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69 拳骨山隠れ里支部と養生院の来客


中部地方の山の中に、ジジババ友の会の支部が誕生した。

支部長は、糸館継顕。入会早々の大出世である。

本人は、領主と名乗っている。


渡り門のある山に名前は無い。

個人所有だった小さな山である。◯◯さんの山で通っていた。

新領主は名前を付けた。「拳骨山(げんこつやま)」である。


糸館が受け継いだ山は、渡り門のある山を含めて三つあった。

拳骨山その一、その二、その三だ。

友の会は、そんなに要らない。一つだけを買うつもりだったが、そういう訳にもいかなくなった。

結果、山の所有者は、そのまま糸館である。

会員だから問題ない。


山の価格はあってないようなものらしい。

売り手と買い手の相談で決まる。

手入れが必要だが使い道が無いようにみえる山を高価で取引したら、かえって不自然だ。

どうせ安値でしか売れないなら、手元に置きたいというのが領主様のご意向だ。


線路と廃村は、予定通りジジババ友の会が買った。

持ち主には用なしだったので、二束三文だ。

廃村は建築班の三人が手入れした。

状態が良い家を修理し、廃屋は取り壊した。

地球上の第二の拠点を喜んで、手伝う会員がいるので、作業は手早く進んだ。

できた空き地に、会館を建てる予定もある。


山の手入れは、地元の木こりに依頼した。

これが一番金がかかった。

川の近くを掘り下げ、ため池を作った。

熊山はユンボ使いの達人だった。手際よく掘り、水を引いた。

伐採した木の一部を池で乾燥させた。

木を乾燥させるには、まず水につける。

乾燥といいながら水につけるのは、樹液を流すためである。

木場で、材木が水に浮かんでいるのは、そういう理由だ。


年老いて体がいう事を利かなくなりかけた木こりに養いの実を食べさせて、無事に乗り切った。

そんな中に、廃村で余生を楽しみたいという木こりがいた。

ジジババ友の会の会員が増えた。


拳骨山支部だったはずだが、隠れ里と言い出したのがいて、気に入られた。

ジジババ友の会の会員は、落ち武者のようなものだから、言い得て妙である。


中部地方の山の上に空飛ぶボートが現れたが、目撃者はいなかった。




会員の多くが隠れ里作りにはまっている一方、月見養生院に訪問者があった。

日本に名だたる大病院、夕日丘病院の内科筆頭教授、赤塚富士丈(あかつかふじたけ)である。

困ったように頭を掻き掻きする風早がおまけについてきた。

「すまん、しつこくてなあ」


「お時間をいただき、恐縮です。

夕日丘病院の内科部長をしている赤塚と申します。

失礼ながら、こんな小さな病院に、あなたのような名医がいらっしゃるとは、寡聞にしてして知りませんでした。

風早氏が、こんなに元気になるなど、想像もできませんでした。

是非、私にもご指導いただきたく、お願いにあがりました」

丁寧に頭を下げた。


「うへえ、まいった」

望月院長は戸惑った。

相手は、医学会では有名人である。

「こちらこそ恐縮です。

転院の際にいただいた資料を見て、感服しました。

あの延命のさじ加減はさすがです。

私では、及びも付かない」


「何をおっしゃる。延命は所詮延命。

患者の苦しみを長引かせるだけなのではないかという葛藤があります。

しかし、あなたは、手遅れだった風早氏を完璧に治療した。

奇跡と言ってもいい名医です」


名医などと言われると、お尻の先から頭のてっぺんまでむず痒い。

医者の腕というより、養いの実のおかげだ。


赤塚の食いつきがすごいので、とてもかわせない。

望月は、渋々養生院たるゆえんを説明した。


「治療ではなく養生ですか。栄養管理が主だと。

信じられない、うちだって栄養管理をおろそかにはしていない。

しかし、こんな成果を見せられると、信じるしかない状況だ。

是非、是非、ご教授願いたい。

うちは、こことは患者数の規模が違います。臨床で手伝う事ができます。

手伝うだけで良い。研究成果は、望月先生の名前で発表しましょう」


「うわああ。それはお断りします。

赤塚教授は『月見病院事件』は耳にしませんでしたか。

かなり大騒ぎになりましたが」

「やっぱり、あの事件の病院でしたか。

一所懸命に治療しても、残念ながら逆恨みをかう事がない訳ではない。

そういう事なのだとお察ししています」


「分かっていただけるとうれしいです。

あの事件の後、私は死にかけました。

そのおかげで『養生』に出会えたとも言えるので、複雑ではあります。

しかし、今は落ち着きましたが、もう、ああいう騒ぎに巻き込まれるのは勘弁なのです。

マスコミ恐怖症とでも言いますかね。あはは。

うちでやっている事で誰かの命を救えるなら、それはうれしい。救いたい。

しかし、表には金輪際出たくない。表立った発表はしないでいただきたい。

今の僕は、隠居の道楽で養生院をやっているようなものです。

こっそりと真似をするのは、大丈夫です。

内緒にしてもらえるなら、うちの特製ジュースをお分けしましょう」


「そのジュースのレシピは教えてもらえませんか」

「材料が内緒なのです。ある場所の特産品なので」

「では、成分をを分析するのはだめだろうか」

「それは、全然かまいません。

分析して、他にも効果が出るものが開発されるなら、それはそれで大歓迎です」

養生ジュースは、それほど儲かっていないというし、ジジババ友の会は気にしない。

手間が省けるなら、うれしいくらいだ。

その分、異世界で新しい事ができる。


月見養生院でやっている事を伝授された赤塚教授により、夕日丘病院内科の一部に、養生院の手法を取り入れた部門ができた。

治療法が見つかっていない、あるいは治療法が確立していない疾患の患者の了解を得て、臨床研究が始まった。

手遅れで、現代医学では対処できない症例を含んでいる。

肝は、もちろん養生ジュース。

試飲のために送ったジュースを飲んで気に入ってしまったスタッフが、元気になった。


赤塚教授は、専門の研究所に成分分析を依頼した。

基礎的栄養素の他に、ビタミン、ミネラル、各種ポリフェノール類の他に、謎の成分が発見された。

発見はされたが、正体は謎のままであった。


後ろでおとなしく話を聞いていた風早は、あすなろ食品加工のジュース工場に隣接して、新工場の建設を決めた。




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