10.恋人
唯華視点
せっかくの休みなのに普段通りに目が覚めてしまって身体を起こせば、いつも通り寝相が悪い子供たちと、そんな子供たちを優しい目で見つめる旭の姿が目に入った。
「おはよ。唯華ちゃん早いね?」
「おはよう。旭こそ」
「顔にさ、梨華の腕がこう……」
「はは、寝相悪いからなぁ」
「布団かけてあげたんだけど、即蹴っ飛ばしてた」
同じ部屋で寝られて嬉しい、って笑顔を向けてくる旭に、付き合った事を実感する。
旭からの告白は嬉しかったけれど、受け入れちゃいけないと思っていた。
私から振った過去があるし、何より今の私は子供が二人いて旭を優先できない。
ごめん、と伝えれば、そう言うと思った、と落ち着いていて、好きか嫌いか、と聞いてきた。
ここで嫌い、なんて嘘でも言いたくなくて、好き、と答えた時点で私の気持ちは隠せていなかったと思う。
一つ一つ、付き合えない理由を潰していく旭に、気持ちがどんどん溢れていった。
なんで旭はこんなにも私の心を軽くしてくれるんだろう。もう1人で頑張らなくていいよ、と言ってくれた時には涙腺が崩壊するかと思った。
抱き寄せられて、いい雰囲気になった時に梨華がトイレに起きてきて、旭の慌てっぷりに昔の旭みたいでなんだか安心した。
梨華をトイレに連れていけば、戻った時にはすっかり普段の旭に戻っていたけれど。
目が覚めた梨華が旭に気づいて、ぱあっと笑顔になって駆け寄っていくのが可愛かったし、目を合わせて微笑み合う2人が愛しかった。
あーちゃんも一緒に寝よう? と誘う梨華に、旭はどうしたものかと私の方を伺ってきたから頷けば、それはもう嬉しそうに笑ってくれた。
絵本を読む旭の声が心地よくて、梨華より先に寝た気がする。遠のく意識の中、お風呂使ってね、って言ったような言ってないような……
旭を見ればすっぴんだから、多分ちゃんと言えてたんだと思う。毎週子供たちとお風呂に入ってくれていたから、服は置いたままだし困らなかったはず。
「はい、コーヒー」
「ありがと。目が覚めてさ、唯華ちゃんと梨華と悠真が居て、夢じゃなかったんだな、ってなんかジーンとしちゃった。週末はこっちで寝てもいい?」
リビングに移動して、コーヒーを渡せば嬉しそうに受け取って、そんなことを上目遣いで言ってくる。可愛いな……
「うん」
「やった! 平日も早く帰ってきたいなぁ……1回こっちで寝ちゃうと、1人で寝るの絶対寂しい。平日のお風呂もなんか寂しくてさ。あ、これからお風呂唯華ちゃんとも入れるじゃん!」
そんなにキラキラした目で見ないで? 一緒にお風呂? 無理だって。
「入りません」
「えー!! なんで!?」
お腹も引き締まってないし、明るいところでとか無理。絶対無理。もしそういう雰囲気になった時には旭を脱がそうと思ってる。昔だってそうだったし、それで問題ないはず。
「見せられる身体じゃない」
「この前後ろ姿だけだったけど、色気がやばかったよ? しばらく唯華ちゃんの事見られなかったもん。それに、私唯華ちゃんの裸見たことないじゃん? 昔は私が受けだったし、されるがまま、って感じだったから。もうあの頃の私じゃないからね? 心の準備しておいて?」
「え?」
「今日の夜、梨華ぐっすり寝てくれたらいいなぁ」
えっと、もしかして、私が受け、ってこと……?
