76 防衛大作戦
鷹白社長に連絡した。
黒い玉を屋根に付けない方式の説明をした。
おいおい新方式に光果発電装置を入れ替える事にした。
もちろん、車に搭載する分だけである。
屋上の大規模発電は、警備を強化してそのままで続行する。
本部襲撃から半月ほど過ぎた庚申の夜。
真夜中に、門のそばに植えた庚申木がぼんやりと光った。
みみ子が見に行くと、枝に、二匹の虫が居た。
公仁常立尊の説明通りだ。
虫は静息だ。
枝を通して、西洋人の押し込みの様子を聞く。
押し込みは、某大国のスパイだった。
二人は、仲が悪いようだ。仲間割れ寸前の喧嘩をしていた。
どうやら、会員の拉致誘拐を考えているらしい。
会館に出入りする回数が多い人間からターゲットを絞ろうとしたようだ。
ジジババ友の会の内情に詳しい人間が欲しい。
たまにしか出入りしない人間をさらっても、役に立たなければ仕事の危険を増やすだけだ。
白衣の上にローブを来た大男(風魔大太郎だろう)が、車椅子で連れてくる覇気のない男など論外だ。
何か知っているようには見えない。
詳しそうではあっても、織蜘蛛マント隊の三人は、拉致候補から外された。
毎日のように会館本部に居るが、目立つし、怪しすぎて拉致はしにくい。
どう扱えばいいのか予測がつかない。
二人でケンカ腰の相談の結果、みみ子と音無姉妹のどれかに決めた。
年寄りの女なら、少し脅せばおとなしくなるだろうと考えたようだ。
拉致のチャンスを探っていた。
彼らとは別に、本国が別の手段を考えているらしい情報もあった。
静息は朝になる前に消えた。
スパイの所に戻ったのだろう。
静息の知らせをまとめて、掲示板に貼り出した。
スパイがたてた拉致誘拐計画を明らかにして、対策を募集した。
谷戸晴美や犬井咲子のように、たまに来る女性会員にも、念のために警告を出した。
男性会員にも単独行動をしないように指示した。
必要な買い物は、まとめて男性会員が集団で出かけた。
もしくは、ネット注文だ。
届いた物は、音無恭子の使い魔がチェックした。
恭子は、栄養士の山田マリや華京園阿比子お嬢様から手ほどきを受けた。
呼吸法から気を練る事を学び、少し前に使い魔を手に入れた。
色がくるくる変わるマモルちゃんである。
安全は青、注意は黄色、危険は赤になって、教えてくれる。
届いた品物の上で、黄色になった。
盗聴器が仕込まれた物が見つかった。
鷹白社長にも、さらに警戒を強めるように要請した。
順次電動車を目立たないように改造した。
町中で、黒い玉を付けているのは、友の会の車だけになった。
幸いな事に、みみ子も音無姉妹も、地球では出不精である。
お出かけは、異世界で。
不自由はしない。
警戒態勢の中、みみ子は会館内のお片づけをした。
掃除はロボットがやってくれるが、片付けまではできない。
機材置き場になっている部屋の片隅には、いろんな物が転がっていた。
音無結絵が制作に失敗した装置の残骸。
大工名人が腕ならしで作った木組みの一部。
大道具さんが作った材料も不明な置物?
