64 事件ですよ
異世界の別館は「凭浜会館」と決まった。
敷地は広く取ってある。
地球のように縦に高くする必要はない。
横にいくらでも広くできる。
先ず造ったのは集会所。本館では居間と呼んでいる部分である。
独立した建物になった。誰かが「朝堂」と言い出した。
次に「虫殿」説明するまでもなく、異世界の虫に関するものを集める建物である。
地球にある本館の敷地に建造中なのは、単純に「お堂」と呼んでいる。
「納骨堂」では、人聞きが悪い。
次の建材と、凭浜会館に置く什器や家具を入れたい。
しかし、門前にはマスコミらしい人間が日夜張り込んでいる。
ものすごくやり難い。
建築資材は、お堂建設の失敗で消えたと思ってもらえても、什器や家具はごまかし難い。
会員の要望は、円卓会議ができる大きな丸テーブルと高い背もたれの椅子多数である。
本館には、明らかに似合わない。
他にも持ち込み難い要望が上がっている。
巨大モニターだ。
光果発電装置があるから、雲が晴れた異世界では、電気が使い放題だ。
しかし、持ち込むと、人目を目を引く事間違いなしである。
どれも見るからに高価だ。
目立たなくいように運んでいるとはいえ、建築資材も結構な量になっている。
友の会の収入は安定している。経理は万全だ。
だが、不当な収入があると勘繰る人間は出てくるかもしれない。
どうしようか。そんな相談でワイワイやっていると、ふと誰かが呟いた。
「そもそも、大きすぎるものは、渡り門を通せないのでは」
忘れていた。その場がシーンとなった。
「渡り門はあそこだけじゃないんだろ。
どっかにでかい門はないのかよ」
「門守命に聞いてみましょう。
本館の門前は人だかりが消えません。
他の門があれば、出入りが楽になります」
「うん、一石二鳥」
はぐれ雲が言い出し、桃太郎が賛成し、猿も同意した。
「いやいやいや、大きさだけなら、なんとかできるでしょ。
大型客船や戦艦や銀河鉄道列車を持ち込む訳じゃないんだから。
モニターは、門を通せる大きさまでにすれば良い。
円卓だって、一枚板では作れないでしょう。
いくつかに分けておいて、凭浜で組み立てるようにすれば良い。
でも、ここ以外に出入りできる門があるのは良いわね」
加熱する話を静めるのは、みみ子のいつもの役目だが、別の渡り門を探すのは良い案だ。
渡り門は複数あると門守命は言っていた。
桃太郎が言ったように、別に出入り口があるのは便利だ。
「探そうか」
「探してみようぜ」
「探しましょう」
「おお、面倒な事を、回避だ」
会員の意見がまとまった。
ジジババ友の会会館は、会員も馴染んで居心地は良い。
残念なのは、周囲が騒がしくなる一方である事だ。
何かとうるさい。
せっかく第二の人生なのだ。気兼ねなく楽しみたいのは、みんな一緒だ。
「近くにある他の渡り門か。あるには、ある。
だが、使えるかどうかは確かめた方が良いぞ」
凭浜門守命は忠告した。
「そうですね。千年経っていますから」
「うむ、阿斯訶備比古遅様の御座所だったところからほど近くにも渡り門があった。
鬼はそこから来たのであろう。その門が消えたらしい。
門守も、もはや居ない。死んだのであろうと思われる」
千年前から地球は大きく変わった。
その間に、土地の状態がどういう変化を起こしたか分からない。
一歩遅ければ、凭浜の渡り門がある大岩も撤去されていた可能性がある。
滅びかけていた異世界よりも、地球の変化の方が間違いなく激しい。
近いのは北だ。
幸多真比売から遠くないところに在るという。
流星号に乗って、はぐれ雲と山川谷男が向かった。
小型のGPSを持たせた。迷子や徘徊老人に持たせる奴である。
渡り門を見つけたら、それを門の外に放り出す。
