始まりの日
本編のイメージを崩されたくない方は閲覧ご注意ください。
「唯華、最近変じゃない?」
「え? そう?」
「うん。ため息も増えたし」
「恋でもした? なーんて……」
「恋か……恋なのかなぁ……」
「「「え!? 詳しく!!」」」
移動教室の途中、友人たちからキラキラした視線を向けられて、最近ずっと考えてしまう女の子の事を打ち明けることにした。
初めてその子を見たのは入学式の日だった。
「クラス発表見ないの?」
「え? ……どちら様ですか?」
クラス発表を見て盛り上がる1年生が多い中、少し離れたところでスマホを見ている子がいて目を引いた。俯いていても分かる、綺麗な顔を正面から見たくて、足が向いた。
「あぁ、ごめん。3年の林 唯華です」
「はぁ……田中です」
「下の名前は?」
「旭」
「旭ちゃんか。クラス発表、もう見たの?」
「いえ。人待ちなので」
受け答えはちゃんとしてくれるけれど、明らかに面倒臭い、と思っているのが丸わかり。好意的な視線を向けられることに慣れすぎてしまっていた私には、面白い子だな、と興味が湧いた。
「あさひー! ごめん、遅れた! ……こちらの方は?」
「3年生だって」
「えっ、おはようございます!」
「おはようございます。これからよろしくね」
「はいっ!! え、てかめちゃくちゃ美人さんですね!」
「あはは、ありがとう。クラス発表、今なら人少ないみたいよ?」
「あ、本当! ありがとうございます! 旭、いこ!」
「分かったから、引っ張らないで」
苦笑しつつも優しい視線を向けるのを見て、ちゃんと笑えるんじゃん、なんて少し悔しくなった。
入学式が始まり、新たに入学してきた新入生から、期待や不安、憧れ、等様々な視線が向けられる中で、つまらなさそうに外を見ている子がいるな、と思ったらあの子だった。
一応、生徒会長の挨拶なんだけど、そんなに興味無い? 少しはこっち見てもいいんじゃない? 結局、挨拶を終えるまで1度もこっちを見なかった。
友人に向けた優しい目で見つめて欲しくて、気づけば目で追うようになっていった。
「……って感じなんだけど」
「田中 旭? あぁ、やけに綺麗な子がいるって噂になった子?」
「たまに中庭で寝てる子だよね? この前体育の時にやる気あんのか田中ー! って怒鳴られてたけど、ないでーすって答えて先生に追いかけられてたよ」
「ぶふっ、やばっ、すごい子」
1年生なのに自由というか、なんというか……
「話しかけても反応が薄くて、全然興味持って貰えないんだけどね」
「嘘でしょ? 唯華に話しかけられたい人なんて大勢いるのに」
「照れ隠しとかじゃないの?」
「いや、そんな感じじゃないんだよなぁ……」
全然嬉しそうになんてしてくれないし、むしろ迷惑そうにされるというか……
「あれ、旭ちゃん体調悪いの?」
「あー、まぁ、そんなところですね」
そんな話をしていれば、保健室から出てきた旭と鉢合わせした。絶対サボりでしょ。
「ちゃんと授業出なさいよ?」
「はーい……じゃ、失礼します」
ぺこっと頭を下げて去って行った旭ちゃんを見送って、本当に分かってるのかな、なんて苦笑した。あそこまで自由だといっそ清々しいというか。
「へー、本っ当に唯華に興味なさそう」
「でしょ。ちょっと落ち込む。多分私の名前も覚えてないんじゃない?」
「いや、さすがにそれはないんじゃない? 生徒会長よ?」
「いや、むしろ私が生徒会長って知ってるかどうか……」
「さすがに知ってるんじゃない……?」
そうかなぁ……もし生徒会長だって知ったとしても興味を持って貰えない気もするけれど。
「そもそもこれが恋なのかも分からないんだよね……女の子だし」
「完全に恋でしょ」
「元彼達の時だってそんなに興味持ってなかったよね?」
「唯華から話しかけに行くとかレアだよ、レア」
なんか、友人たちが楽しんでるような……今までは告白されて、好きになれるかな、と付き合ってみたけれどやっぱりなんか違くて、長続きはしなかった。
旭ちゃんとなら、何か違うのかな……?
