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36 緑色のふわふわと群青色のぶよぶよ

登場人物

    空原 みみ子  異世界を見つけた婆さん

    谷戸 晴美  妖エネ研で出会った弓道婆さん

    新登場 車椅子の老嬢と執事



隙あらば虎視眈々と様子をうかがおうとする斜め向かいの覗垣夫人の視線をかいくぐり、怪奇現象研究家の好奇心をかわし、異世界の探索は進んでいった。


見つけた島は、真ん中に山がある大きな島だった。

先頭(まず)大島と仮に名付けた。


先頭大島の山から、光果龕灯で周囲を照らし、さらに南の島を見つけた。

そこからさらに南方にも島が在った。

島伝いにほぼ南に向かって進んで行った爺さん一行は、広い海の真ん中に、異状に多くの雲が湧き立つところに行き着いた。


みみ子が異世界を見つけてから、一年以上が経っていた。

たった一年で、かなりの成果と言って良いだろう。



私生活が忙しかったと言って久しぶりにやって来た谷戸晴美と一緒に、みみ子は渡り門をくぐった。

「ついに見つけたのよ。雲の湧く場所を」

歩きながら、みみ子は最新ニュースを伝えた。

「やったわね。異世界復興が一歩進んだのね」

谷戸も大いに喜んだ。

「雲を消しに来るのも後わずかかしら。

そうしたら、青空の下で散歩をしましょう」


「そう簡単には行かないみたいよ。

雲が大量に湧く原因が分からない」


『海底火山かしら』と言ったみみ子に、気象オタクのはぐれ雲は否定した。

自然現象には見えない。噴火している形跡もない。

魚群探知機のレーダーでも、海底に異変は見つからない。


「雲が湧く原因が謎なのよ。

まずは、原因をを突き止めて、それをどうやって止めるか。

そこいら辺が、大問題なのよ」



いつものように、少しばかりの雲を消したところで、谷戸が言った。

「ところで空原さん。緑色のふわふわが明るい色になってるわね。

鳴弦で消えないし、悪い物ではないのでしょうけど、何なのかしら」


「へっ? 緑色のふわふわ?」

「ええ、空原さんの周りでふわふわ浮いている、存在があやふやなソレよ。

えーと、何ていったかしら、ああそう、幸多真比売! 

北に居たあの樹さんにたかっていた、正体不明のふわふわ。

幸多真比売が物の怪だと言っていたあれかもしれない」


みみ子が慌てて周りを見回すと、目の前にふわりとやって来た。

「あひょー、いつの間に」

「へえ、気がついていなかったのね。

案外本人は気がつかないものなのかしら」


「まさかこんな物が、まとわりついているなんて思わないもの。

普通、思わないよね」

みみ子が、おっかなびっくりと手を差し出してみる。

ふよふよと移動して、掌に乗った。

「あははは、なんじゃこれ。

懐かれた? ねえ、こいつったら、私に懐いてる?」

緑色というより透明に近い黄緑色に見えた。


「おめでとう。物の怪憑きになったわね」

「ええーっ、これってめでたいのかなあ」

「さあ」


「他人事だと思って、素っ気ない態度だわね」

「いいえ、十分面白いです」


「う〜ん、幸多真さんのところから付いて来ちゃったのかなあ。

それなら、谷戸さんにも憑いているんじゃないの」

「居ないわよ」


谷戸の否定を無視し、みみ子は谷戸の周囲を回りながら、鋭い視線を巡らした。

「ふん、居ないようね。つまんない」


「うふふ、桃生さんのところで実をもらってくるわ」

「そういえば久しぶりに来たものね。たーんとお食べ」

うれしそうにその場を立ち去ろうとして、背中を見せた谷戸に、「ああーっ」みみ子が大声を上げた。


「どうしたの」驚いた谷戸が立ち止まる。

「居るわよ。群青色のぶよぶよが背中に張り付いている!」

みみ子の指摘に、谷戸もさすがに焦る。


「ぐんじょう色って何。ブヨブヨって、どうゆう事。

フヨフヨでもプヨプヨでもなく、よりによってブヨブヨ。

しかも背中に張り付かれていたら、気がつく訳ない。

本当に居るんでしょうね」

谷戸は力強く文句を言った。


「うん、一所懸命に見ようとすると、見え難くなる。

何でもない振りをして、さりげなく見ると、よく見える。

群青色のぶよぶよ」


「ううう、暗く不健康な色をした、だらしない肥満体なの?」

谷戸は不満顔だ。

「違うわね。イメージで言うと、西遊記の沙悟浄。

たぶん、水の妖怪。そんな感じ? すごく小さいけど」


「河童? 河童なの? ええー、河童に取り憑かれた」

「河童じゃないわよ。河童は日本にしか居ないらしいよ。

西遊記は中国だもの。違うでしょ」

「河童は日本にしか居ないの?」

「うん、世界の妖怪ランキングに河童が入ったというニュースを聞いた時、そう言ってた。

沙悟浄の沙は、水の妖怪という意味らしいから、親戚かも」


話をそらされて、谷戸は気合いを入れ直した。

「まっいいわ。サーちゃん、もしくはサー君。

隠れてないで、出てらっしゃい」


ビクンと震えたサー君は、ずりずりと背中から肩へと這い上がった。

「うわあ、本当にブヨブヨ。空原さんとこのフーちゃんみたいに飛べないの?」

「勝手に名前をつけないでくれるかしら」

みみ子は抗議したが、フーちゃんは気にしていない。

何事も無かったかのように、ふよふよと浮いている。


「幸多真比売のところに一緒に行った、マリさんと結絵ちゃんにも報告と注意喚起をしておこう。

取り憑かれているかもしれない」


「今から養生院に行ってみようかな。

マリさんは、どうせ暇してるだろうし」

ということで、栄養士の山田マリが物の怪に取り憑かれていないか、確かめに行った。


養生院は、少ないながら患者が入って来ていた。

行き場の無くなった重病人が、紹介されて転院してくる。


みみ子が養生院に入ろうとした時、ちょうど患者が一人到着した。

車椅子に乗せられた老女の表情はきりりとしているが、顔色はひどく悪い。

車椅子を押しているのは、きちんとした身なりで姿勢の良い老人だ。

丁寧な態度で付き添っているので、夫婦には見えない。


「お嬢様、着きました。すぐに病室に入れましょう。

入ったらお楽になさってください」

付き添いの老人が病人に言う。


車椅子の老女は、素っ気ない態度で、小さくうなずいた。


二人とも老齢ではあるが、旧家の令嬢と古くから仕える執事の図である。

ただし、没落している旧家。そんな感じだ。

きちんとした身なりではあっても、新しいものは身につけていない。


小さな段差で、車椅子がわずかに揺れた。

老女が痛そうに顔を歪めた。

師弥(もろや)、ゆっくり行きなさい」

「申し訳ございません」


ゆっくりと養生院の中を進んで行く車椅子を見送って、みみ子は調理場に向かった。


転院手続きをしている受付の声が聞こえた。

患者の名前は、「かきょうえん あびこ」というらしい。

回復したら、「おーっほっほっほ」と高笑いをしそうだ。



登場人物の紹介が、だんだんいい加減にあってきました。

続けていいのか迷っています。


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