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27 会館建設に向けてああだこうだ

登場人物

    空原 みみ子 異世界を見つけた婆さん

    音無 結絵  妹、耳が不自由だったが回復した。理系

    音無 恭子  姉。事務系

    桃太郎  元宿無し。自称冒険者

    建設会社会長(熊山 解治)+建設会社の設計士

  その他友の会会員  はぐれ雲(気象)、山川谷男(地図作り、測量)、猿(PC)、

藪小路 奈緒子(副院長)、観凪 楓(看護師長)


登場人物が多いので、はしょりました。




結絵は、光果の蔕と実を、外したり着けたりできる装置を作った。

人間が五感を使い、指先を器用に使って出来ることでも、機械にさせるとなると難しいらしい。

微妙な操作が必要なので、精密機械になった。

さらに、時限装置を組み合わせて開閉し、昼間が分かりやすくなった。

十日に一度交換すれば良くなり、便利になった。


結絵は、さらに、なにやら研究しているが、他に結果は出ていない。


拾い集めた光果の実と蔕を持ってきた桃太郎を捕まえて、結絵が交渉を始めた。

「現地に行きたい」

嶺の麓に行き、直接組み合わせが出来る実だけを集めた方が効率的だ。

だから、行きたい。


桃太郎は困った。

結絵はバイクに乗れないという。

荒れた山道を、二人乗りで行くのは危険だ。

元気でも、ジジイとババアなのだ。

異世界に救急車は来ない。


「グレさんと山川さんの調査では、南は海。

それなら、根漕山は南に行けば低くなるのでは。

南から海岸沿いに進めば、自動車で進める道がないだろうか」

結絵は諦めない。


「自動車……自動車を異世界に持ってくのか。

小型の車なら、渡り門をぎりぎり通せるかもしれないけれど。

やってみなくちゃ分からないです」

桃太郎は考え込んだ。

「では、やってみましょう。

小型のSUVで、四輪駆動が良いです」

「あれっ、結絵さんは、運転免許を持っていますか」

「無いです。でも、やってみれば、出来そうな気がします」

異世界には警察はいない。

実際に運転できれば、問題ない。結絵は強気だった。


「せっかくだから、電気自動車にしましょう」

「何がせっかくなのか分かりませんが、海岸沿いに行っても、断崖絶壁という可能性もありますよ」

「う〜ん、その時は、他の手を考えます。

もしくは、歩いて行きます。足を鍛えます」


淡々とした態度のままだが、発言にはやる気を見せる結絵だった。


みみ子は、そんなやり取りをぼうっと見ていた。

気づいた桃太郎が、みみ子に声をかけた。

「設計士の方が打ち合わせに来ます。

お二人も立ち会いませんか。102号室です」

好き勝手に要望を言い出す会員に、ちょっと混迷ぎみになっている。

桃太郎としては、まとめ役が欲しいと思っていたところだ。


102号室には、はぐれ雲、山川谷男、猿、藪小路医師、観凪師長、音無恭子が居た。

みみ子たち三人が入っていくとすぐに、谷戸晴美もやって来た。

「特に要望はないけれど、面白そうだから来た」

桃太郎が丸椅子をいくつか運んできた。

はぐれ雲と山川が座ったところに、チャイムが鳴り、建設会社の二人が来た。

眼鏡をかけた中年と、無愛想な爺さんだ。


勧められたテーブル席に着いた中年が、挨拶もそこそこに、設計図を何枚か取り出した。

「市民会館や町内会館、その他小規模会館の基本設計を元に、皆様のご要望を入れて書いてみました。

ご検討の上、ご意見をお聞かせください」


会員たちは身を乗り出して、「ここは何?」「これはどうなってるの?」あれこれ質問攻めにした。

ひとしきり皆でワイワイやった後、「なんか、ピンと来ないんだよね」

はぐれ雲が言い、皆がうなずいた。


「まず、土禁にしたい。

だから、エントランスじゃなくて、玄関。靴箱が欲しいぜ。

それから、集会室じゃなくてだなあ……、

なんていうか、そう! 茶の間だよ。茶の間。