「ねぇ、どういう……「あーちゃんいた!! ゆめかとおもった!」」
「はは、いるよ。梨華、おはよ。ママにおはようは?」
詳しく確認をしようとすれば梨華が起きてきて、真っ先に旭がいることの確認をしている。娘が彼女のことを好きすぎる。
「あ、そうだった。まま! あーちゃん! おはよー」
「ふふ、梨華、おはよう」
「寝癖すごいよ? 直しに行こうか」
「うん!」
梨華を連れて洗面所に行った旭を見送って、今日の夜とか時間ないじゃん、と呆然とした。脱がされる前に、脱がそう。そうしよう。
先週旭と会えなかった反動なのか2人とも1日旭にべったりで、買い物に行ってもご飯の支度をしていても、あーちゃんあーちゃんとまとわりついていた。
「唯華ちゃーん! 悠真捕まえてー!」
「まま! でた!」
今も3人でお風呂に入っていて、そろそろ出る頃かな、と思っていたら旭の声が聞こえて、足にしがみついてきた息子。これ、どう見ても拭く前に逃げてきたよね??
早く拭かないと、と開け放たれたままのドアの先を見ればバスタオル1枚で梨華を拭いている旭の姿。相変わらず鎖骨綺麗……って違う。今は悠真を拭かないと。
「旭、連れてきたよ、ってうわぁ、床びちゃびちゃ……もー、悠真、今度はちゃんと拭いてから来てね?」
「はーい!!」
「うん、いい子」
「へへっ」
「ママ、梨華は?」
「もちろん、梨華もいい子」
「わーい!」
対抗心というのか、1人を褒めるともう1人もアピールしてくる。親バカかもしれないけれど、2人とも可愛い。
「旭、顔」
「え? あぁ、緩んでた? だって可愛すぎるんだもん」
緩む顔を引き締めて旭を見れば、私もあんな顔だったんだろうな、と思うような表情。
「ね。可愛いよね」
「唯華ちゃんも可愛いよ?」
そんなサラッと……調子狂うなぁ……
「……早く服着たら?」
「唯華ちゃんのえっちー!」
「ママ、えっち?」
「ちー?」
「ちょっと、旭変なこと言わないでくれる?」
こんな風に旭と過ごす日常が訪れるなんて、人生何があるか分からない。
「唯華ちゃん、シよ?」
「いやいやいや、待って待って? ちょっと落ち着こう?」
「ずっと好きで、また付き合えて、こんなに無防備な姿見せられたら待てない」
今日も絵本を読んでくれていた旭の声に誘われるように寝てしまって、頬を撫でられる感触に目を開ければ、旭のドアップ。
「待ってって」
見つめられながら、頬に添えられた手は唇を撫でて、首、鎖骨、と下がっていくから慌てて起き上がって旭の手を掴んだ。
「心の準備しておいてね、って言ったじゃん?」
こんなに色っぽい表情する子だった? 心臓持たない……
「……っ、梨華と悠真居るしだめ」
「分かった。はい、行くよー」
諦めてくれたんだな、とホッとしたのも束の間、立つように促されて、ギュッと手を握られた。
「え? なに??」
「まぁまぁ、いいからいいから。私の部屋か、このソファ、どっちがいい?」
手を引かれて寝室を出て、連れてこられたのはリビングのソファ。そっと押されて座ったけれど、そのまま旭の腕に包まれた。
「え……」
「私の部屋だと親が近くだから気になるかな、って思うから、ここでいい?」
愛おしいものを見る目で見つめられて、顔中にキスが降ってくる。
「んっ……どっちもだめ!」
「だめかぁ……予備の布団ってある?」
「え、あるけど……」
「奥の部屋って使ってなかったよね?」
「うん」
「じゃ、そっちならいい?」
「いやいや、よくないから。場所の問題じゃないから。それに、まだお風呂も入ってないし」
お風呂入ってないし、って了承してるみたいじゃん……混乱しすぎて私の思考はまともじゃないらしい。
「私はお風呂前でも気にしないけど?」