地球では、猿が信号を拾って場所の特定をする。
GPSを頼りに、こちら側の門位置をを確認する事にした。
桃太郎がバイクを飛ばして、異世界から投げられるGPSを探しにいった。
桃太郎が戻ってきたのは、夜になってからだった。
ジジババ友の会の前は、騒然としていた。
ライトが会館を容赦なく照らし出している。
使い魔の物の怪たちも対処のしようがないらしく、隠れていた。
そこに桃太郎が門前に乗りけると、周囲にいた人間が押し寄せてきた。
「明日の朝一番に、死体の捜索が行われるようですよ。
何か良い分はありますか」
声と同時に、何本ものマイクが突きつけられた。
「ん??? 死体ですか。物騒ですね。事件ですか」
桃太郎はびっくりである。
「とぼけても死体が出れば、証拠も見つかるんじゃないですか」
「もうしらを切っても通らない。犯行を認めなさいよ」
「あんんたも犯行に加担してるのか」
「良いバイクに乗ってるね。それも騙した金で買ったんでしょ」
次々と意味のわからない言葉を投げつけられて、桃太郎は思案した。
みみ子の依頼は、ちゃんと果たした。騙してはいない。
「いいえ」
一言で答えた。
ジジババ友の会に入ってから、死体は見ていない。
みみ子がうるさく言うこともあって、法律には違反していない。
今日だって、速度制限を守ったから、こんなに遅くなってしまった。
異世界で存分に暴れているから、不満はない。
訳の分からない質問攻めにあっても、根拠のない罵倒を受けても、桃太郎の心は落ち着いていた。
だから、
「お前には罪悪感も罪の意識もないのかあー!」
という怒声が上がったとき、
「はい」と素直に答えた。
今の自分は、正義の味方を名乗っても良いかもしれない。
はて<罪の意識>と<罪悪感>は違うのだろうか。
そんな事を考えながら。
怒声は、報道陣の後ろからあがった。
カメラやマイクをかき分けて柄の悪いおっさんが出てきた。
「クズが! 死ねや!!!」
出刃包丁を突き出した。
桃太郎は、ひらりと避けた。
羽布に乗って高速飛行をしているので、動体視力が上がっている。
避けられて頭に血が上ったのか、おっさんは、めちゃくちゃに包丁を振り回した。
近くにいたカメラマンが、カメラをはじき飛ばされた。
マイクを握っていた人が、とばっちりで斬りつけられた。
悲鳴があがる。
と、そのとき、何処からともなく現れた白い影が包丁を撃ち落とし、暴れるおっさんを取り押さえた。
養生院のリハビリ担当、武芸百犯の風魔大太郎だ。
門の内から投げられたロープを受け取り、手早く拘束した。
「障害の現行犯だ。逮捕する」
それまで右往左往していた報道屋の一人が、それを聞いて安堵した。
「警察ですか。良かった。
張り込んでいたなら、もっと早くでてきてくださいよ〜。
けが人が出ました。警察が居ながら責任問題でしょう」
「いいえ、警察ではありません」
飛んだ包丁を拾った風魔が答えた。
「何言ってんですか。今『逮捕する』って言いましたよね。
警察じゃないなら、逮捕できないでしょ。嘘言っちゃいけません」
「現行犯なら、一般市民にも逮捕権はあります。知らないんですか」
風魔は、それまでに何人か逮捕して警察から感謝状をもらっている。
カメラマンが、はじき飛ばされたカメラを抱えて心配したり、怪我を負った記者が「痛い痛い」とわめき散らして、犯人が取り押さえられても現場野騒ぎは静まらない。
そうこうしている内に、パトカーのサイレンが近づいてきた。
59話の一部を書き換えました。
登場人物の名前を間違えていて、つじつまがおかしくなっていました。
すいません。
登場人物が多すぎる弊害です。
気をつけます。




