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53 新発明だぞ

新登場の紹介

    苔山雷垂彦 こけやまづちたらしひこ  謎の植物細胞を作る樹

    鷹白 猛  風早の旧友。それなりの会社を経営している

    牛久保夫妻  廃車のパーツを集めて車を自作するのが趣味。新会員



会員たちは、各々異世界を楽しんでいた。

目覚めた樹との交流も盛んだ。

交流できる樹も増えた。


そんなある日、ジジイたちが盛り上がっていた。

「これで、こっちでも空を飛べるな」

「やったぜ」

「いつ試運転できるかな」


「おいおいこらこら!」

会話を耳にしたみみ子は、思わず声をあげた。

「こっちで空を飛んだら、目立つでしょ。止めて」


「いえ、できると言っただけです。やるとは言っていません」

桃太郎が、下手な言い訳をする。

「目立たなければ良いだろ。それができると言ったんだ」

ごり押し意見は、はぐれ雲だ。

「そうそう、ハリボテのヘリコプターとか、ハリボテの飛行機とか」

大道具さんが、乗っかる。


「地球の空には、航空法ちゅうのがあるでしょうが。

勝手に飛んだら叱られるわ。

ドローンを飛ばすにも許可申請が必要になったみたいよ」

そこまでまくしたてたところで、みみ子は首を傾げた。

「ハリボテの飛行機って?

羽布に乗ってヒラヒラ飛ぶんじゃないの?」


「それをやったら目立つだろうがよ」

はぐれ雲が、あきれたように言う。


「だって、ハリボテをどうやって飛ばすのよ」


「まず、人が乗れる物を用意する。

例えば、ハリボテの飛行機がそれだ。

次に、飛ぶ時に下になる部分の外側に、羽布をしっかりと貼付ける。

羽布の端を操縦席に引っ張って、操縦桿にする。

羽布を握って、操縦する。空を飛ぶ。以上」


「あららら、そんなんで飛べるの?

