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42 ババア探検隊

登場人物紹介

    友の会ババア八人衆 空飛ぶ婆さんたち

    常闇(とこやみ)玉藻(たまも)  雲が湧く島の物の怪


    一反羽衣も活躍?



「せーの、はい」

みみ子の掛け声と共に、白くて長い物は、めちゃくちゃな動きをした。


部分的に上昇したかと思えば下降し、右に左にうねうねと捩じれる。

ついには山田マリが転げ落ち、

「止まれー!」

「ストップ!!」

「緊急停止!!!」

「元の位置にもどれ〜〜」

みんなの気持ちが一つになった。


「マリさん、大丈夫? 怪我をしてない?」

駆けつけて助け起こせば、けろりとしていた。

「受け身をとったから平気だよ。体重が軽すぎたかな」


「吃驚した。何故暴れたのかしら」

「ん〜〜」

疑問に悩んでいる中、藪小路がポンと手を打った。

「みんなのイメージがバラバラだったんじゃない?」

「あーー、そっか」


「これはどうしたものかしら」

「イメージするのは一人に任せて、あとの人は無念無想になる?」

谷戸が言った。

「乗っている間、ずっと無念無想は無理な気がする。

面白そうなものを見つけたら、そっちに行きたくなったりするかもしれない」

白亥が自信無さそうだ。



「じゃあさ、一反羽衣に捕まるのは一人にして、他の人は前の人に捕まる。

そうすれば、良いんじゃないの」

観凪が、良いことを思いついたとでも言うように、得意げに言った。


「一反羽衣って、あれのこと? あれは、そう言う名前なの?」

「知らない」


「一人に全員が捕まって飛ぶの? かっこ悪い気がする。

婆さんの数珠つなぎは、誰得?」

白亥から文句が出た。


その姿を想像した人から順に、目を伏せた。

かなり長距離を移動する事になる。

小回りが利くかも心配だ。


「これは使えないかな」谷戸ががっかりした。

「こんなに長くなくても良いから、数があれば良かったね。

一人乗りか二人乗りなら上手くいきそうなのに」

みみ子も諦めようとした。

せっかく面白い物が登場したのに、残念だったが仕方がない。


船に慣れるまで訓練するか、乗れる人間だけで出発するか。

悩みどころである。

観凪だけ一反羽衣に乗って付いて来てもらうのは、ありかもしれない。


みみ子が考えている間に、フーちゃんが一反羽衣に交渉した。

たぶん。


うねうねとうねったと思ったら、八枚に別れた。

「おお、一人一枚。

ちょっと短い気がする。もう少し長い方が嬉しいかも」

みみ子が言うと、じわっと伸びた。

少し時間がかかったが、最終的に、一枚が三メートル以上になった。

幅も少し広がったように見える。


「白い魔法の絨毯みたいになりましたね。

でも『一反羽衣』は、怪しげな名前でそれらしくて、良いです」

白亥は『一反羽衣』が気に入ったようだ。


「そうですわね。でも短くなってしまって。

長いものがひらひらと空を飛ぶ姿のほうが、優雅ですわ。

これでは、羽衣とはいえません」

阿比子お嬢様はかなり残念そうだ。

「これ以上贅沢は言えません。便利です」

谷戸は、納得した。


しばらく練習して、東に見える島まで行こうと話がまとまった。

荷物は、それぞれが背負うしかない。

みみ子は買い物にも使っているリュックがあるが、他の人の分を買い出しに行く。

谷戸と白亥が立候補した。


二人を待っている間に、他のメンバーで、邪気払いと雲消しをする。

海も邪気払いしたが、特に変化はなかった。



先頭大島(まずおおしま)と名付けた東の島にはあっさり到達した。

「あらあらまあまあ、快適ね」

観凪はご機嫌である。


「調子に乗って、迷子にならないで下さいね」

年寄りに向かって言う台詞ではないが、危ないから注意した。


いざとなった時の信号灯を確認した。

結絵が光果を利用し、光の方向を絞って出せるようになっている。

軽くて小さいので負担にならない。

光通信と言ったら語弊がある。原始的な方法だ。

合図を決めてある。

