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5 大木に頼まれて手伝うことになった

登場人物

    空原 みみ子  年金生活の婆さん

    凭浜高司尊  異世界の知的生命体 樹状生物

    凭浜門守命  異世界の知的生命体 渡り門の門番 樹状生物

    先読  異世界の知的生命体 ずんぐりむっくりの切り株




みみ子は坂道を上った。

山本の家は静かだった。

呼び鈴を押しても応えがなかったので、かまわず岩まで行った。


門の岩は問題なくみみ子を通し、異世界は変わらずそこにあった。

みみ子は薄暗い世界に来た。

門に寄り添うように立つ木の幹に手を当てた。

「遅くなりましたが、約束通りに来ました。凭浜門守様」

大木がわさりと揺れて、喜んだ。

「よう来られた、ぴかりの巫女よ」

「巫女ではなく、みみ子です」

挨拶をしているうちに忘れそうになったことを、みみ子は急いで聞くことにした。


「あっ、そうだ。聞きたいことがあるのです。

三日ほど前、門に手をついた人が居たのですが、通れませんでした。

門を通れる人と通れない人が居るのでしょうか」


「はてな? そなたが訪れる時、揺らぎを感じる。

それで門を開くのだが、三日ほど前には、無かった。

十一日前に一人、しばらくの間立ち尽くして、帰って行ったのがあっただけだ。

あれは何だったのだろう。我らに触れることもせず帰って行った。

あとは、二年ほども前に童が来た。

童ゆえな、帰すのに色々と大変だった。皆、力を使い果たした」

やはり、通れる人と通れない人が居るらしい。


通れない人には、嘘つきとしか思われないだろう。

あるいは頭のおかしい人、もしくはボケ老人。

どれもうれしくない。

誰に教えるかは気をつけよう。そう考えるみみ子だった。


次は、ずんぐりむっくりの切り株さんにお礼を言わなくては。

前回と同じように進んだつもりだったが、ずれていたようで、探すはめになった。

切り株に手を置き、お礼を言った。

「先日はありがとうございました。大当たりでした。

名乗り遅れましたが、みみ子と申します」

「ほほう、それは良かった。我は先読(さきよみ)と申す」

「先読様のおかげで、選ぶ道が増えました」

「いやいや、我は大層な者ではない。

たま〜に、ほんのちょっぴり先が読めるだけじゃ。

役に立つことは少ない。役に立ったのならば重畳」



先読と別れて凭浜高司尊のもとに向かった。

「こんにちは、ご機嫌いかがですか」

凭浜高司尊からは穏やかで力強い気配が返ってきた。

「そなたのぴかりに望みが見えた。頼みがある」

「へっ、いきなり?」

「出会った時に我の望みを知ったはずだ。

それを叶える手助けが欲しい」


みみ子は思い出した。

どこまでも青く澄み切った空と、穏やかに通り過ぎる風になびく草木。

凭浜高司尊から流れてきたのは、地球の太古もかくやと思わせる伸びやかな光景だった。

それを取り戻すのが凭浜高司尊の望みなのだ。


千年ほども前から徐々に雲が増え続け、暗い世界になってしまった。

それと同時に、この世界は力を失っていった。

凭浜高司尊は、青い空を渇望していた。


みみ子は天候には詳しくない。テレビの予報に頼りきりだ。

外れても文句を言わない分別はある。

しかし、千年もの間曇っている空を晴れにする方法なんか知らない。

困った。


一応、どうやって雲ができるのかは調べた。

水蒸気と微細な粒子を含んだ空気が上昇気流で上空に昇り、冷却されてできる。

要は、湿度と温度と気圧の問題だ。

天候の基本は、そこらしい。子どもの頃、理科の授業で習った気がする。

だからといって、どうにかできる気がしない。

どうすればこんなに厚い雲を消せるんだろう。


「そこでだ。そなたは、ほんの少〜し<ケ>を扱える。

我がコツを教えよう。

試しにケを操って、雲を払ってみて欲しい」


「いやいやいや、<ケ>って気のことですか?

