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48 天津聳地嶺はでっかいぞ

登場人物紹介

    空原 みみ子  異世界を見つけた ジジババ友の会代表

    音無 結絵  マッドサイエンティストになりたい理系婆さん

    谷戸 晴美  妖エネ研でスカウトした弓道婆さん


    白陽玉別比売  天津聳地嶺山頂にいる樹。光果の生みの親

    


桃太郎は、天津聳地嶺(あまつそばだちのみね)に行くのにバイクで走れる山道を探して頑張った。

音無結絵は、四輪駆動の車で走り、半島を南下して道を探した。


でも、一反羽衣があれば、根漕山(ねこぎやま)をひとっ飛びだ。

みみ子と結絵の二人は、青く晴れた空を飛んだ。


荒れた景色だが、見慣れない風景が眼下を流れてゆく。

二人は、調子に乗って高度を上げた。

(はた)から見れば、年寄りの冷や水だが、気分は上々である。


根漕山を越えたところで、みみ子は歓声を上げた。


「うわああー、高い! 大きい! きれい!」


雲が晴れて、山頂から広い裾野まであらわになった天津聳地嶺は、雄大だった。

素晴らしい存在感でそびえ立っている。

声をあげずにいられなかった。


「なんだか富士山に似ているね。

良い! 良いわ。私、富士山が好きなのよ。天津聳地嶺も好き!」

なだらかな山容に、一目惚れであった。


「久しぶりに来たけど、もっと早く来れば良かった。

最高です」

結絵も一緒になってはしゃいだ。


二人は、うっとり眺めながら、裾野に降りた。

辺り一帯が黒で覆い尽くされている。

八百年分の光果だ。光の中で見ると、異様な感じがしないでもない。


結絵は、手近に転がっている光果を手に取った。

そして、聞こえない声を聞くように、見えない糸を探すように、周りを探る。

間もなく、積もった中に手を差し入れ、蔕を一つ探り当てた。

ぴたりとはまった。


「こんな感じです。慣れれば、すぐに見つかります。よろしく」


みみ子は初めてだ。

見よう見まねでやってみたが、分からない。

慣れていないのだから仕方がない。

とりあえず、一つ光果を取り、片っ端から合わせてみた。

散々試したあげく、やっと合う蔕を見つけた時には、結構な時間が経っていた。

宝探しみたいだ。

否、結絵にとっては、宝探しなのだろう。


みみ子は、ジグソーパズルはやったことがあるが、それより大変だ。

膨大なピースのジグソーパズルにちょっと近い。

「まあ、やってみますか。そのうちコツが分かるかもしれないし」

遊びだと思って楽しむことにした。


結絵が二百個くらい、みみ子が八個拾ったところで、一休み。

持って来た二つのリュックに等分に分けて入れた。


「飽きたかも」

せっかく雄大な景色があるというのに、目に入らない。

もったいない気分だ。


集めた光果を持って帰らなくてはならない。

幸い重くはないが、かさばる。

その日は戻ることにした。


数日後、みみ子が会館に顔を出すと、谷戸晴美が居た。

谷戸も雲消しが無くなって暇なはずだ。

「谷戸さん、お散歩に行かない?

