って感じが『先輩と一緒に仕事している』って感じで・・・」


少女は夢見がちにひとりあちらの世界に行ってしまった目をしている。


「それ会長の前で絶対言うなよ!荒れるから」


「でも、でも、別れちゃったんでしょ!?今は光山先輩と付き合ってるって」


「ホント会長見る目無いなぁ・・・」


「「たしかに・・・」」


「あ、で?会報はどうする?」


「実は、俺、5時間目の後こっそりユージ先輩のとこ行ってきたわ」


「どうだった?」


「もしかしたらって言って、USBにデータ準備してくれてた」


「マジか!?神か!?あの人、神なのか!?」


「問題は、ユージ先輩の名前を出さずにどうこの情報を会報にあげるかだよな」


「あーもう、それ何の仕事だよ!?」


「とりあえず、ぎりぎりまで引き延ばして何とか出来ました的に会長に出して承認を取ろう」


「じゃあ、帰り暗くなるよね!?ああ、お腹空いてきた・・・」


「それがさぁ、ユージ先輩からお菓子もらっちゃって・・・会長には内緒って」


「マジか!?俺抱かれてもいい!」


「キモっ!それなら私が頂いていくわ!」


「ユージ先輩落ち込んでたからチャンスかもな」


「マジ!?ちょっとユージ先輩のクラス行ってくる!」


「バカ、もう帰ってるよ」


「そっかぁ・・・残念」


「・・・あと何か月もこの状況ってきついよなぁ」


「何とかなんないかなぁ」


生徒会の仕事は遅くまで続いた。

ただ、その内容はどんどん薄くなっていっていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] スタートからいい感じで面白いですね! うるはちゃんのほうも大分いろんな方面に鈍感みたいやし、ゆーじくんは内面イケメンやし。 個人的には、今のところ、主人公くんが幼馴染とヨリをもどしても、…
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