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登場人物紹介

    ジジババ友の会 八人の婆さん勢揃い

    使い魔に昇進した物の怪たち

  例によって人数が多いので詳細は省きます。



予定を相談して、都合を合わせた婆さん会員たちが集合した。


渡り門の前に集まった婆さんに、薄い黄緑色のふわふわが寄って来た。

みみ子の近くを、フワフワと浮かんでいる。

谷戸の背中に、いつの間にか群青色のブヨブヨがくっついていた。

藪小路副院長には水色のふんわりが、音無結絵の頭には銀色が、白亥点子の腕には黄色がやって来た。

山田マリの周りを元気な赤い玉が飛び跳ねている。


師長の観凪の頭上からリンリンと音がして、両脇に紫と朱色を従えた華京園阿比子も来た。


こうして集まれば、不思議な光景が出来上がった。

部外者には見せられない。

そう思ったそばから、みみ子は否定した。

仕掛けのあるイリュージョンだと思われるだけかもしれない。


地雷を踏まなければ、今の世の中は、案外何でもありだ。

問題は、地雷がどこに埋まっているのか、全く分からないことだ。

時代の風潮でも、埋まっている場所が変わるのだろう。

それこそ妖怪めいていると思った。

くわばらくわばら。


人数が多いので、結絵の小型電動車では全員が乗れない。

華京園家の執事 高師弥が、どこからか古い小型車を調達して来た。

知り合いが所有しているが、長らく使っていないから廃車予定だという。

もし故障しても、弁償しなくていいらしい。一応四駆である。

さすが旧家の執事。良い人脈を持っている。


いつも阿比子に従っている高がいないのは、ボロ屋敷の管理で手が離せない用があるという事と、阿比子が女子会だから来なくていい、と断った為らしい。

世間の女子会とは大幅に違うが、それで通した。


まずは半島のプレハブへ。分乗して、のんびりと出発した。


着いた所で問題が明確化した。


「船が小さい!」

観凪師長が突如叫んだ。


華京園阿比子が言った。

「確かに、思ったより小さいですわね」


「こんなに小さい船だったのね。

そうよね。大きい船は門を入れないもの」

観凪師長が肩を落とした。

「私ねえ、大きな船なら大丈夫なのよ。

でも、小さい船は、酔うの。酷く酔って醜態をさらすわ。

一緒に行けないわねえ」


「師長が醜態をさらすって、船酔いは怖いです。

私は船に乗ったことがありません。大丈夫でしょうか」

白亥が身震いした。


「私は、水上公園の手漕ぎボートは平気だったし、大型客船も大丈夫。

このくらいの船が一番危なかったかもしれないわ」

藪小路副院長までが、そんなことを言い出した。


「どのくらい大きい船なら大丈夫なんですか」

白亥の問いに、すかさず観凪師長から返事が返った。

「千トン以上の船なら、全然へ一チャラ」

「無理」

そんな大きな船は、絶対に渡り門を通せない。


「殿方たちは、皆様船に強いのかしら」

「ああ〜、ビニール袋とタオルと酔い止め薬がリストにあったような。

根性で乗り切ったのかしら。

冒険が俺を待っている。ここで逃げられるかアー、とか言ってそう」

みみ子は思い出して感心した。

さすが、そういうところは男の子である。


「あ〜あ残念ね。

空を飛べたら、私も一緒に行けるのに」

観凪師長が、乙女チックな一言を漏らした。


その時、観凪の頭上でおとなしくしていた茶色い玉が、静かに降りて来てフーちゃんにくっついた。

みみ子の近くを漂っていたフーちゃんが動きを止めた。

瞑想しているような感じが珍しい。


ややあって、茶色い玉が高く上がると、リンリンと高い音を響かせた。

何が起こるのだろう。

人間たちが戸惑っていると、どこからか、白く長いものがひらひらと飛んで来た。

厚く垂れ込めた雲の下を飛ぶそれは、明らかに、こちらに向かっている。


「あれは何?」と谷戸が指差した。

「鳥だ。ジェット機だ。いや、スーパーマン!」


「みみ子さん。とても懐かしいけど、違うと思うわ」

藪小路にたしなめられた。


みみ子の台詞は、昔「スーパーマン」が連続テレビドラマだった頃、番組のオープニングに流れた。

年寄りにはおなじみだ。


「一反木綿」と点子が言い、

「天の羽衣ではなくて」と阿比子が言った。

そのようなものだ。


そのようなものは、ゆっくりと降りて来て、人間の腰の高さほどの所に浮かんで止まった。

フーちゃんが、ひょいと飛び乗る。


ゆっくりとうねる白く長いものの上から、みみ子を誘う。

「どーせいっちゅうんじゃ」

そんな所に誘われても困る。


みみ子がブチ切れ気味に言っていると、サー君が谷戸の肩から降りて、ずりずりと近づいた。

ビヨーンと伸びて、みみ子の腕に絡み付き、白く長い物の上に押し上げた。

みみ子が乗っても、沈むこと無く高さを維持している。


「こら、ナニするのよ。

ちょっとー、いきなり動いたりしないでよ。どうどう」

みみ子は怖がって、白いものを思いっきりつかんでしがみついた。


「空原さん、それで空を飛べそうね」

谷戸が無責任な発言をした。


思わずみみ子は、飛んでいるところを想像してしまった。

白くて長いものは飛んだ。みみ子の想像通りに。

「うわあああ〜、落ちない? ねえ落ちないわよね。

ねえ降りて。ゆっくりよ、ゆっくり降りるのよー」


白くて長い物は、みみ子の願いを叶えた。


白くて長い物の上で、ぜいぜいしているみみ子を囲んで、みんな静まり返った。

谷戸が、怖々と触っているのを見て、次々とみんなが触った。


「飛べる」

山田マリが、ぽつりと一言、言った。

「何人乗りかなあ」

音無結絵が言った。


「空原さんは軽いからねえ。私が試しても良いかしら。

ねえ、どうやったら飛ぶの」

観凪はやる気だ。大きくて太めの身体を揺すって近づいた。


「飛んでいるところをイメージしたら、飛んでました」

みみ子は答えた。

「では、やってみましょう」

観凪は、よっこらしょとよじ上った。


観凪が乗ってもびくともしないのは、安心材料だ。

白くて長いものに乗った観凪は、きちんと正座して、視線を上に向けた。


何も起こらなかった。


「飛びませんねえ」

「あれっ?」

「あれっ、じゃありません。

どうすればいいのか教えてください」


「そういえば、白いのを握り締めてました。

怖かったので」

「なるほど、直接触ったのね。

樹さんとコミュニケーションをとる時と同じ感じかしら」


観凪師長は空を飛んだ。

「まあまあまあ、おっほっほっほ。飛びましたーーー」


空を飛ぶ婆さん。

ジブリも真っ青である。



散々飛び回って満足した観凪が降りて来た。

「この布切れ、とても良く言うことをききます」

「あとは、何人まで乗れるかがもんだいですわね」

「確かめましょう」


木綿の一端は十二メートル以上ある。

計ってはいないが、白いものもそれなりに長い。

八人くらいは乗れる。


一人ずつ乗ってみた。

全員が乗っても大丈夫そうだった。


「このまま飛べるかも確かめないと」

「低いところをゆっくり飛んでみましょうか」

「いきなり高く飛んだら怖いよ。

じゃあ、いくよ。せーの、はい」




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