40 妖怪大戦争か百鬼夜行か
登場人物紹介
無駄に人数が多いので、諦めました。
問題の場所が、島であるらしい事が判明し、上陸作戦は実行された。
その結果、島が普通じゃない事が分かった。
はぐれ雲曰く、<妖怪大戦争>らしい。
「映画かよ」
みみ子は、思わず突っ込んだ。
が、上陸作戦に参加したジジイたちは、みな真剣にうなずいた。
「うん、そんな感じだ。他に良い表現が見つからない」
山川谷男も望月院長も賛同した。
会館まで戻り、ゆっくりと話を聞く事にした。
島には草木があった。明るければ、緑あふれる美しい景色なのだろう。
中央付近には大きな台地のように高くなっていたが、そこには何も無かった。
雲は島からではなく、周囲の海から絶え間なくわき上がっている事が分かった。
何故そうなっているのかは分からない。
先行して何歩か踏み出したのは、斥候役を名乗り出たリハビリ担当の風魔だった。
風魔の足元から突然蔓性植物が絡みつき、足を止めようとした。
風魔は愛用の木刀を振るって、蔓から逃れると同時に警告を発した。
「蔓草が攻撃してくる。草の無い所に避難!」
島の海岸線には、砂と石ころばかりの広い地帯があった。
全員がそこまで退避し、草の無い場所を探した。
土砂崩れの痕らしき場所があった。
植物は無いが、また崩れたら危ないとさらに進めば、川があった。
澄んだ水がさらさらと流れている。
片方の岸辺が、土と石なので、そちらを選び遡ってみた。
少しして、川から何かが流れて来た。
キラキラ光る細い棒だ。
風魔が拾い上げて、皆に見せた。
「これは、樹の亡骸じゃないでしょうか。
細い枝が折れたもののように見えます」
「確かに。ということは、この上流に樹さんがいて、亡くなったということだろう。
そこまで行ってみよう。何か手がかりがあるかもしれない」
話がまとまって、先ずは食事と一休み。
一度河口に戻り、携帯コンロでお茶を入れ、休憩した。
しかし、休憩どころではなくなった。
どこからか火の玉が飛んで来て、コンロをひっくり返した。
慌てて逃げたが、火の玉に追いかけられ、川まで逃げた。
「ああ吃驚した」
「逃げ切れたか。危なかったな」
「よし、休憩は諦めて、このまま上流に進もうぜ」
甘かった。小川が立ち上がった。
そして、襲ってきた。
「そっちは危ない。草が居る」
「こっちだ」
互いに助け合いながら逃げた。
「それからはもう、何がどうなったのかを語れる自信が無い」
院長が他のメンバーを見回した。
皆、似たり寄ったりらしい。
思い出そうと一所懸命な様子なのだが、話が上手くまとまらないでいる。
「土砂崩れの痕は通った」
「土が暴れて、飛ばされた気がする」
「蔓草の固まりが、空を飛んできた」
「眩しい光が、龍のようにうねって追いかけて来て……」
「突然辺りがまっ暗になったかと思えば、風のうなりが大きくなり……」
「気がついた時には、上陸地点の近くに居た」
それぞれが思い出すままに発言しては、次にバトンタッチした。
なんとなく互いの顔を見合わせて一息つくと、一斉に大声をあげた。
「火の玉が大きく膨らんで、ものすごい勢いで回っていた」
「水が、水が激流のように走って来て、はじけて」
「土が、うねうねと。土がだぞ」
「草が生きているみたいに、いや生きているんだろうけど、凶悪な様子になった。
襲って来る気満々だった。間違いない」
「光の柱が、天まで伸びて雲を突き抜けました」
「真っ黒い闇が、どっと押し寄せてきて、死ぬかと思った」
「それより、最後に見えたものが忘れられません」
殿を務めた風魔大太郎の声が、震えた。
皆も、大きくうなずく。
「何が見えたんですか」
みみ子は、留守番組を代表して尋ねた。
「中央の台地から、恐ろしい叫び声が上がりました。
その後すぐに、台地を囲むように、何かが集まってきました。
どす黒いのですが、何色とも言えない様々な色で、形があるとも無いとも言えない何かです。
ブヨブヨ? グニャグニャ? ガチガチ? ポキポキ? ホニャホニャ?
要は、正体不明な何かです」
最後は、オノマトペに頼った。
「うん、ふにょふにょ、ぺちゃぺちゃ、だ」
はぐれ雲もオノマトペにしかできない何か。
まともな手段でどうにかできるとは思えない。
それなら、まともじゃない手段を探さなくちゃ。
みみ子は、そう考えた。
◇ ◇ ◇
探索に参加したジジイたちは、意気消沈していた。
船の番をしていた猿は、直接体験してはいないものの、帰りの船で散々まとまらない話を聞かされたらしく、同じように意気消沈していた。
みみ子は、冒険談を聞き損なった会員、主に婆さんたちに話した。
「まともじゃない手段で攻略しようと思うの」
「<妖怪大戦争>とは、殺伐とした言い方ですわ。
無粋ですわね。風流がたりません。そこは、百鬼夜行にしませんこと」
華京園阿比子が不満そうだ。
「殺伐としていたのでは。
他に言いようが無いとも言ってました」
みみ子はフォローしておいた。
「妖怪退治は我が家の先祖もしておりましてよ。
退治ではなく退散させただけかもしれませんが、我が家には、代々伝わる破邪の剣もあります」
「雲を消してもすぐに湧くのでしょうから、邪気払いですね。
他に何をすればいいのかしら」
谷戸晴美は首を傾げるばかりだ。
「爺さんたちの話だけでは、よく分かりませんね。
逃げ回っていただけのようにも聞こえますし。
一度現地を実際に見た方が良いように思います」
奇譚の無い意見を言ったのは、看護師の白亥だ。
「じゃあ、見に行こうか」
みみ子の一声で決まった。
「何か準備した方が良いかしら」
谷戸晴美がメモを用意して尋ねた。
「いつも通りで良いんじゃない。
動きやすい格好とおやつと養いの実をいくつか。
好みの飲み物も欲しいけど、重くなったら嫌だわね。
皆さん、ほどほどに準備しましょう」
「船は誰が操縦するの?」
「私、船舶免許を持っておりましてよ。任せなさい」
谷戸の問いには、阿比子お嬢様が即答した。