ハリボテでも、人が乗れる大きさの飛行機なら重いでしょ」

「飛べました。ボートに三人乗って」

桃太郎が実に得意げである。


「これで、宇宙戦艦も発進できる」

「無理でしょう。宇宙戦艦を誰が作るのよ」

夢見る大道具さんを、みみ子はぶった切った。


「いつの間に、そんな面白い事をしていたのよ」

と問えば、山川谷男に向かって、他のジジイたちが笑い、谷川は恥ずかしそうに苦笑いをした。


「最初に、山川が、自転車で空を飛ぼうとしたんだ。

クククク 見事に失敗。車輪に羽布を巻いたけど、まるで駄目」

「そこで山川君の夢を実現すべく、みんなであれこれ実験と工夫を重ねた」

はぐれ雲は笑い、大道具の爺さんは、自慢げだ。


羽布に乗せれば、どんなに重くても浮かぶらしい。

重力が無視される感じなんだとか。


自転車は飛べなかったが、ボートは飛んだ。


「そのうち、SLも飛ばせるかな」

「素敵ね、でも、止めなさいよ。実際にあったら、おかしいから。

星の瞬く夜空を、長く繋がった客車が星の河に向かって走る。

ロマンチックだけど、現実だったら、おかしいから」


みみ子がしつこく念を押したにもかかわらず、とあるSNSに「空飛ぶボート」の写真と目撃談が出た。

幸い本気にする人は無く、良くできた合成写真だと片付けられた。

船外機を外してモーターボートから空飛ぶボートに変身したボートは、話題にもならなかった。


どのジジイが犯人だったのかは、不明だ。

ジジイたちは口裏を合わせて、犯人をかばった。


何故か、斜め向かいの家の金棒引き、覗垣夫人が、道ばたで泡を吹いて倒れた。

そんな近所の噂があった。


音無結絵が、会館の掲示板に協力者募集のビラを貼った。


電気系統に強い人募集。

やって欲しい事。

電気エネルギーを使いやすく変換する事と、効率的な配線。

報酬は、エネルギー革命の協力者という名誉。


応募はあった。

猿と華京園阿比子だ。

二人とも、報酬は気にしない。

応募の動機は、面白そうだから。


三人で額を寄せ集め、ゴソゴソやっていると思ったら、結絵にねだられて買った四輪駆動の小型電動車の屋根に、光果が取り付けられた。

「これで、電動車のエネルギーは大丈夫。どこまでも走っていける」


三人は良い笑顔だ。


「すごいわね。燃費が無料。

特許を取ったら、がっぽがっぽと儲かるね」

「特許は取りません。というか、取れません」

「あら、何故?」


「光エネルギーを電気に変換するのが、謎の植物細胞だなんて、特許申請できません」

結絵は、どうしようもないとばかりに、肩をすくめた。

「うわお、謎の植物細胞」

苔山雷垂彦(こけやまづちたらしひこ)が、培養できますの。

増殖し放題ですわ。おーっほっほっほ」

華京園阿比子は、いつも通りだ。


会員には、特典として無料提供すると発表したら、風早がさっそく電動車を購入して運転手を雇った。

運転手も会員になった。

研究費として友の会に寄付があった。

風早は、そういうところが、できる男である。


白亥点子も電動車に買い替えた。

養いの実のおかげで食費が減り、娯楽費も使わないので買えたと大喜びだ。

長年使っていたボロい軽自動車は廃車にした。

四輪駆動じゃないので、異世界では使いものにならなかった。未練は無い。


熊山が電動の軽トラックを買った。

他に、丹生養生院の専用車と関係者が何人か電動車に買い替えた。


その新エネルギー装置には、使用上の注意点がある。

日頃から声をかけて、親睦を深めなくてはならない。

装置に使われている謎の植物細胞が機嫌を損ねると、死んでしまう。


「おはよう。今日もよろしく」

「いつもありがとね」

「とりゃあー」

「可愛いよ」

「愛してるわ」

「やあやあ、どもども、走ろうぜ」

何でもいいのだが、好意を感じるほどエネルギーの変換効率が良い。

謎だ。


寂しいと死んでしまうウサギみたいだ。


友の会会館の屋上に、装置をいくつか設置した。

月見荘の屋上にも設置した。

月見荘の住人も含めて、電気代が無料になった。

二つの養生院にも設置予定である。


丹生養生院をたまたま訪問した風早の友人が居た。

名前は鷹白猛(たかしろたけし)という

彼は、光果発電装置の存在に気がついた。

装置について尋ねても、詳しい説明は無い。

これは画期的な発明だ。絶対に儲かると言っても、「儂は隠居じゃ」と言うばかりだ。

彼が知っている風早とは別人だ。


風早の友人だけあって、彼も有能だった。

月見養生院からたどって、ジジババ友の会を見つけ出した。


鷹白が、友の会に面会を希望してきた。

社用車を電動車に替えたいという。

どうやら、車の屋根に付けた方は、ばれた。

屋上に設置した大規模な方は、気がついていない様子だ。

どうせすぐに気がつくだろう。


謎の植物細胞の寿命が判らない。

売るのは無しだ。

持続使用がどこまで可能か実験中だから、販売はしないと言った。

それなら、試験運転をしながらレンタル契約ではどうだと提案された。

いずれ、社用車を電動に替える予定だったと言う。


レンタルなら、友の会から手が離れない。

不具合が出た時も、秘密裏に対処できるだろう。

OKした。


その話をすると、結絵も猿も阿比子もあまり喜ばなかった。

作ったのは満足しているが、車をいくつも改造するのは面倒だ。

装置を取り付けるのは、動力をつなぐだけの単なる改造だ。

鷹白の会社は大きい。

社用車といっても、営業に使う車は多い。

それらを三人で改造すると、他の楽しみが減る。


良い人材はいないものかと会員に相談した。

桃太郎が手を挙げた。


桃太郎を命の恩人だと慕うバイク屋の知り合いに、うってつけの人がいる。

廃車のパーツを集めて、自分で自動車を作るのが趣味だという。

そうやって作った車は、車検を通し、乗り回して喜んでいる。

話をしたら、喜んで乗った。

電動車は興味深い。ぜひとも改造してみたい。できれば全部分解したい。

恐ろしい事を言うが、車に関する腕は確からしい。

謝礼は、養いの実と、月に一度くらい汲んでくる若水(をちみづ)


みみ子は体力が戻ってきたので、重い荷物が苦にならなくなった。

とはいえ水を運ぶのは大変だ。

どういうわけか、若水が湧く泉は、一反羽衣では行けないのだ。

空から見ても、どこにあるのか分からない。


迎えに来る眷属の白いカラスの案内が無いと、たどり着けない。

だから、一度に運べる量は増えない。


そういう事なので、一人一杯だけと決めた。

新会員ができると、優先的に順番に組み入れる。


バイク屋の知り合い、車作りマニアの牛久保夫婦は、会員になった。




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