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81 持ち出すばかりじゃ駄目だよね


地球は、なにかとめんどくさい。

特に面倒なことが立て続けに起こった。

ゆっくりと異世界を楽しめていない。

みみ子は、不本意だった。


それなのに、黒雷電業から重要な相談があると言われた。


この国の電気の元締めである電力会社の社長から、話がしたいと接触があった。

政治家も同席するという。

とってもめんどくさい話になりそうだった。


黒雷電業に丸投げしよう。そうしよう。


ジジババ友の会ができること、できないことだけは伝えて、任せよう。

鷹白も黒雷電業の教重も、しっかりした人物だ。無茶なことはしないだろう。



会見が行われた。


「発明者と制作者からの伝言です。

趣味で作ったものが役に立つのはうれしい。

だから、これで大金持ちになろうとか、世の中を牛耳ろうとかは考えていない。

できることは提供する。提案があれば考慮するかもしれない。

しかし、無理をするつもりはないし、できない。

嘘つきは嫌いだ。嘘はつかないように。

良い仕事をするには、信用第一」

鷹白が、まず友の会の指針をを伝えた。

「私たちは、彼らの要望を守ると約束しています」


電力会社の社長は、しばし瞑目して、大きく息をはいた。

「分かりました。大変ありがたい。こちらも正直に言いましょう。

迂遠なはかりごとや回りくどい交渉は、得意ではありません。

言えないこともあるかもしれないが、嘘はつかないと約束しましょう」


政治家が言った。

「わっはっは、私の出番がなくなるところでした。

私にできることがあれば、協力します。

世間やマスコミには酷い言われ様をされますが、政治は簡単な仕事ではありません。

国を少しでも良くしたいという思いがなければ、やっていられません。

金を儲けたいなら商売をすれば良い。

権力が欲しいなら、他にいくらでもやりようがある。

泡沫候補と言われる政治家でも、国を良くしたい思いがなければ、立候補すら難しい。

この国のためになることならば、誠心誠意力を尽くします」


光果発電装置は、急激な増産はできないが、ゆっくりと増やしことは可能だ。

今後、(株)鷹白と黒雷電業が用意できる設置場所が、限られてくる。

鷹白が現状と今後について説明した。

それを受けて、話が進んだ。


電力会社が、設置場所と警備を引き受ける。

光果発電装置のお世話とお世話係の育成を、黒雷電業が請け負う。


光果発電装置については、詳細を一切公表しない。

発表しても、ばかにされるだけだからだ。

漏れてしまう分には、神経質にならなくても良い。

どうせジジババ友の会以外には作れない。

だから、製造元については極秘にしてもらう。友の会の安全のためだ。


とんとんと話し合いはまとまった。

稼働停止になった原子力発電所には、関係者以外立ち入り禁止区域がある。

柵に囲まれて、警備体制はすでにそこそこある。わざわざ立ち入る人間は居ない。

まずは、周辺監視区域内にある建物の屋上に設置する。


そんな風に契約がまとまった。


報告を聞いて、みみ子は異世界に行った。

みみ子は、おおざっぱなくせに心配性でもある。

気になることができた。


凭浜高司尊に聞いてみた。

養いの実、光果、苔雷、羽布、大風呂敷、織蜘蛛布等、この世界から多くの物を地球に持ち出している。

特に養いの実は、かなりの量になっている。これからも増えそうだ。

光果と苔雷も、これから増えるだろう。

この世界が痩せてしまうのではないか。

地球からも、何か補充しなくても良いのか。

だんだん心配になってしまった。


みみ子の問いに、凭浜高司尊は答えた。

『さあり。樹の亡骸もあった。

まだ、しばらくは気にせずともかまわぬ。

されど、叶うならば、この先のこともある。

地球で要らぬ物などあらば、<物喰らいの穴>に落としてもらえれば、ありがたし』


物喰らいの穴は、遥か西にあるという。

西に大いなる大陸がある。

その大陸をさらに西に向かうと、高い山に囲まれるようにして大穴が開いている。

穴に投げ込めば、どんな物でも、やがて世界にとって有用な物に変わって、世界の肥やしになるらしい。


「どんなものでも」

「しかり。重きもの、大いなる物であれば、なお良し』

「放射性廃棄物でも?」

『障りなし。むしろ得難き糧になろう』

長い間雲に閉ざされていた世界では、(うちゅう)からの刺激が皆無だった。

世界が育つ良い刺激になるかもしれない、ということらしい。


うん、穴を探そう!

