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50 代表は誰だ。わたしかな?

登場人物紹介

    空原 みみ子  異世界を見つけた婆さん

    望月 浩太郎  月見養生院院長

    風早 当太  大企業の創立者 養生院で命拾いした

    佐藤 風早に付いてきた女性

    音無 恭子  友の会の事務方面担当 姉妹の姉



空原みみ子。

お気楽な婆さんである。


ジジババ友の会の代表かと聞かれると、たぶんそうだと言うしかない。

言うしかないのだが、ただの婆さんである事も確かだ。


近頃は空飛ぶ婆さんになっているが、そこは置いておく。


『代表は誰だ」

風早に詰め寄られた望月院長は、ちょっとだけ言いよどんだ。


「空原さんかな」

「かな、ってなんだ」

「たぶん」

「たぶんだと?」

「おそらく」

「……」

「かもしれない」


便宜上会長と呼ぶ事はある。

しかし、正式な代表なのかというと、確信は無い。


「代表が決まっていないなら、儂がなっても良いぞ」

「それは、無い」

最後はキッパリと返した望月だった。


「それでは空原氏とやらに会わせてもらおう。

儂は死んで来た。会うまでは成仏しないぞ」

テコでも動かない構えを見せた。

頑固な幽霊である。


望月院長は、仕方なく会館に連絡した。

出かけているという。

たぶん、空を飛んたりしているのだろう。

会いたがっている人が居ると伝えた。

みみ子が戻ったら知らせてもらうよう頼んだ。


「では、会えるまで、ここで待たせてもらうとしよう。

佐藤さん。すまんが、儂は会えるまで待つ。

あんたは付き合わんでも良い。帰るか」

「いいえ、面白そう。一緒に待ちます」

水木秘書の代わりのように付いて来ていた初老の女性も、待つらしい。


二人は、養生院の待合室に、どっかと居座った。



午後も遅くなって、みみ子が養生院に顔を出した。

音無恭子が付いて来ている。


「あんたが代表だったのか。ただの婆さんじゃないか」

「正解」

風早のぶしつけな挨拶に、みみ子は一言で答えた。

<ただの婆さん>への答えだが、風早は、両方への答えと受け取った。


「儂を仲間にしてくれ。頼む」

風早らしくない言い方に、周囲がぎょっとした。


「ここに居る爺さん婆さんは、みんな楽しそうだ。

仲間になりたい。

今まで、部下はたくさんいた。家族より信頼できる部下だっていた。

世の中の役にも立ったし、世間からも認められた。

苦労も多かったが、面白い人生だった。


儂は葬儀をやって死んでみた。きれいさっぱり浮き世のしがらみを断ってみた。

儂は何者でもなくなった。

ワクワクした。

二度目の人生をもう一度やりたい。

儂はずいぶんと欲張りみたいだ」

風早はぶっちゃけた。


「素直な事は認めるわ。

では、入会審査を受けますか。通らないと入会できません」


みみ子はあっさりうなずいた。

望月院長は、苦笑いだ。だが、反対はしなかった。


「私も入会したいです。入会審査を受けたいです。

どんな審査なのか内容を教えてください」

風早に着いて来ていた女性が口を挟んだ。


「誰?」

みみ子が風早に聞いた。


「ああ、佐藤さんだ。

丹生養生院のスタッフに来てもらった。

両親とも日本人だが、海外で生まれ育っている。


現地で、厳格で教養あふれるナニーに育てられたから、必ず約束は守る。

信用できるぞ。

ボランティアで世界各地で活動していたから、世の中の事をよく知っている。

面白い人だ」


「佐藤です。入会したいです」にこやかに微笑んだ。


「そうなんですか。

ジジババ友の会にも、一応会則がありまして、入会条件は、今の所三つ。

還暦を過ぎた隠居である事。会の部外秘を漏らさない事。入会審査を通る事。

失礼ですが、条件は満たせますか」

つい先日まで、表向きの入会条件は二つだった。

思いつくたびに、修正を加えている。


「還暦って六十歳でしたか。

私は六十歳を越えています。会則は守ります。

審査を受けたいですが、入会してから退会はできますか」


退会規定は考えてなかった。

きちんと会則に加えておこうか。


「退会はできますが、会の秘密を退会後も守って欲しいです」

特に守らなくても、ボケたと思われるだけかもしれない。

でも、注意喚起は必要だろう。


『友の会内部で見たり聞いたりした事は、退会後も外に漏らさないこと。

退会後は、むやみに会員と接触しない事」

そこまで言っておけば、イカレタ老人の集団だという風聞は避けられるかもしれない。


「他に何かあるかしら」

みみ子は、音無恭子に確認を取った。

「そんなものでしょう。

念のために、退会するときは誓約書を書いてもらったらどうですか」


「そうね、それが良いかも。

署名すれば、約束が目に見えるから、忘れないわよね。

そうしましょう。そうしましょう」


「入会審査は、どんな事をしますか」

佐藤の質問だが、それには答えられない。

やってみないと分からない。


「入会希望者だけに、個人的に実施してもらいます。

審査内容も、部外秘です」

みみ子は、ぴしりと言った。

なんてことは無い。言葉で説明する事は、とっくに諦めた。



入会希望の二人を連れて、みみ子と恭子は会館に戻った。

「あら困った。日が暮れる」

厚い雲が無くなり、明るくなった異世界を会員の誰かが観測した。

ちょっぴり、一日の長さがずれていることが判明した。

本当に微妙な差だが、そのせいだろう。ずれている。

これから行けば、ぐずぐずしてる間に夜になる。


初めて異世界に行くと、ほとんどが、しばし呆然となる。

気を取り直すのを待って、門守命に紹介する間に暗くなりそうだ。


「あまり時間がありません。日を改めますか」

「そんな殺生な。ここまで来たのだ、もう待てない。

このまま帰ったら、今夜は眠れない」

風早は駄々をこねた。


「しょうがないですね。

入会審査は一人ずつです。風早さんだけでもやりますか」

「頼む。このためにやって来たのだ」


佐藤を会館の応接室に残し、急いで風早と渡り門に行った。

入り口近くの部屋を、部外者との接客用にしてある。


「死んで良かった」

風早は呆然とした後、はしゃぎ回り、うれし涙で号泣した。

「こんな、こんな面白い事に出会えるなんて……うわあああ うえ〜〜ん」


空を飛んで戻って来た結絵と桃太郎が、驚いて眺めた。

そして、事情を察して笑い転げた。


そうこうしている間に、すっかり日が暮れた。

空には満点の星がきらめき出した。

うす桃色の小さな月が姿を現す。


門守命にしがみついたままの風早に、みみ子が言った。

「この世界は、滅びかけていました。

昔、地球から渡った鬼が、この世界を征服しようとして、無茶をしたようです。

風早さん、変な事を考えていないでしょうね」


「世界征服かあ。若い頃はちょびっと考えた。

しかし、世界ってもんは、とんでもない。

身勝手な人間ごときの手に余る。

余計な事をしたら、世界が怒るんじゃないかなあ」


「門守様、この人は大丈夫でしょうか。

滅びをもたらす鬼にはなりませんか」

『恐れずとも良い。素直なご仁じゃ。

もしも鬼に変わることがあらば、渡り門は通れない。

今度は見逃さぬ。さらに護りを固めた。

同じ(あやま)ちをくり返す気は無い』


青白く大きな月が昇って来た。



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