縦に振ったらイエス。横に振ったらノー。

進めは8の字。退却は無限大マーク(横にした8の字)。

簡潔な信号を出せるように決めてある。


「五回点滅したら、あ・い・し・て・る だよね」

「それ、要りますか」

「まあまあまあ、おっほっほっほ」

白亥と谷戸も楽しそうだ。

結絵がマリから飛び方のコツを聞き出している。

自動車の運転は慣れたものだが、こっちはまだ不慣れだ。


先頭大島の中央に聳える山の頂上へも、なんなく着き、灯台代わりの装置の光果を取り替えた。

同じようにして、途中の島を経由しながら南へ。


ついに問題の場所に行き着いた。



どうなっているのか皆目分からないが、海から立ち上る靄が雲になって登ってゆく。

恐ろしく視界が悪い。

島が在るはずだが、全く見えない。


「調査隊は、よくこんな中に突っ込んだわね」

「迷子になりそう」

「ザイルを結んでは、どうかな。持って来てはいないけど」

「戻って考えますか」

相談していると、フーちゃんが一反羽衣に上にとまって、膨らんだ。

ソフトボールくらいだったのが、バスケットボールくらいになった。


他の使い魔も真似をして、それぞれ一反羽衣にへばりついた。

ちょっと伸び縮みしたかと思うと、一反羽衣が動き出した。

靄の中に進んで行く。


「あら、道案内ができるみたいね」

「サー君はできる子ね」

「東雲が操ってくれるのね。行きますわよ」

「安頓、やれるのね。迷っちゃいやよ」

「鈴、突撃! おーっほっほ」


人間たちの目には靄しか見えないが、使い魔たちは迷いなく安定して飛んだ。


想像していたより大きな島だった。


浜辺に降り立った一同は、一旦呼吸を沈め、何をしたかというと、ラジオ体操をした。


「ふうー、体調は万全ね」


口々に「おっけー」という声を聞いて、みみ子は気合いを入れた。

「では、まず邪気払い。島ごと払う気で、全力で行くわよー」


みみ子は、邪気払いの鈴を振り回した。

谷戸は、四方八方に弦打ちした。

観凪は、朗々と祝詞をあげた。

山田マリは、「とりゃーっ」と気を放った。


それぞれの邪気払いに合わせるように、使い魔たちも、膨らんだり伸びたりする。

全員が、気の済むまで邪気払いをした。


殺気立っていた空気が、少しばかり穏やかになった気がした。

しかし、天を覆う大量の雲が次々と湧き上がって、暗いのは変わらない。


結絵が、持って来た光果の蔕を外し、光を島に振りまいた。

暗い無彩色の世界が色を取り戻しつつあった。

あちらこちらで、もぞもぞと何かが蠢く気配がする。


その様子をしばらく眺めた。


「もう一回やっとく?」

「ラジオ体操からですか」

「なんでやねん」

みみ子、白亥、藪小路である。


「ラジオ体操第一〜」

空気を読まずに白亥が声をあげた特、中央台地の裾から、黒くて大きな固まりがゆうるりとやって来た。


婆さんたちは、待った。


離れたところで止まった黒いものから、重低音が響いた。

「な〜に〜も〜の〜」


声とも言えない。音である。

それでも、かろうじて聞き取れた。

こちらの正体を尋ねている。


みみ子は前に出た。

「我は 凭浜高司尊の願いを聞き届けるために参った。空原みみ子と申す。

ソは何ものぞ」


相手は物の怪にしか見えない。

ここは、大きな態度に出るべきだろう。


「わ〜れ〜は〜 常闇(とこやみ)の〜 玉藻(たまも)な〜り〜

凭浜高司尊の 願い と は」


「長き年月にわたり、天を雲が覆い尽くしている。

それにより、遠く離れた地も闇に沈み、大地は荒れ果てた。

知恵あるものは眠り、草木は枯れた。

凭浜高司尊は、青い空を望まれている。

幸多真比売に集いし物の怪の助けを借りて、雲の湧くところに至った。

玉藻に尋ねる。多くの雲の湧く訳は何そ」


玉藻は、(よじ)れて(もだ)え、みみ子たち一行に迫って来た。

近づくにつれて、その大きさが半端ないのが分かる。

ババアたちは、怯えた。



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