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45 青空と星空と阿斯訶備比古遅

登場人物紹介

    空原 みみ子 異世界を見つけた婆さん。一応ジジババ友の会会長

    谷戸 晴美  妖エネ研で知り合った初期メンバー。弓を弾く婆さん

    華京園 阿比子  没落した旧家の老嬢

    高 師弥  華京園家の執事。会員だから当然ジジイ

    阿斯訶備比古遅  千年間の難産で生まれた樹の親にして王


 久しぶりにまともな紹介になりました



雨が上がると、青空だった。

夜になれば、明るい星空だった。


思いのほか大きな月と、小さめの月があった。

異世界の夜空だった。


大きい月は青白い。

小さい月は桃色だ。

二つの月は、煌々と荒れた大地を照らした。


「澄みきった青空は格別だけど、この夜空は豪華絢爛ねえ」

みみ子は飽かず眺めた。


穏やかな光景を堪能していると、ふと思う。

何故あんなことになったのだろう。

あの大蛇の島に生まれた新芽の正体は?

千年も前に生れ出ようとして育ちきれなかったのには、何か訳があるはずだ。

聞きたいような、怖いような。


凭浜高司尊に尋ねても、黙して語らない。

よく分かっていないのか、話せない訳があるのか。

思い当たることはある様子だが、伝えてくるイメージは無い。

「えーとお、アシ、アシカビなんちゃら、そうだ。

アシカビヒコヂだ。それを継ぐ存在らしい。

分かる?」


高司尊は動揺した。

ぐるぐると混乱して、明確なイメージにまとめられない。

みみ子には、さっぱり伝わらない。


生まれたばかりの赤ん坊に、あれこれ問いつめるのも気が引ける。

そう思って遠慮していたが、そろそろ直接若芽に尋ねても良いだろうか。

一人では心細いので、誰かを誘って聞きにいこう。

大雨の後の島の様子を見るだけでも良いし。


爺さんたちは、大雨の被害を確かめようと、探索を始めていた。

ただの散歩かもしれないが、会館には居ない。

谷戸晴美と華京園阿比子が付き合ってくれるという。

養生院組は、複数の転院患者の予定があって、珍しく忙しい。


今回、華京園家の執事高師弥が、頑として付いて来るという。

(うやうや)しい態度を崩すこと無く、阿比子の背中に捕まった。

器用なことをする。

四人で、晴れ渡った青空に飛び立った。


「すごいことになってますね。久しぶりに来てみれば、これですか」

谷戸が、びっくり仰天した。


これまで薄暗かったから、荒れていると言う印象はあっても、細部まで見えていなかった。

明るくなった異世界は、岩と土ばかりが存在感を示している。

細かい物は、雨水に流されたのだろうか。

きれいさっぱりと何も無い感じだ。


すぐに分かったのは、海岸線が全く変わっていた事だ。

渡り門の東側は広く砂地と石ころが続いていたはずだが、海になっていた。

大きな湾が出来上がっている。


南は、渡り門の近くまでが海だ。

遠くまで見渡せるようになったが、見覚えの無い景色ばかりだ。


迷子にならないように、まずはプレハブを建てた場所を目指した。


無かった。

プレハブも灯台櫓も水没していた。


「わああ、大損害だ」みみ子が嘆いた。

「大事な物が置いてあったのかしら」谷戸が心配した。

「いや、大事な物は置いてなかったと思う。

食糧と生活用品の備蓄が少し。

でもさあ、慣れない世界でみんな頑張ったじゃん。

えっちらおっちら資材を運んだし、新たな人材も発掘したじゃん。

それがみんな水の中よ。悲しい」


「使える人材は残りましてよ。楽しい人材が増えたと思えば、黒字ですわ」

貧乏なお嬢様阿比子は、鷹揚に微笑んだ。

財政的な苦労は、執事の高が一手に引き受けているのだ。


ひとまず方向を東に変えて、先頭大島に向かった。

先頭大島は小さくなっていた。


そこからさらに南へ。

途中にあった小島は消えているものもあったが、いくつかの島が残っている。

明るくなり、遠くまで見晴らしが良いので、何とかなる。

島伝いに飛んで、南へ。

先頭大島と途中の島々に作った灯台もどきは、高い場所に設置したせいか、無事だ。

光果は、すでに光っていないが、昼間に光っても役に立たない。

暗くなってから光るようにできれば、まだまだ役に立つ。

地球の街灯が、もうそうなっている。

音無結絵に言っておけば、何とかするんじゃないだろうか。


大蛇の島も小さくなっていた。

波打ち際にあった砂と石ばかりの地帯は海の中である。


四人は台地に降りた。

たくさんの物の怪が、力尽きて転がっていた。


何があった。


「どうしたのかな。

困ったことがあったなら、早めに相談しなさいよ」


大きな黒い塊が、もぞもぞと動いた。


「そ〜こ〜の〜 紫が〜 怒った〜

産屋を〜 片付けろー。片付けた〜。大変、だった」

阿比子の肩に乗る紫紺に怯えている。


なるほど、島の物の怪たちも、雲を消す為に一役も二役もかったのだろう。

「自業自得だわね。

自身がやったことは、最後まで責任を取りなさい」

使い魔の紫紺は、阿比子に似て来た。

きっと紫紺も、上から目線で命令したのだろうと思われる。


「お疲れー。

それはそうと、元気に育っているみたいね。大きくなってる」

矢戸が樹を見上げて言った。


生まれて間もないというのに、樹は小柄なみみ子の二倍を越えている。

高身長の阿比子の二倍も越えているかもしれない。

普通なら、立派に若木だ。

この子は、どこまで大きくなるのだろう。


明らかに地球の木とは違うからには、意思の疎通はできるだろう。

みみ子は、そっと幹に手を当てた。


「空原みみ子と申します。元気ですかー」

先ずは自己紹介だ。

谷戸、阿比子、師弥の順に、幹に手を当てて挨拶をした。


「よう来られた。異界の客人(まろうど)よ。

我は 阿斯訶備比古遅(あしかびひこぢ)である。

たいそう世話になった。礼を申す」


若木にしては偉そうだ。

もうすっかり一人前のようだ。


「玉藻には、阿斯訶備比古遅様を継ぐ方と聞きました。

ご本人なのですか」


「阿斯訶備比古遅であり、阿斯訶備比古遅を継ぐものでもある。

ここは、大海のただ中にあるようだ。

このような仕儀になる前は、ここより遥か亥——そなたの知識にによれば北北西に座しておった。

悪しき鬼の仕業により、追われた」


「鬼が居るのですか。大変。まだ鬼はこの世にあるのでしょうか」

「否。もとより鬼は異界から来た。異界の者が招き入れた」


「おっと、異界の鬼?」


「鬼とは、言葉も思いも通じぬ輩をさす。

様々な鬼が居り、様々な物が鬼に変わる。

鬼は、()()けた大山津美(おおやまつみ)が始末したようだ」


「何がどうして阿斯訶備比古遅様がここに居られたのか、おうかがいしても」


「救われた恩もある。語ろう」



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