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57 世間様に対処しなくては


大工名人の不出来な孫は、会館の門前で説教された。

「なんで直接友の会に問い合わせなかった」


「怖かったから。

爺ちゃんが何人もの男に担ぎ出されたのを見た人がいたし。

なんか怪しげな会だから、用心した方が良い。そう言った人がいたし。

怖かったので、ネットで情報を集めようかと思ったんだ」


怪しげな会と言ったのは、誰だ。

世の中には、勘の良い奴がいるものだ。


ネットとやらも、誰が見るか分からないからには公共の場と同じだ。

責任を持てないことは書くな。

最後は、名人から小遣いをもらって帰った。

あま〜い。



記事の第三弾は出なかった。

訂正記事も出ない。

事態はあまり変わらない。


門の貼り紙は、剥がすことにした。

見栄えが悪すぎる。

夜にこっそり門に近づくと、光果が光るように細工した。結絵が。

しばらくは、貼り紙が途絶えたが、それでも貼りに来る猛者がいたので、使い魔に命じて脅かした。


噂に怪談話が加わった。

そんなある晩、歓喜の叫びが上がった。

みみ子は、忘れていた。

月見荘301号室の住人、怪奇現象研究家、羽加瀬淳のことを。


監視カメラの映像に、喜びの踊りを踊っている姿が録画されていた。

大変まずい事態らしい。

貼り紙撃退作戦は、急遽中止した。


今度は、夜な夜な、いかにも狂気にとらわれている風な老人が出没した。

怪奇現象研究家である。

おかげで、貼り紙を貼りに来る輩はいなくなった。

喜んでいいのか、困った方が良いのか、判断ができない。



地球の方が忙しくなってきた。

電動車の光果発電が、上手くいっている。

契約した会社の利用者と管理担当者に、講習会をした。


光果発電装置は、可愛がるように。

友人やペットのように扱って欲しい。

過剰な愛情は不必要だが、かまってやらないと不具合を起こす。

絶対に分解したり外したりしないこと。壊れる。

壊れたら、交換する以外に対処できない。

あまり多くの故障が出るようなら、この契約は破毀する。

その旨は契約書にも明記してある。


受講者の頭の上には、盛大に?マークが浮かんだが、しょうがない。

注意しておかなくては上手くいかない。


レンタル料は、一ヶ月980円にした。

バーゲン価格である、お得だよ。

営業車のガソリン代を考えれば、乗り放題でこの価格は格安だ。


問題が出たら、細かいことでも連絡して欲しい。

今後の利用者のための資料にする。


「質問はありませんか」

一斉に手が挙がった。

「可愛がるって、どうすればいいんでしょうか。

具体的お願いします」

まあ、そうだろうな。


「使う時に、一声かける、とか。たまに褒めてやる、とかです。

いつも、ありがとね。くらいでいいので、気にかけているよとアピールしてください。

おはようとか、よしよし元気かとかでもいいです。

言葉は何でもいいので、好意を示してください。

そうすると、応えてくれます。燃料効率が上がります。

何故かは聞かないで下さい。企業秘密です」


会場がシーンとなった。


     ◇     ◇     ◇


一方、丹生養生院の雇われ院長から相談があった。

知り合いの医者から連絡があったという。


院長になったと聞いて、祝いを言い、様子を聞いてきた。

「養生院とは、病院とは違うのか」

聞かれたので、説明した。

他の病院で手を尽くしても回復しなかったり、手遅れだったり、あるいは原因不明で治療法がない患者を受け入れて、ゆっくり養生してもらう施設だと言うと、

「ホスピスか」と納得した。


その医者曰く、自分は隠居したが、知り合いにホスピスをやっているのが居る。

大変そうだ。

参考になることがあれば、教えてやりたいし、教えてもらいたい。


他のホスピスの参考にはならないと思うが、たってと頼まれ、見学を了承した。


見学にきた知り合いは、穏やかで明るい雰囲気に瞠目した。

そして、みんなが飲んでるジュースに目をつけた。

「あれは何だ」

「栄養補給のジュースだ」

「薬じゃないんだな。私も飲みたい」

という成り行きで、養生ジュースをごちそうした。

めちゃめちゃ気に入られた。


どこで買えると聞かれたので、本院から送られて来る特製だと答えた。

正確に言えば、送られてくるのは原料だが、それは秘密である。


これだけ美味ければ、食欲がない患者も飲みやすいだろう。

知り合いのホスピスに教えても良いかと聞かれた。

量がないらしいから、本院に聞いてみると保留にした。



原料はある。

異世界では厚い雲が無くなり、晴れたり曇ったりの穏やかな天気になっている。

桃生比売の枝には、いつでもたわわに実が生っている。

取っても、すぐに次の実が生る。


みみ子は考えた。

養いの実をそのまま送り、先方でジュースにしてもらった方が簡単だ。

しかし、実の中心近くにある黒い種に見える核が問題だ。

硬くは無いのだが、ジュースにしようとすると、残りがちになる。

核まできれいにジュースにするには、少し多めに時間がかかる。


他人任せにすると、そのうち捨てられるようになるかもしれない。

そうなってしまうと、味が落ちるし、謎の栄養価が無くなる。

それでは、もったいない。

他の会員にも相談しよう。



二十四日か二十五日に一回、集会をしている。

若水の日である。

若水を、順番にコップ一杯飲む日だ。

会員が増えたので、みみ子は工夫しながら、なるべく多くの水を頑張って運んでいる。

順番が回ってきた会員は、欠かさず出席する。

どうしても出席できない会員は、次回に優先される。

今回の出席者は、若水を飲む人とその他、いつも会館でゴロゴロしている面々だ。


丹生養生院からの相談を話した。


「養いの実をジュースにすると、黒いところが残ることがある」

養生院で栄養士をしている山田マリは、いつもジュースを作っている。

観凪楓もうなずいた。看護師長だから、手伝うことがある。

「ちゃんと確かめないと、うっかり捨てるかもしれないわねえ」

みみ子と同じ心配をした。


「黒いところが一番美味しいし、あれが一番身体に良いと桃生比売も言ってる」

「黒いところ無しじゃあ、栄養はあるけど、病人が元気になる不思議効果は無いっちゅうことか」

「もったいねえな」


「それにね、ほら、養生院では病人が片っ端から元気になったでしょ。

同じものじゃないと思われるかもしれない。

隠しているか、騙しているとか言う人が出るかもしれない」

看護師の白亥が指摘した。

「詐欺だと言われるかもなあ」

大工名人が嘆息した。


回復の見込みがない患者が元気になったのは事実だ。

しかし、一度悪評が蔓延すれば、最悪、それもヤラセだとか、サクラだとか言われかねない。

週刊誌の一件があったばかりだ。

今のジジババ友の会は、世間の評判がすこぶる悪い。


「やめとく?」

残念だが、みみ子は言った。


「でも、養いの実で助かる人が居るなら、助けたいです」

ピンと背筋を伸ばして、桃太郎が言った。

そうだった。

桃太郎の恩人、望月院長の命を救ったのが養いの実だった。



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