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54 謎の組織


爺さん会員たちも、空飛ぶジジイになった。


白衣を着て、そのまま乗っているのは、養生院のリハビリ担当風魔だ。

白い布が風に飛ばされているように見える。

目を凝らしても、なかなか見分けがつかない。

白い忍者。


元モーターボートも、異世界では堂々と飛んでいる。


大きな荷物が届いた。

大道具さん宛だ。

なんと、実物大の流星号の複製だった。

昔懐かしいスーパージェッターの愛機、いや相棒だ。

「流星号応答せよ」

腕時計に向かって、おなじみの台詞を言っても応答はしないけど、良くできている。

現存しているアンティーク玩具を元に、図面を起こして作ったらしい

樹脂を材料にして、3Dプリンターで作ってもらった。

凝り性である。


流星号は二人乗りだ。

大工名人を乗せて、異世界を飛び回っている。

異世界に古いアニメが蘇る。シュールな光景だ。


ボートと流星号で、かなりの羽布を使用したが、天羽雷生都比売は、のほほんと羽布を生み出し続けている。


養生ジュース。

光果発電。

空飛ぶガラクタ。


これらを、ジジババ友の会三大発明と呼ぼう。

異世界の恩恵だが、東洋の知恵をパクったルネッサンス三大発明と同じだ。

ひっそりと潜行するつもりだから、教科書には載せてもらいたくない。


そう、潜行していたのだ。

それなのに、洩れた。

人の口に戸は建てられない。とは、よく言ったものだ。


週刊誌の記者と名告るものが、取材の申し込みをしてきた。

断った。

だが、ものすごくしつこい。

取材の趣旨が分からない。

ここは隠居老人の交流と遊びの会だから、放っておいて欲しいと言えば、会員の家族から訴えがあったという。

問題発生である。


どんな事を訴えているのかと問えば、親が怪しい会に入れあげて、財産をかすめ取られていると言っているそうだ。

かすめ取った記憶は無い。

むしろ、会員は三大発明の恩恵を受けているはずだ。

誰の家族かと聞いたが、今はいえないと言うので、こちらも取材に応じないと再度断った。


そんなことだから、全く事情が分からない。

分からなくても注意喚起は必要だ。

掲示板の「友の会ニュース」に書いて、会員に知らせた。


記者の姿をしばらく見かけない。

杞憂だったか。安心したのは間違いだった。


週刊誌に記事が出た。


会員は週刊誌を読まないので、気がつかなかった。


「記事は読みましたか」

いつぞやの記者が、やって来て言った。


応対したのは、たまたま会館に居たみみ子だった。

知らないんだから読んでない。

取材を断ったのに、取材もせずに記事にしたのは問題じゃないのか。


みみ子は、黙って小首をかしげてみせた。


「読んだでしょ? 

表紙に大きく「ジジババ友の会」って出てるし、近所のコンビニも駅前の書店も、目立つ場所に置いてくれたんだから」

記者氏は、さも当然のように言う。


「……何を?」

みみ子は、本当に知らないから動じるところが無い。


「ウチの今週号ですよ。

しょうがないなあ、ほら、これです」

記者は週刊誌を見せた。

なるほど、表紙に大きく書いてある。

<一人暮らしの老人を喰いものにする謎の組織! ジジババ友の会>


「謎の組織」は、当たってる。

しかし、喰いものにはしていない。

何故なら、会員は喰えない奴ばかりだから、喰おうとしても食えない。

「読んでいません」


「ちぇっ、しょうがないなあ。

ジジババ友の会の記事ですよ。読みましょうよ。

読んで意見を聞かせてください。

反論があったら、次回の記事に載せるかもしれないから、どうぞ。

言いたい事があったら聞きます」


「特にないです。読んでいないし」


「じゃあ、これあげますから、今直ぐ読んで」

「けっこうです」

「読まないと、何が書いてあるか分かんないでしょ」

「そうだね」

「じゃあ、読んで」

「要らない」

「あーそうか、老眼鏡を持ってきてないのか。

しょうがないから、読み聞かせます。それならいいでしょ」

みみ子の視界はばっちりだ。

記者は勝手に決めつけて、読み上げた。



 本誌記者に、助けを求める読者の声が届いた。

 その人の年老いた父親が、とある怪しげな会に入会し、騙されている。

 一人暮らしをしていたが、訪ねてみると留守だった。

 近所に聞くと、怪しげな会に入会してから、自宅を空けているという。


 貧乏な暮らしをしているが、自宅は持ち家だ。

 売れば、それなりの金になる。

 「ジジババ友の会」という会は、家と土地を狙っているのかもしれない。

 会員になった老人は、問題の多い人物で家族には迷惑をかけっぱなしだ。

 仕方なく一人暮らしをさせているが、騙されているのは心配だ。


 他にも、同様にして手に入れたと思われる土地を所有している。

 その土地には、今や立派な会館が建っている。

 会員たちから巻き上げた金で建てたとしか思えない。



言葉は違うが、内容はそんな感じである。

あざとい言葉が多用されている。

近所のAさんが心配している風に書かれているが、嘘くさい。


「どうです? ネタは上がっている。反論できますか」

記者は言った。

ドヤ顔だが、取材力はたいしたことがない。

風早の秘書だった水木の方が上手(うわて)だ。

今は、風早の資産を運営管理する団体を任されている。


独居老人だった会員は、何人かいる。

自宅に帰らずに遊び倒しているのは、たくさん居る。


「う〜ん、飯の種なんだろうけど、人の悪口をかき集めて、楽しい?」


「なんですか、それ。楽しいとか楽しくないとかいう話じゃないんだ。

会員の家族が心配している。

ジジババ友の会が、家と土地に手を出したら訴えると言っている。

反論は無いんですかってことです」


「あらそう」


「認めるんですね」

「何を?」


「独居老人を騙していると認めるんですね」

「そんなこと認めないわよ。馬鹿じゃないの」


「会員のご家族に訴えられるかもしれない。良いんですか」

「大丈夫。会員の財産には勝手に手を出さないです。

みんなには、たまには家族に連絡するように言っておくわ。

あなたの飯の種にはならないけど、一件落着ね。

お疲れさまでした」


みみ子は、丁寧な仕草で出口を案内した。


「次回の取材には、会の代表者に直接取材したいです。

逃げずに出て来るように伝えてください」

「分かりました」

みみ子が会長だが、やっぱりそうは見えないのだろう。


「後から慌てても知らないよ」

捨て台詞を残して、記者は帰っていった。


岸谷(きしや)という週刊誌の記者は、その後も近所で聞き回っていたらしい。

「うちにも取材に来たぞ。友の会のことを聞いてきた」

はぐれ雲が、月見荘にも来たと報告した。

月見荘の一階に、あのまま居着いている。


「友の会をのことをあれこれ聞くので、とぼけておいた。

話を逸らして、気象学の蘊蓄(うんちく)をつらつら披露したら、逃げ帰った。

ああいう連中は、取材と言いながら、(はな)から人の話を聞く気がないんだ」


年寄りの蘊蓄は長い。



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