物好きが、ほんのちょっぴりかじっただけです。

とても雲を吹き払うなんて無理」

「案ずるな。我が扱う術を授けよう。

黒雲がはびこる前は、訪れた見込みのある者に授けたことがある。

上手くいくはずだ。いくぞ」


みみ子に何かが流れ込んできた。

なるほど、そういうことか。

なんとなく納得した感じがした。


ものは試し、よーし、やってみるか。

気らしきものを身体に巡らし、両手に向かわせつつ頭上の雲の一点に狙いを定める。

次は、ほらあれだ。あれしかない。

ポーズを決めて叫んだ。

ガ・メ・ハ・メ・ハ―――ッ!  


アニメだったら

ギュルルル―――ッ チュド―――ン

と派手な演出が炸裂するところだろうが、そんなこともなく、黒い雲の一点が少しばかり明るくなっただけだった。


それでもみみ子はうれしかった。

「おおー、効いてるう。おもしろーい」

見えもせず、実感がなかったものが、ほんのわずかながら雲を消したのだ。

ワクワクした。

凭浜高司尊の枝を捕まえて喜びを伝えた。


「その勢いだ。励め」


思いのほか力強い応援を受け、みみ子は息を整えて、何度か再挑戦をした。

みみ子なりに励んだが、青空までは届かなかった。

雲の一部が薄い灰色に変わっただけだ。

「はあ〜、私はがんばった。でも疲れた。年には勝てないか〜」


「なるほど、みみ子は、人の身としては老婆であるらしい。

ならば、『をちみづ』の湧く泉の場所を教えよう。

失った力を取り戻す水が湧く。若返りの水じゃ。

そうよな、今から四日と半分ほど過ぎた頃なら、良い水が湧いていよう」

凭浜高司尊から鮮明な光景が流れてきた。この世界のどこかだ。

ゆっくりとその景色が流れ、丘を越え、窪みを進み、岩に囲まれた小さな泉に行き着く。

泉の水に、青白い光がうっすらと浮かんで見えた。


「ここって、遠くないですか」

「ふむ、近くはないが、さほど遠くもない。

泉の水を飲めば力が戻る。帰りは楽になる」


空を見上げれば、せっかく薄くなっていた雲を、周りの黒雲が覆おうと迫っていた。

がんばった成果が元の木阿弥になりそうだ。

悔しい。

よーし、やってやろうじゃないか。

泉の水を飲んで、元気いっぱーつ、黒雲見てろよ。

その気になるみみ子であった。



四日と半日後は夜になる。

夜に出歩くことが無くなっていたが、今回は仕方がない。

小さめのリュックを買って、お茶のペットボトルと菓子パンを入れた。

バナナ一本は、おやつにいれない。

タオルにティッシュと小さな懐中電灯も忘れない。

舗装された道ではないので、思い切って杖を買った。

リュックを背負って杖をつけば、ハイキングに行く婆さんの出来上がりだ。


間もなく日が暮れる頃、みみ子は山本家に着いた。

遠くはないが近くもないということなので、余裕をみて出発だ。

無断侵入で、直接岩に向かい、渡り門を通った。


真っ暗だった。

精一杯細い目を開いても、視界は黒だった。

まずいぞ。ここは何処? 私は誰?

冗談で納めようとしてみても、困惑は無くならない。


慌てて懐中電灯のスイッチを入れたが、小さなLEDライトなど頼りにならなかった。

狭い範囲が薄ぼんやりと照らされるだけだ。

それでも、あの世界であることはわかったので、凭浜門守を探し当て、すがりついた。

「暗くて見えないんですけど」


「そなたの来訪を凭浜高司尊に伝えた。

眷属(けんぞく)を使わすそうじゃ。しばし待て」

連絡手段はあるらしい。みみ子はほっとした。

凭浜門守自身は木だから動けない。

それなら連絡手段があっても不思議じゃない。


そうこうしているうちに、ぼんやりと白く光るものが現れた。

ふわりと目の前にとまった。鳥だった。

大きさはカラスくらい。形もカラスに似ている。カアーと鳴いた。

もう、白いカラスで良いんじゃないかと思う。



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