空のお散歩。素敵な景色があるのよ」


「荒野しかないと言う認識でした。

素敵な景色って、あの大蛇物の怪が暴れた島ですか。

きれいな島ですけど、あそこの景色なら見慣れましたけど」


「違うわ。根漕山を越えた先、天津聳地の嶺よ。

富士山みたいで、とっても素敵。一緒に行こうよ」


「へえー、お散歩と言いつつ登山ですか。

光果を落としていた山ですね。良いです。登りましょう」

みみ子が思った通り、谷戸は暇だった。すぐさま話に乗った。


「えっ、登るの?」

「そこに山があるなら」

「見た目ばかりじゃなく、高さも富士山並みか、もしかしてそれ以上あるわよ」

「という事は、私たちが初登頂になるかもしれません。燃えます」


張り切る谷戸に、みみ子は、付いていけない。

「登山道を探して、麓からえっちらおっちらは嫌よ。

一反羽衣に乗って、ふわふわぴゅーで行く」


「……了解。興奮し過ぎました。

初登頂は専門家でも難しいらしいですから、ふわふわぴゅーにしましょう」


二人は、ふわふわぴゅーと飛び出した。


今日も天気が良い。

大雨が汚れを流し切ったかのように空気が澄みきって、すこぶるきれいだ。


「うわお、本当に富士山だ。そっくりです。

こうやって眺めると、感動します。

何に感動しているのかしら。この大きな質量でしょうか」

「眺めるだけでも素敵でしょ。登るのも楽しいけどね。

私は、どっちかと言えば眺める派」

「では、山頂目指して、いざ」

「おい」


なんだかんだとやり合いながら、二人は山頂を目指した。

一反羽衣に乗るだけだから、らくちんである。


山容を楽しみながら、ゆっくりと登っていく。

裾野はなだらかだが変化に富んでいた。

上に行くにつれて、ごつごつした岩が目立つようになった。

足で登るのは大変そうだ。

登山ルートを探すことから始めなくてはならなかったろう。

一反羽衣様々である。


頂上には大きな樹が居た。

よく見ると、枝に数個の光果が残っていた。

この樹が光果を生らせていたのだ。


二人は近づき、挨拶した。


『阿斯訶備比古遅様より使いが来た。

そのほう等が尊様の(よみがえ)りを助けたのだな。

我からも礼を言おう。

我が名は、白陽玉別比売(しらひたまわけひめ)とぞいう』


白陽玉別比売も喜んでいた。

北に大きく横たわる山脈でも、西に伸びる土地でも、眠っていた樹が目覚めはじめている。

世界は、昔のように、にぎやかに育つだろう。

自分も、眼下の眺めを楽しんで穏やかに過ごせる。

南には、海に立つ白波と戯れる磯辺に、綿津見の使者も訪れることだろう。


『おお、また、眠りについていた樹が目覚めた』



みみ子と矢戸も、山頂から四方の景色を眺めた。

まだ荒れ果てているようにしか見えない。

これから変わっていくのが楽しみだ。


遠く見える南の海岸には、なるほど白波が寄せているようだ。

「空原さん、富士山といったら、三保の松原です。

行きましょう、あの海岸に」

谷戸の性格が、近頃変わった気がするのは気のせいだろうか。

みみ子に反対意見は無いけれど。


「そうね。三保の松原から見る富士山は格別だと言うし。

海岸から眺める天津聳地嶺は一興かもしれない」


二人は、一気に海辺に飛んだ。


海に突き出すように、小さな半島がある。

降りてみると、天津聳地嶺が海に浮かんでいるかのように見えた。


「絶景かな、絶景かな」

みみ子は煙管(きせる)を取り出す仕草で言った。

演目も場面も違うが、気にしない。


景色を堪能して振り向けば、二人の後ろには一本の樹があった。

眠っているのか目覚めているのか分からないが、知らんふりは拙い。

一応、挨拶をしておこう。


近づくと見えた。

樹の高い枝に、白い布のようなものが絡んでいる。


みみ子は木登りが苦手だ。

登れないことはないが、年寄りがわざわざやることではない。

四十歳の時、近所の公園で遊んでいた子どもの紙飛行機が、木の高い枝に落ちた。

取ってやろうと登ったは良いが、降りたら、体中が毛虫でいっぱいになっていた。

桜の木だった。

せっかく取ってやったのに、子どもたちは逃げた。

まったく近頃の子どもは、毛虫ごときに情けない。


それ以来、木登りはしないと決めた。


しかし困った。いつの間に一反羽衣は、あんなところに。

取り戻さなければ、帰れない。

歩いて帰るのは論外だ。絶対に迷子になる。

おまけに遠い。


「おーい、戻っておいで」

木の枝の白い布に呼びかけた。




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