その他の会員の要らなくなった物。
それらを眺めているうちに、創作意欲が涌き出した。
自分の才能に見切りをつけて以来、久しぶりの事だ。
みみ子は作った。
庭の片隅に、作品を設置した。
意味有りげだが、まったく意味不明のオブジェである。
さりげなく目に付く。
みみ子は満足した。
大工名人、大道具さん、音無結絵に見せた。
気に入ってもらった。
他の会員も交えて、オブジェの周囲に手を加えた。
「思うように手が使えなかったんだ。恥だと思って隠したんだがな」
大工名人は、片手で顔をつるりとなでると、ペチンと額をたたいて続けた。
「こりゃ面白い」
「屋外に設置すると、なかなかに意味有りげになりますね。
これは楽しい」
大道具さんは、笑った。
「まれに見る大失敗だった。恥ずかしいと腹立たしいの塊なのに。
うふふふふ、うっふっふ。傑作です」
音無結絵は、大笑いした。
手伝った他の会員も面白がっていた。
皆を見て、みみ子は悪い笑顔でうなずいた。
「よっしゃあ」
その頃、鷹白社長の元に、とある商談が持ち込まれていた。
「この会社、うちとは同業とはいえないよね。
素人なら似ていると思うかもしれないけど、まったく提携できる余地が見えないんだけど。
何故、今、業務提携の話なんだろう」
鷹白は首をひねった。
「これが相手先の調査報告です。
うちと提携するメリットが分かりません。こちらもですけど。調査を続けますか」
信頼できる部下も、同じような意見だ。
「直接聞いてしまおうか。考えても分かりそうにない」
「お忙しい中、ありがとうございます。<アイディール>の与根国と申します。
常々思っていたのですよ。鷹白さんの所は営業を広げれば、世界に通用する会社になる。
そのままではもったいないなあと。
今や国内だけで商売していても、旨味に欠けるようになりました。
世界の市場の取り合いになっています。
うちなら、営業拡大のお手伝いができると思います」
「お眼鏡にかなったようで、うれしいです。
しかし、うちは現在の規模で丁度良く回っていまして、安定した利益が出ています。
無理をしなくてもいいかなあ」
「無理ではありません。うちとタイアップすれば、確実に<世界の鷹白>になります。
鷹白社長は、狭い国内で満足する器ではないと思います。
自国の発展のためにも、ここは、手を組みましょう。世界に打って出ましょう」
「世界ですか……」
「そうだ、そちらとうちで、人材交流をしましょう。
優秀な人材を育てて、共に発展しようではありませんか」
「いやあ、せっかくのお申し出なのですが……、正直に申し上げます。
今、事業を大きく動かす気はないんですよ。
もしかしてご存知かもしれませんが、分社化した部門がありまして。
当面は、そこに力を入れる予定なんです」
「『黒雷電業』でしたか」
「やはりご存知ですね」
「社名は耳にしましたが、何処にある会社なのかまでは存じません」
「我が社の本社ビル内にあります」
鷹白が答えると、相手は納得したようにうなずいた。
「発電事業は乱立して、舵取りが難しい状況ではありませんか。
うんうん、我が社は、むしろ、そちらの方でお役に立てそうです。
まだ新しい子会社ですよね。これからの発展に必要な優秀な人材を、うちから派遣できますよ」
前のめりで力説する目が、ギラリと光った。
「そうですか。そっちは、まだ人材不足ですから、ありがたいお申し出ではあるのですが」
「技術者も派遣できると思います」
相手の勢いに、鷹白はちょっと引いた。
「あははは、技術者というか、調教師というか……」
「ちょうきょうし、ですか?」
聞き間違いだと思ったらしい。聞き流した。
「あのう、つかぬ事をお尋ねします。
小耳に挟んだのですが、そちらの発電装置は特許申請されてないというのは、本当ですか」
「はい、特許は無いです。まったく独自の方法なので、真似は無理だと思います。
発明者は、真似ができるなら、それはそれでかまわないそうです。
うちは、発明者からレンタルしています」
直接面会したが、やはり、今ひとつよく分からない。
業務提携の条件は、鷹白に有利になっていた。
しかも、妙に熱心だ。
株式会社鷹白は、株式を公開してない。
乗っ取りもできなければ、社外株主が乗り込んでくる事も、口を出す事もない。
すべて独自に判断して運営できる。
長期計画をたてる事ができる安定が、強みでもある。
「長い目で判断しないとな」
そして真夜中。
ぴかっと光って、ジャンジャン、ジャンジャンと大きな音が鳴り響いた。
ガチャン ドカッ ビリビリビリ ズズズーッ ゴツン カチッカチッ
何とも知れぬ異様な音がした。
ジジババ友の会会館なのであった。
「またですか」
警察が来て、打ち身と感電で気絶した不法侵入者を回収していった。
不法侵入者は、木組みとロープに絡めとられ、大きな置物の下敷きになり、ご丁寧にも、おもちゃの手錠をはめられていた。気絶しなくても、しばらくは身動きはできなかったろうと思われる。
三人居た不法侵入者は、公安に移送されたという。
一週間後に同じ騒ぎがあり、今度は、中の一人はギブスを付けていた。
治りきっていないのに、無理をしたようだ。
それらは、病院から逃げ出した人物たちと同じだった。
いい加減に、懲りたらいいのに。




