44 芽吹き
登場人物紹介
ジジババ友の会会員諸氏
すいません。 手抜きです。
みみ子と阿比子が島に残り、他は一旦戻る事にした。
他の会員への連絡と補給をしなくてはならない。
全員が島に残る事はできない。
阿比子が運転してプレハブに残したてきた車は、結絵が返却してくれる。
一反羽衣があるから、移動が楽になった。
谷戸晴美は、会への報告と共に、凭浜高司尊と凭浜門守命にも事の次第を報告した。
どちらも大層喜んだ。
特に高司尊は枝葉を大きく揺るがせて、震えた。
爺さんたちも結果を聞いて、湧きに湧いた。
「すげえ、妖怪どもをやっつけたのか」
「どうやったのですか。怖くなかったですか」
「華京園の伝家の宝刀が抜かれたかあ」
「姉さんたち、さすが!」
「ぜんぶ、おとなしく、させてやった」
山田マリが良い笑顔だ。
爺さんたちは歓声を上げた。
ジジババ友の会会館の居間は、アイドルのコンサート会場になった。
ごく小規模のアングラ風であるが。
そんな祭のような騒ぎの中。
どの爺さんの声だったろうか。
ぽつりと呟いた声がした。
「婆さんたちにしてやられたか」
その呟きは、喧噪の隙間を縫って爺さんたちの耳に届いた。
静かになった居間に観凪の笑い声が響く。
「おーっほっほ、
あそこに島が在ると知らなければ、とてもあの靄の中に入ろうとは思いもしませんでした。
今回最大のお手柄は、先遣隊にあります。
ブラボー」
爺さんたちの顔に、じんわりと笑顔が戻った。
観凪にしてやられている。
殿方は褒めてやらねば。
観凪の持論である。
褒めれば、身を粉にして働く、使い勝手の良い生き物なのだとか。
酷い言い方に聞こえるが、観凪は、そんな批判を歯牙にもかけない。
賢い殿方は、承知の上で頑張ってくれる。
<褒める>は、美味しいご褒美。
お金はかからないが、けっしてリーズナブルではない。
ポイントを外さない為には、観察力が欠かせない。
褒め上手な人は、優しい視線を持っている。
友の会会員は、期待を胸ににぎやかな日々を過ごした。
何が生まれるのか。
雲は晴れるのか。
異世界は復活するのか。
ワクワクして待った。
そうして一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎ、三ヶ月が過ぎようとしていた。
千年に比べれば瞬く間だ。
会員は、以前通りにそれぞれ好き勝手に異世界を探索した。
「俺も一反木綿で飛びたい」
はぐれ雲が、うらやましそうにねだった。
「私も」桃太郎は瞳を輝かせて尻馬に乗った。
「羽衣ですわ」
阿比子が訂正した。
「だから、一反羽衣で良いじゃないですか。
大家さんに頼んでみたらどうでしょう。
私のは、あげません」
点子は、しっかりと念を押す事を忘れない。
八枚の一反羽衣は、婆さんたちが手放さない。
気に入って使い倒している。
行動範囲が飛躍的に伸びていた。
結絵はひとっ飛びで根漕山を越え、天津聳地嶺の麓に通っていた。
現地で光果と蔕を直接探している。
組み合わせができる物だけを拾うから、俄然効率的になった。
恐ろしい成果を上げている。
会館の一室には、光果が山と積まれていった。
長丁場になりそうなので、みみ子は家に帰った。
時おり島に渡り、見張っている。
余計な手出しをしそうになった島の物の怪を叱り飛ばす。
他の婆さんも入れ替わり訪れて、雲を払った。
「一反羽衣を欲しがる人が多いのよ。増やせないかな」
フーちゃんに相談したが、困ったようにふわふわするばかりだ。
諦めてもらおう。
そうして三ヶ月が過ぎる頃、大蛇の島に清浄な光が満ちた。
台地の種が芽を吹いた。
雲湧きが止まった。
靄が晴れ、島を囲む海が見えた。
残っている雲が空を覆っているので、視界は暗い。
海も暗い。
だが、確かに海だった。
やったね。
嬉しくなったみみ子は、誇らしげに台地を振り返った。
驚いた。
芽吹いたばかりの新芽が、どんどん伸びていた。
コマ落し撮影の動画まで速くはないが、目に見えて伸びている。
おっとこうしちゃいられない。
みんなにも報せなくては。
みみ子は大蛇の島を飛び立った。
「芽を出したわよー」
大声で吉報を叫びながら会館に入った。
猿がパソコン部屋から飛び出して来た。
「やった。データ更新」
「他の会員は、出払っているかー。
せっかく急いで報せに来たのになー」
「茶でも飲むか。coffee or tea?」
猿が良い発音で聞いた」
「coffee please]
猿の入れるコーヒーは美味い。喫茶店ができるレベルだ。
みみ子は一息入れると、紙に大きく書いて掲示板に貼った。
会員がやって来るのはバラバラだろう。
考えたら、一々説明するのはめんどくさい。
そうは問屋が卸さなかった。
掲示板を見た会員が、みみこの口からも詳しく聞きたがった。
「で、雲は、いつになったら晴れるんだ?」
あれから待ったが、溜まった雲はそのままだ。
少しずつ薄くなってはいるのだろうが、見ただけでは分からない。
気象マニアのはぐれ雲に、皆が詰め寄った。
「高気圧と低気圧がぶつかれば、雨になって落ちるはずなんだが、大きな気流が無いのかもしれん。
千年も雲に覆われていたんだ。海も陸も温度が平均化してるのかな。
何もしなけりゃ、けっこうかかるぞこりゃ」
「だからといって、今までみたいにちまちまと雲消しするのも業腹ね。
せっかく湧くのが止まったのだもの。
大掛かりに消し飛ばしてやりたいわ」
藪小路副院長が言った。
「やはり、雨にして、地上に降らせるのが良いだろうな」
「ロケットを飛ばす?」と谷戸晴美。
以前そんな話もしたなあ。みみ子は思い出した。
でもあの頃とは違う。もっと便利なものがあるじゃないか。
「グレさん。雲を消したロケットは何をしたの?」
「ああ、上空でなんとか銀の粒子をばらまいたとか言ってたな。
雲を雨にするには、氷の粒が上空にいられなくなるまで氷滴を大きくするのがいいらしい。
なんとか銀が芯になって大きな粒になるんだったかな。
そんなような理論らしい」
「芯になる粒子、気流の流れ。ふむふむ。できるかも」
みみ子は、二カッと笑った。
「ふーちゃん、お願いがあるの」
結局は、使い魔頼りである。
「雲の中に細かい粒を撒いて、引っ掻き回すことはできるかしら」
フーちゃんと観凪の使い魔の鈴が、膨らんだ。
行けそうだ。
桃太郎に憑いている緑と茶色の物の怪も一緒に膨らんだ。
桃太郎は、頻繁に幸多真比売のところに通い、こっそりと邪気払いと雲消しの練習をしていた。
その間に取り憑かれた。
小さいが赤・青・黄色・緑・茶・紫・白・黒・桃色と数だけは取り揃っている。
二匹とおまけは張り切った。他の使い魔も飛び回って何かした。
やり切った。
雨は土砂降りになり、四十日四十夜降り続いた。
箱船を作ってないけど、大丈夫か。
心配になる雨だった。