お昼休みに旭ちゃんに会いにクラスまで行ったけれど居なくて、中庭だと思う、と教えて貰って向かえば、芝生に寝転んでいる旭ちゃんを見つけた。
「旭ちゃん」
「……先輩?」
しゃがんで声をかければ、不思議そうにしながらも身体を起こしてくれた。
「旭ちゃんって付き合ってる人いる?」
「……はい? いきなりなんです?」
「いる?」
「いや、居ないですけど……?」
突然の質問に困惑しつつも答えてくれて、今はフリーらしい。このままだと興味を持って貰えないだろうし、私もこの気持ちが恋なのか知りたいしここは思いきって……
「旭ちゃん、私と付き合ってみない?」
「……はい?」
「だめ?」
「ダメというか……ちょっとよく分からないです」
突然過ぎて、理解が追いついていない様子の旭ちゃん。
「女の子は生理的に無理、とか?」
「いや、そんなことはないですけど。というか、男とか女とか関係なく、付き合ったことないので知りません」
「うそ、じゃあ私が初彼女?」
「……もう彼女なんですね。先輩、私の事好きなんですか?」
「……っ」
やば……ニヤリ、と口角を上げた旭ちゃんに、めちゃくちゃキュンとした。
「うん。好き。なんか、すごく好きかも。旭ちゃんの事がずっと気になって目で追っちゃってて。笑顔が見たいとか、友達に向ける優しい目で見つめて欲しい、とか、私のことを知ってもらいたい、とか、そばにいたい、とか思ってる」
「うわ、はずかし……」
私の言葉が予想外だったのか、顔を隠して下を向いたけれど、耳まで赤い。こんな反応してくれるんだ……可愛い。
「どうしても無理なら振ってくれていいから、お試しで付き合ってくれない?」
「……まぁ、お試しなら付き合ってもいいです」
「え、本当に? いいの?」
「嫌ならやめますけど」
「嫌じゃない!!」
「ふふ、先輩必死すぎ。ただ、私マメじゃないし面倒くさがりなので、先輩が飽きると思いますよ」
なんだろ……好きかも、って自覚したら旭ちゃんが輝いて見えるよ……
「飽きないから。これ私のIDなんだけど……いや、旭ちゃんのID教えて?」
マメじゃないって言ってるし、待ってたら絶対連絡なんて来ない気がする。
スマホに表示されたコードを読み取って、私から送ることにした。
「そろそろ昼休み終わるけど、まだここにいる?」
「あー、教室行きます」
「一緒に行こ?」
「途中までなら」
クラスまで送ろうと思ったのに、先手を打たれちゃって残念。
途中で別れて、自分の教室に戻ってスマホを開けば、旭ちゃんの連絡先が表示されていて嬉しくなった。さて、なんで送ろうかな?
【唯華です。さっきはありがとう! 登録よろしくね】
【はい】
2文字……
【明日の朝一緒に登校できる?】
【目立つので遠慮します】
拒否早くない? お試しだけど、彼女だよね?
【早い時間ならいい?】
既読になったのに、待ってみても返事が来ない。これは絶対面倒になったな……
【登校がダメなら、朝クラスに会いに行くよ?】
【歩きなので駅で待ってます】
ふふ、今度は即返事が来た。きっと渋々打ってるんだろうな、と思うと笑ってしまった。
「唯華、楽しそうだけど何かあった?」
「ううん、なんでもない」
今はお試し期間だけど、ちゃんと彼女になって貰えるように頑張ろう。
「旭ちゃん、手つなご?」
「えっ……」
「嫌?」
「い、やでは無いですけど」
「じゃあ、はい」
「……先行きますね!」
はい、と手を差し出したら、しばらく固まって、逃げられちゃった。耳まで真っ赤だったよ?
旭ちゃんは本人が言っていた通りマメじゃないし面倒臭がりだけれど、待っていれば返事はちゃんと返してくれるし、根は優しいんだと思う。
恋人同士の触れ合いに慣れていない旭ちゃんは手を繋ぐことすら緊張するらしくて、全然触れ合えないのはちょっと不満。
同性で、歳下の恋人にこんなにも心を奪われることになるなんて思ってもみなかったけれど、ずっと大切にするからね。
*****
肌寒さと、胸に感じる刺激で目が覚めた。
「……旭? 何してるの?」
「ほはよふ」
「うん。おはよう。まず口を離そうか??」
「唯華ちゃん、おはよ」
下着とたくし上げられていたシャツを戻して、何事も無かったかのように抱きしめられた。
時計を見れば、起きるにはまだ早い。
「いやいや、誤魔化されないからね? 何してるの?」
「起きたら目の前に素敵なお胸があったもので……ちょっと触らせてもらうだけのつもりだったんだけど、反応してくれたからつい……寝てても感じるんだね」
「変態……手を繋ぐことすらままならなかった子がこうなるのか……」
昔の夢を見ていて、触れ合えないのが不満と思っていたけれど、不満になんて思わないくらい積極的になっているから安心して、と昔の私に伝えてあげたい。いや、安心できるのか……? だいぶ変態になってます。
「手??」
「昔の夢を見ていて。付き合った日の夢」
「うわぁ、めちゃくちゃ生意気だった時じゃん……!」
黒歴史……! と頭を抱える旭も覚えてくれているみたいで嬉しくなる。
「先輩、私の事好きなんですか?」
「ぐっ……」
「お試しなら付き合ってもいいです」
「うぁぁ……!!」
「嫌ならやめますけど」
「昔の私ぃぃ……!! 寝込みを襲ってごめんなさい……許してください……」
思ったより効いたらしく、眉を下げて謝ってくる旭が可愛い。別に怒ってた訳じゃないけれど、この辺で許してあげようかな。
「ふふ、許してあげる」
「アリガトウゴザイマス」
目が合って、吸い寄せられるように唇を重ねれば、嬉しそうに笑ってくれた。
今は梨華も悠真も居ないから、朝からこんな風にくっついていられる。
お友達がじいじとばあばの家に泊まったと聞いて、梨華も泊まる! と1階でお世話になっている。悠真も便乗していて居ないから、昨日の夜から2人きりだった。
旭が加減してくれなかったから、正直いつ寝たか記憶にないのはちょっと勿体なかったかな。
「旭、もっとキスしたい」
「喜んで」
優しく微笑んで、顔中に口付けが降ってくる。唇が重ねられて、素肌を撫で始めた旭を止めようとは思わなかった。
「……は、ぁ……旭、好き」
「私も好き。きっと、私の方が好き」
「そん……っ」
反論しようとした言葉は最後まで言わせて貰えなくて、もうそんな余裕なんて無くなった。
態度も、言葉でも惜しみなく伝えてくれる旭はもうあの頃とは違う。
不安になることもあるけれど、今度はちゃんと伝えよう。今の旭ならそんな私の事も包み込んでくれるだろうから。