「私は気にするの」
「一緒に入ってもいい?」
「朝も言ったけど、一緒には入れません」
「見せられない、ってやつ? 唯華ちゃんが嫌なら無理強いはしないけど……お風呂入ってくる?」
私に拒否されて眉を下げて落ち込む旭、可愛い……って違う。とりあえずお風呂に入って落ち着こう。
「うん。入ってくる」
「ん。分かった。待ってる」
「寝てていいよ」
「やだ。待ってる」
やだって……可愛いか。
「はぁー、無理だって……無理無理。本気で無理……」
湯船につかりながらお腹を見れば、ため息が漏れた。
2人を産んでから体重も増えたし、昔はそれなりに自信があったけれど今はとても……
それに、私が攻めようと思っていたのに旭のペースだし、私と別れてから沢山経験を積んだのかな、なんて思うと見たこともない相手に嫉妬する。私にはそんな資格ないのは分かってるけど。
「唯華ちゃん、大丈夫?」
考え事をしているとドア越しに心配そうな声がした。
「うん?」
「遅いから心配で」
「え、そんなに?」
「うん。もうすぐ1時間くらい」
「嘘!? すぐ出る」
「逆上せてるのかな、って心配だっただけだから、ゆっくり入って? 梨華も悠真もよく寝てるから」
「ありがとう」
こんなに長くお風呂に入るのなんて何時ぶりだろう? 拓真と生活してた時もほとんどなかった気がするな……
髪を軽く拭いてリビングに戻れば、テレビを見ていた旭がこっちを見て、すぐに立ち上がって近づいてくる。
「また髪乾かしてないじゃん。待ってて」
「すぐ乾くのに」
「風邪ひくかもしれないでしょ」
ぽんぽん、と頭を撫でられて、ドライヤーを取りに行った背中を見送った。
「唯華ちゃん、もう髪伸ばさないの?」
髪を乾かし終えて、私の髪を触りながらそんな事を聞いてくる。
「んー、短い方が楽って理由だからなー。長い方が好き?」
子供たちと一緒に入るにもすぐに終わるし、乾かすのも早いし。
昔はロングだったけれど、今は肩くらいまでしかない。
「ううん。唯華ちゃんならどんな髪型でも好き」
「……そ」
「うん」
聞いてきたってことはそうなのかな、と思ったのに予想外。
「旭は随分伸びたよね」
「うん。切りに行くのが面倒で。昔切ってもらってた所はもう無いっぽいしな」
「そうなんだ。私が行ってるところ紹介しようか?」
「え、いいの? してして」
見上げれば、嬉しそうに笑う旭と目が合う。
「明日電話してみるね」
「唯華ちゃん、ありがと。なんて紹介してくれるの?」
「うーん、義理の妹、が無難かな」
「義理の姉妹で恋人、ってなんか禁断の恋って感じだよね」
「ふふふ、禁断の恋、ねぇ……っ」
微笑む旭の目付きが変わって、やばい、と思った時にはもう遅かった。
「唯華ちゃん、好きだよ」
頬に手が添えられて、そっと唇が重ねられた。
「んぁ……あ、さひ……っ」
「はぁ、かわい……唯華ちゃん、好きだよ」
唇を塞がれたままゆっくりソファに押し倒されて、手はシャツの中に入って素肌を撫でられている。
「旭、だめ……っ」
「あ、ごめん。向こうの部屋に布団敷いたから」
いや、場所がダメってことじゃないんだけど……?
「まって、電気……っ」
「恥ずかしい? こんなに綺麗なのに」
待つ気のない旭に抱き上げられて布団の上に降ろされて、あっという間にボタンが外された。隠したかった体型が旭の前に晒されて慌てて隠した。
「全然引き締まってないし、あんまり見ないで……」
「こんなに綺麗なのに……ここに梨華と悠真が居たんだね」
「ぁ……」
「えろ……」
お腹を撫でられただけなのに声が出てしまって慌てて口を手で塞いだ。
この調子で最後まで持つ? こういうの久しぶりなんだけど、私大丈夫かな?




