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25 会の規約を考えてはみたものの、侵入者が来てピンチ

登場人物

    空原 みみ子  異世界を見つけた婆さん

    測量班  はぐれ雲(気象オタク)&山川谷男(測量好き)

    山田 マリ  養生院の栄養士。合気道の達人

    山本老人(元地主)+息子夫婦+外国人



会の規約を作って欲しい、と音無恭子に言われている。

みみ子は考えた。


どさくさ紛れに、『ジジババ友の会』に決まってしまった。

それを受けて、と言うわけでもないが、第一条は決まりだ。


第一条、会員の条件は、基本的に還暦を過ぎた隠居であること。一部例外は認める。


若い人には、がんばって地球を守って欲しい。

年寄りでも現役で活躍している人も同じく。

月見養生院も、年寄りばかりでひっそりと運営するつもりらしい。

ぶっちゃけ、隠居のボランティアに近い。が、微妙だから、言い訳も付け加えた。


第二条、入会金及び会費は無料。寄付は任意。


現在の会員は、宿無しのくせに金持ちだったりして、他人の懐事情は分からない。

これから会員になる人も、どんな人が来るのか分からない。

ざっくりしておきたい。


第三条、会の目的は別項にまとめ、会員以外には公表しない。


公表したら、世間の反応が怖い。

今のところ、山本家の嫁だけだが、異世界に行けない人間の存在がある。

行ける人と行けない人、その条件は判明していない。

行けない人間からは、ボケたと思われる危険がある。

下手をすると、嘘つきとか、詐欺と疑われる懸念も拭えない。

ボケたと思われるのも心外だが、犯罪を疑われるのは我慢できない。


第四条、会の運営は、……どうしよう。


会員の合議によって決めるしかないか。みんなに相談しよう。

中心になってまとめてくれる人は居ないだろうか。

いちいち全員で話し合う必要がないことだってあるだろうが、進捗状況は報告しないと。

どのくらいの間隔で、何をどう報告したら良いのかも、要検討だ。

まとめ役になってくれる人が欲しい。これは後にしよう。


改めて

第四条、入会希望者には、入会審査を受けてもらう。審査内容は、部外秘。


まずは、こっちが優先だ。大事。

出入りの可不可に()って、条件が浮かび上がってくるかもしれない。

異世界に行けない人の共通点が、分かるかもしれない。


第五条、規約は、必要に応じて、適宜改正する。


ひとまず、以上。


こうやってまとめてみると、怪しい会に見えてしまう。

いっその事、秘密結社にしてしまおうか。

みみ子は、一人、こっそり、うなった。



     ◇     ◇     ◇



凭浜高司尊から西の根漕山の間は、そこそこ測量が進んだ。

途中に居た樹のいく柱かを、ついでに測量班がしっかり目覚めさせた。

まだ寝ぼけていたのだ。寝起きが悪かった。

地球人が幹に何度も触れることで、やっとのこと、はっきりしたようだ。

異世界に来る地球人は少ない。個別に一々起こすのは大変だ。


高司尊によれば、雲を払えば、すっきり目覚めるはずだという。

測量班は南に向かった。

南は、なだらかな地形が続く下りで、進捗が早い。

しばらく進んだ所で、海に行き当たった。

海も、見渡す限り暗い雲の下にあった。



月見養生院の二人の入院患者が、瀕死からほぼ全快した。

その後から入院した一人も順調に回復に向かっている。

病名は違うが、手遅れだったり、治療法が効かなかったりした患者だ。

どの患者も、知り合いからの伝や、昔からよく知る病院からの紹介だ。

家族も打てる手が無くなって、最後にたどり着いた。


『人の噂も七十五日』は昔話だ。

住所や望月院長の名前をネットで検索すれば、『月見病院事件』が出てくる。

無いことばかりの噂の数々も、大量に出てくる。

一般の受付窓口を開いても無駄だから、やっていない。

紹介だけで受けている。

養生院では、治療と言う言葉を使わない。

栄養管理を中心に、なるべく薬を減らし、おだやかに養生させると説明している。


急な問い合わせが入った。

原因も治療法もわからない難病にかかっている人の母親が、急病で倒れた。

しばらく入院が必要だが、母一人娘一人の暮らしで、介護の手が無くなる。

間の悪いことに、相談に乗っている主治医の病院に空きがない。

難病故に、他に引き受け手が見つからない。母親の治療は急を要する。

母親が回復するまで預かって欲しい。そういう依頼だ。

受け入れた。

月見養生院のスタッフは、経験豊富だ。


養生院で栄養管理をしている山田マリを相手に、情報交換をしたみみ子は、異世界での日課を終えて戻る事にした。

買い物袋をぶら下げたマリは、養生院で使う養いの実を収穫してから戻ると言うので別れた。


渡り門を出ると、目の前の道路に新車が止まった。

降りてきたのは、山本老人と息子だった。

二人は、取り壊された家の跡地を見て、思わずという感じに立ち止まった。


「もう、取り壊されてるね。来るだけ無駄だったな」

息子の言葉を気にも止めず、山本老人は、家の跡地をゆっくりと見回した。

「もっと早くくれば、間に合ったかな。

空原さんの連絡先はどこにやったんだろう。大事に仕舞っておいたんだが」

「エンエンが捨てた。関わらない方が良いって。頭がおかしいババアなん……」

息子は言いながら、大岩の注連縄を嫌そうに見て、戻って来たみみ子に気がついた。

目が合ったようなので、みみ子が軽く会釈すると、ピクリと止まった。


「山本さん、お久しぶり。お元気ですか」

「おお、空原さん。お世話になりました」

「山本さん、今日は何か」

「今更すみませんが、アルバムが見当たらなくて、ここに残っていなかったかなあと……いやいや、私の勘違いでしょう。すみません」

「アルバムですか。このくらいの小さいのはありました。

連絡先を知らなくて、どうしようかと思っていたのですが、今持ってきましょう。

洋服ダンスと茶箪笥のような大きなものは処分しましたけど」

「もちろんかまいません。お手数をかけました。

アルバムがあったのは、ありがたいです」


みみ子は、部屋に戻り、アルバムともう一つ。

古い家に残っていたものを取りにいった。

処分するのをためらった品を取り出し、山本親子のもとに行こうとすると、止めてあった車から二人の人物が降りてきて、大声でしゃべりながら敷地に入っていくところだった。


エンエンという名前らしい嫁と、浅黒い肌の背の高い外国人の男だ。

話しているのは英語だ。

その二人は、当たりを(はばか)ること無く、ずかずかと奥に向かって歩いていく。

(私の土地だぞ。挨拶も無しに侵入するんじゃない!)

みみ子は気分が悪いが、他人の事は言えないと気がついた。

渡り門と出会ったきっかけは、みみ子の無断侵入だった。

口から出かかった文句を飲み込んだ。


エンエンとアラブ人風の外国人男性は足早に進んで、渡り門に行った。

エンエンが笑いながら、門の岩をペシペシと叩いて何か言っている。

ちらりと、<オールド コンウーマン>という言葉の端が聞こえる。

まだ<詐欺ババア>と言っているようだ。


一緒に笑う外国人が、渡り門の入り口に手を伸ばした。


やばい。



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