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75 防衛作戦


事故を起こした三台の車に乗っていた人たちは、怪我をして病院に運ばれた。

重傷だった一人のうわごとが、外国語だった。

彼を含めて、入院治療が必要だと判断されたが、その日の夜に、全員が姿を消した。

怪我をしたまま、病院から消えた。



絶対に怪しい。



「ねえ、車の屋根に黒い玉があると、やっぱり目立つわよねえ。

なんとかしたいわねえ。また狙われそうな気がする」

みみ子が嘆息した。


「電気は、屋上でばんばん作っているんだから、車に充電すれば良いんじゃないの。

屋上と最上階は押さえているみたいだから、最上階で充電しちゃうとか」

そう言ったのは、音無恭子だった。


「それは難しい。自動車のバッテリーは、大きくて重い。

機械じゃなければ動かせないくらい重い。500キロくらいはあるらしい」

妹の結絵が答えた。


「ふうん、じゃあさ、バッテリーを小さく軽くできないの」と恭子。

「それを考えた人はいると思う。でも実用化されていないという事は、難しいんだと思う。

作れるか考えておく」と言ったのは結絵。

会館の居間で、養いの実をかじりながらの姉妹とみみ子の会話である。


「ふううん、バッテリーが難しいなら、光果の方を交換するのは?

充電じゃないか、たっぷり光をためた光果を予備で持っておくというのはダメ?

軽くて小さいわよ」


「……みみ子さん天才! それならできるかも。

簡単に交換できるように考えてみる。いける」

(へた)をセットしてから外すようにもしなくてはならない。

光がすっからかんになくなってからなら大丈夫だが、残っているとまぶしい事態になる。


それでも、盗まれると、ショックで苔雷が死んでしまう。

盗まれないようにするのは変わらない。


「光がたまった光果を取り付けるなら、屋根に付けていかなくても良いよね」

「おお、ひっそりこっそり目立たなくできるね」

「うんうん、外から見ても分からない」


「取り付けるところに、合い言葉を決めておけば、少しだけど盗難対策にもなる。

合い言葉が破られなければ安全だよと言い聞かせておけば、苔雷が死に難くくなるかも」

「それ、いきましょう」


光果発電装置の使い方に付いて意見交換した後は、つい先日の事件に話が移った。

「病院から逃げたということは、やましい証拠。

前の盗難事件の犯人も、そいつらかもしれませんね」

恭子が言えば、

「そうかもね。逃げるなんて怪しすぎるもの。でも、本当の所は分かんないけどねえ」

結絵も大事な発明品が被害にあって、静かに怒っている。


「グレさんが無事で良かった。

あのマントを着てなかったら、死んでたかもしれないよね。

かなりのスピードでぶつかってきたみたいだから。許せんなあ」

みみ子は、すっかりおかんむりである。


「話を聞いただけだし、はっきりした証拠は無い。ただの推測。

おそらく、一人をひき殺したすきに一人を人質にして脅し、運転できる人間ごと車を盗む。

そういう段取りだったのかもね」

「ああ、なるほど」


「ぶつかった三台の車から出たけが人が、全員病院から逃げたんでしょ。

無関係の被害者じゃない事は確かだけど、共犯者にしては多すぎる。

それぞれが、別々に狙ってたのかもしれないね」

「だったら間抜けね」

みみ子は、思わず言ってしまった。

結絵の推理は、あたっているような気がする。


「やだもう、物騒すぎる。平和が欲しい」

恭子がつぶやいた。


そんな風にして、幾日かが過ぎた。

病院から逃げ出した連中は、行方が分からないままだ。




月見町三丁目、ジジババ友の会本部会館。

草木も眠る丑三つ時である。


辺り一帯に、眩しい光が満ちた。

光源は会館のあちこちである。

ほぼ同時に、ジャンジャンジャン、ウ〜〜ウ〜〜、グアーーングア〜〜ン、

どでかい音が鳴り響いた。

発生源は、友の会会館である。


眠りについていたご町内の皆様は、飛び起きた。

何人かの人が110番に連絡した。

119番にかけた人もいた。

大迷惑である。


家から飛び出す人も少なからず居た。

その人たちは、昼間よりも明るい町で、あわてて逃げ出す不審人物を目撃した。

たぶん二人だ。

目立たない角に停まっていた車に飛び乗り、猛スピードで走り去った。


ついでに、三階のベランダに、光を背にしてマントを翻す怪しい三人の人影も目撃された。

あ〜あ。


みみ子も目が覚めて、会館に駆けつけた。

寝間着代わりのジャージだが、かまっていられない。普段着と変わらない。


「おーい、大家さーん。悪人どもは逃げました。安全です。

これはどうやって止めるのでしょう

この辺り一帯が大騒ぎになっています。止めないと」

三階のベランダから、桃太郎が叫んでいる。


「あれ、どうだったっけ。忘れた」

「ええーっ」三人のジジイの声がそろった。

すっかり気の合う仲間になっている。


「しばし待て。思い出す。だいじょぶ。

そっちは光果に蔕を付けて。光を止めて。

廊下に遮光マスクと濃ーいサングラスがあるから。頼むわ」

「了解しました。隊長」


「勝手に隊長にするな」

文句を言ってみるが、警報音がうるさくて、みみ子の声は誰にも聞こえない。


パトーカーが来た。

消防車が来た。

野次馬も来た。


警察、消防、野次馬の中から現れた町会長。各方面から叱られた。

消防車は帰っていった。

警察が野次馬を整理してくれた。


「何者かが会館に押し入ったのです」

桃太郎が被害を訴えた。


賊は館内には入れなかった。その前に光と音が作動した。

敷地内を調べた。


以前、ネットで誘拐事件の容疑がかけられた時、落書きに対処するために付けた物が壊されていた。

門に近づくと明かりが付く仕掛けは、センサーを切断されていた。

分かりやすく付けた監視カメラと、分かりにくい所に付けた監視カメラは、塞がれていた。


しかし、ものすごく意外で、手が届かない場所に、見えないように付けてあった監視カメラは無事だった。

皆であれこれ考えたのだ。そこにあると知っていても、見つけられない仕上がりになっている。

西洋人の男二人が、侵入した経緯が映っていた。

手際の良さから、プロだと思われる。


騒ぎの原因になった大げさな警報装置は、昨日できたばかりだ。

苔雷を利用した植物由来の装置だ。

成功したが、やりすぎたかもしれない。

でも、悪いのは侵入者だ。そこは、警察にも強調しておいた。


冗談ではなく、公安案件かもしれない。

地球は狭くなっている。

国際的に狙われている可能性を考慮しなくてなならなくなった。


みみ子は気を引き締めた。

「ご町内の皆様の 平和と安心を守りましょう。

織蜘蛛マント隊、頼みますよ」


「お任せあれ」

「がってん承知」

「返り討ちにしてやるぜ」


三人の爺さんが、不適に笑った。




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