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8 妖エネルギー研究会で仲間を捜す

登場人物

    空原 みみ子  年金生活の婆さん。異世界への入り口を発見。

    谷戸 晴美  妖エネルギー研究会の会員。本来は冷静な弓道婆さん。




本部の講習会に参加したのは何年ぶりだろう。

参加者を見回しても、知った顔は無い。

とりあえず、みみ子はおとなしく講習を受けた。


こうした講習会は、月に一回、毎月行われる。

参加するのは、新会員、熱心な会員、不思議話を心置きなくしたい人、暇な人。

今回は、まずエネルギー封入の実践講座だ。

それぞれが硬貨を二枚財布から出し、エネルギーを入れる(つもり)。

紙コップで隠して、入っているのはどちらかを当てる、という遊びだ。

隣の席の女性が声をかけてきた。みみ子と同じような年頃である。

「すいません。小銭を切らせていて。貸していただけませんか」

みみ子は快く貸した。みみ子の財布は小銭だらけだ。札は少ない。

分かったの分かんないの、入ってるの入ってないのと、騒がしく結果に一喜一憂した。


次の講師が登場した。

指定した人の魂を抜き出し、大きさや状態を見る。というのをやった。

研究会では、「魂」では無く「エネルギー体」といい、

本物の魂ではなく、コピーを出すのだと言っている。

確かに、魂を抜かれたら大変である。


その講師は、以前見かけたことがある。話もした。

普通のエネルギー体は丸いが、霊媒体質の人は、大きく欠けている部分があるらしい。

当時テレビで大人気の霊能者のエネルギーを見たことがある。そんな話をしていた。

件の霊媒師のエネルギー体は、五角形に近い歪んだ形なのだという。

みみ子もやってみた。

なんとなく大きさは分かる気がしたが、形はさっぱりだった。

他の会員に聞いても、形が分かるのは、その人だけらしい。

他には、エネルギー体が大きすぎて、上下に伸びたエネルギー体が、柱みたいになっている人が居るという証言もあった。

雲を消す人とは別人だ。


講習が終了して、隣の人から硬貨を返してもらった。

流れで雑談になり、雲を消すのが上手な人を知らないかと聞いてみた。

「ああ、<雲消し>は、流行らなくなったみたいですよ。飽きちゃったみたいで。

私もやってみたけど、エネルギーで消したのか、風で消えたのか不明ですし。

上空は、地上とは違う風が吹いていると思いますから」

冷静な判断が出来る人らしい。

そんな人が何故この研究会に? と聞いてみた。


夫が居るというので、講習中、試しに夫のエネルギーを調べたら、

大きくて丈夫そうなエネルギー体だった。

熱心とは言えないみみ子にも感じられるほど、立派なエネルギー体なのだろう。

真っ当な精神をしている人は、怪しいものを嫌う。

その女性も、堅実な家柄で育ち、妖怪や幽霊の類いは信じていなかったという。

高校生の頃から弓道を嗜み、県大会で優勝した腕前の硬派だ。

やはり夫も、怪しい話は大嫌いらしい。


それでも入会したのは、納得しがたい不思議体験が忘れられないからだという。


学生時代、精神を高めて集中力を鍛えるため、ということで、

弓道の仲間たちに誘われて、座禅の会に参加した時のことだ。

ふと気を緩めて座禅を解くと、他の人たちは、まだ瞑想の最中。

静寂の中、一人だけぼんやりしていた。

すると、道場の空間に、白く光る小さな粒が無数に浮いている。

目がおかしいのかと擦っても消えない。

他の人たちが座禅を解いて動き出し、声をかけられるまで、ずっと見えていた。

あの光る粒は、なんだったのだろう。

埃ならば、空気が動けば舞い上がる。風が吹けば流れ散る。

なのに、あの粒は、そうした自然界の原理とは無縁に見えた。

確かめたい気持ちと好奇心に勝てず、入会してしまった。


「あのー、私、空原みみ子と申します。

不思議体験に興味がおありですか。お時間はありますか。

良かったら、遊びにきませんか」

みみ子は、我ながら胡散臭いなと思いつつ、誘ってみた。

女性はしばし考え、

「何かの勧誘ですか」と聞いた。

「ご存知と思いますが、研究会内部では勧誘は禁止です。

以前、商品セールスとか、他の団体の勧誘があって問題になりました。

迷惑なら、本部に相談すれば、対処してくれます。

ごくごく個人的なお誘いです。無理にとは言いません」


住所を教えたら、意外に近くに住んでいることが分かった。

連絡先を交換し、来る時は、歩きやすい靴と動きやすい服装を推奨しておいた。

詳しいことは、口頭で説明するのが難しい。彼女が門に入れない危惧もある。

見てのお楽しみにしておいた。

もしも行けなかったら、神の岩(笑)見物でごまかそう。

それなりに、見応えのあるできばえになっている。


「申し遅れました。谷戸晴美(やとはるみ)です。都合がついたら、連絡します」


予定とは違ったが、仲間になりそうな人と知り合えた。

「妖エネルギー研究会」のように会を作って仲間を集めたら、あの世界に青空を取り戻すのは楽になるかもしれない。

仲間が居た方が楽しそうだとも思った。

しかし、しかしである。

<異世界に青空を>なんて言ったら、中学二年生だと思われる。

還暦を過ぎているのに。

それは、痛いなんてものじゃない。

たぶん、ボケ老人だと思われる。

それは嫌だ。


会を作るにしても、もっと無難で地味な、分かりやすい名前が良い。

みみ子はあれこれ考えてみたが、良い案が浮かばない。

電車の窓から見える看板を眺めながら、うなった。

「雲を吹き払え研究会」「青空を取り戻す仲間たち」ひねりが無い。

「青空推進連盟」「黒雲撲滅協会」物々しい割に、ぱっとしない。

名前をつけるのは難しい。

「雲の下の不思議探検隊」は、嫌な予感がする。

世間が許してくれない気がする。


帰り道は、うなりながら過ぎていった。




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