地球では処分に困るような物でも、捨てられるなら便利だ。

地球側ばかりが得をするようで申し訳がない気もするが、異世界の肥やしになるなら、万々歳だ。


問題は、かなり遠いらしいことである。

ちょっくらちょっと行って、そそくさと帰って来れるような距離ではないらしい。

遠征隊でも組もうか。

本格的な冒険になるだろう。


会員たちに相談しよう。案外ジジイたちは喜びそうだ。

空飛ぶ列車は難しいが、空飛ぶボートなら、すでにある。

空を行けば、早いだろう。


問題は、場所の詳細が不明なこと。

空の上に、危険があるかどうかも、よく分からない。

雲が覆い、雲が晴れて、異世界の何かが変わってしまったかもしれないのだ。

不測の事態が起きているかもしれない。要注意である。




本部会館の掲示板に、物喰らいの穴に付いての情報を書いた。


今後、異世界から持ち出しが多くなると予想できる。

地球の不要品を物喰らいの穴に捨てれば、恩恵のいく分かを異世界に返還できる。

有用な物をもらって不要品の処分ができる。おいしい。

誰かに探しにいって欲しい。


拳骨山隠れ里支部と黒天狗支部にも通達を出した。


拳骨山隠れ里からは、千々岩夫妻が興味をしめした。

夫妻は、単純に冒険がしたいらしい。

黒天狗支部の支部長、軽間兄子がやる気だ。

「もらってばかりでは仁義にもとる。お返しするのは当然」

妹の弟子が引きずられて、付いていく気になっていた。


だいたいの方角が分かっているだけで、詳しい位置は不明だ。

探索する範囲が広すぎる。

長期戦になることが予想される。

引き受ける人は、くれぐれも迷子にならないように、準備と計画を整えて安全を図って欲しい。


「おっ、難易度の高いクエスト」

掲示板を見て、猿が言った。

「クエストってなんですか」

音無恭子が聞き返した。


「探し求めるとか、探求すると言う意味の英語だったと思う。

異世界もののファンタジー小説では、冒険者への仕事の依頼と言う意味」

「なるほど、ぴったりね」


本部では、はぐれ雲のグレさんが真っ先に手を挙げた。

山川谷男も率先して応募した。

「世界地図を作るチャンスは、見逃せません」

「桃太郎の旦那も行くだろ。行こうよ。世界一周の足がかりだぜ」

はぐれ雲が桃太郎をそそのかした。

なにかと便利な人材だ。使い魔が六体も憑いている。

「異世界一周……」

桃太郎が、その気になった。ちょろい。


「まずは、船を調達しようぜ。空飛ぶ船で、ひとっ飛びだ」

「ちょい待ち。迷子になるなと言ったよね。

後先考えずに飛び出すのはやめて」

みみ子は、慌ててはぐれ雲を止めた。



船は良いとしよう。

操船する人間を交代すれば、楽に長距離を移動できる。

しかし、迷子対策をしっかりしないと危ない。

まだ異世界地図は無いのだ。

都合よく、目印にできる物があるかどうかも分からない。


「ビーコンを設置しながら進むのはどうよ」

みみ子は、とりあえず思いついたことを言ってみた。

「ビーコンて何だ」

「海で遭難したり、雪山で遭難したりした時にあると便利らしいよ。

信号を出すやつよ」

みみ子も実物は知らない。

昔、本で読んだ気がするだけだ。


「最近のビーコンは、進化している。

道路の交通情報を出したり、大型店舗での案内や宣伝情報を出す」

猿がネットで検索しながら答えた。


宣伝は要らない。位置情報があれば良い。

複数設置することになるから、各々のビーコンの識別記号は欲しい。

今使われているビーコンは、電波の到達距離が短いらしい。数十メートルくらい。

それでは使えない。出力をあげて距離を伸ばせるなら、そうしたい。

光果発電装置があれば、出力には困らないはずだ。

異世界には、よけいな電波が飛び交っていない。

せめて、数十キロは届いて欲しい。

電波を発信する灯台みたいな物になればいい。


そのへんは、詳しい人に丸投げして頼もう。なんとかしてもらおう。

ということで、お願いした。


拳骨山隠れ里の渡り門も黒天狗の渡り門も、凭浜の門より大きい。

新しく買う船は、そっちから異世界に運ぼう。

楽に渡せるはずだ。


空飛ぶ船を用意するために、猿は手頃な船を注文した。

大道具さんは、羽布をかき集めた。



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