皆で、だべって、ゴロゴロしたりする部屋。

気が向けば相談できる気楽な感じのさあ」

「それって、会館なんですか?」

設計士は、見るからに困惑している。


「あたぼうよ。ジジババ友の会の会館なんだからさあ、ジジイとババアがくつろげる感じがいいと思うぜ。

喫茶店とか碁会所みたいな感じもいいな。

で、この給湯室だけど、いっそ台所にしちゃおうぜ。

茶飲み話には、茶請けの菓子や漬け物を用意しなくちゃなんねえだろ」

言い出したのは、はぐれ雲だった。

「三階建てでもリフトは欲しいかな。

大きな荷物や重い荷物を持って階段を上り下りするのは面倒だ」

猿が真剣に口を挟む。

身体が小さいからか、熱心に主張した。

「屋上に出られるようにしてください。

天気の良い日に日光浴が出来ます」

と言ったのは、桃太郎だ。

異世界はずうっと曇りだから、陽の光が恋しいのだろうか。


さらに続けて「風呂は贅沢かもしれないけど、シャワー室があればうれしいです」

と言う。

絶対に泊まり込むつもりだと思ったみみ子は、言った。

「じゃあさ、宿直室を作っちゃえば。

帰れなくなった時に泊まれるし、夜間警備を兼ねて誰か居ることも出来る」

「それは良い。和室にして、布団を何組か用意すれば、夜通し話し合える」

山川が乗っかった。


「なんだか、修学旅行みたいね。

そういうことなら、入り口と階段からはなれた場所に、非常口と非常階段があった方が良いわね」

藪小路医師が言った。

「あらまあ、おほほ、非常階段じゃなくて、非常滑り台にしたら面白そう」

観凪師長は、そういう人だった。


設計士の後ろで、じっと聞いていた建設会社の爺さんが、大声で笑い出した。

「わっはっは、面白い。面白いぞ。

俺がやる。この仕事、俺がやる。鈴木、帰って良いぞ」


「会長、本当にお任せしても良いですか」

設計士は、控えめながら、安心したように言った。

「おお、まかせろ」

会長がドンと胸を叩くが、設計士は念を押した。

「すいません。引っ張り出しておいてなんですが、助かります」

「俺も、隠居したは良いが、ちょいと退屈していたんだ。

ちょうど良い。俺も友の会に入れてもらいたいくらいだ」


「良いねえ。気に入った。ほらよ」

はぐれ雲が放り投げた養いの実を、会長は慣れた手つきで受け取った。

「丸ごと美味いよ。がぶりといっちゃって」

会長は、ためらう様子もなく齧り付いて、ニコリと笑った。

「美味い!」


それからは、勢いを増したように、各々が好き勝手にしゃべり出し、建設会社の会長は、手近にあったコピー用紙にメモを書きなぐり、時おりラフな図面らしきものまで描き出した。


会員も、ますます調子に乗って、しゃべり倒した。

喧噪が増してゆく。

ひとしきり盛り上がった勢いをそのままに、誰かが叫んだ。

「おーい、お茶!」


やっと我に帰ったように、一息ついた時には、だいたいの相談がまとまっていた。


その時、静かで冷静な声がした。

音無恭子だ。

「ジジババ友の会」の庶務兼経理。

「費用は、どのくらいになりそうですか。

予算が……、予算を考えなくては」


「そうか、今現在、友の会の口座は、どんな風になってるのかな」

桃太郎が言った。

会員の中では、比較的常識人の二人の発言である。


「三億入ってます。足りますか」と恭子。

「足りなきゃ、皆で何とかすれば良いだろ」

無責任な発言を放ったのは、はぐれ雲だ。


「皆さんに言っておきたい事があります」

みみ子が、そこで大きな声をあげた。

「世間に後ろ指を指される行為は、絶対に止めてください。

『ジジババ友の会』は、健全な会です。

秘密はありますが、違法行為は御法度です。

むしろ、秘密があるからこそ、健全な会であらねばなりません。

怪しまれたら、友の会の危機です。

だってねえ……。

だから、違法行為はしません。税金は、きっちり払います。

無理をせずにがんばり、楽しみましょう」



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