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24 ジジババ友の会発足

登場人物

    空原 みみ子  異世界を見つけた婆さん

    谷戸 晴美  仲間の弓道婆さん

  <会員> はぐれ雲のグレ(気象オタク) 山川谷男(測量) 猿(電脳オタク) 桃太郎(冒険者)

    音無 恭子  行き場を縛した姉妹の姉(事務関係)

    凭浜高司尊  異世界の知的植物



「何に建て替えるですって」

傍若無人な連中を放っておくわけにはいかない。

どこまで突っ走るか分かったもんじゃない。

みみ子は、言い出しっぺとして、舵を取らなくちゃという使命感に燃えた。


「会館です。こう……<異世界復興実行部隊本部>とか」

「そのネーミンングは却下」

「じゃあ、異世界突撃隊本部」

「突撃してどーする」

「異世界冒険者ギルド会館は?」

「却下! 荒事(あらごと)は却下。もっと穏便(おんびん)な名前を考えられないもんかしら。

物騒なのとか過激な感じのは、目立つから駄目よ。

目立たず地味に、さりげなく、あいまいな感じにしたいわ。

『友の会本部』みたいな。<異世界>も禁止よ」


「空原さん。結局、建て替えるの?」

谷戸の冷静な声に、しまったと思うみみ子だった。


だが遅かった。盛り上がっている。

「会議室と資料室は鉄板だろう」はぐれ雲のグレさんが言う。

「はぐれ雲が鉄板とは、これいかに」みみ子は付いて行けない。

「最悪、物置と兼用でも良いから機材置き場が欲しい」と山川。

「研究室は個室で」猿が、わがままを言っている。

「複数のトイレはもちろん、浴室と台所を忘れないでください」

桃太郎は、住み込むつもりのようだ。


「皆さんの希望をまとめることも大事でしょうけど、設計と施行は専門家に頼まないと」

谷戸が発言すると、場が落ち着いた。


建物を建てるとなると大変だ。専門家の力が必要になる。

メンバーの中に業者に当てがある者はいない。

どうやって探せば良いのだろうと考えていると、

「あのう、会館のような建物に実績がある業者に(つて)があります。

良かったら、紹介しましょうか」

音無恭子の、もの馴れた声が上がった。


聞けば、恭子は親の店を継ぐまでは、中堅どころの会社で経理と庶務をこなしていたという。

その頃の伝で、ちょうど良さそうな建設会社に心当たりがあるらしい。

「良心的な仕事をする会社です。良い仕事をしますよ。

ところで、施工主はどなたになるのですか。大家さんなのかしら。

費用の請求も大家さんで良いの。

他の方が出すなら、融資の手続きをしておいた方が。

金銭のやり取りは、きちんとしないと。

大金になるでしょうから、後で大変なことになりますよ。

税金とか」

「うわああ!」

その手のことに疎い奴ばかりだった。


「なあ大家さんよう。

ものは相談だが、そのべっぴんな姉さんに協力してもらうってのはどうよ。

色々知ってて頼りになりそうじゃねえか」

グレさんが、みみ子の顔色をうかがう。


「仕事ください! あ、ちょっと待って、その前に。

皆さんは、どういう集まりなんでしょうか。

まさか、違法行為はしていませんよね。

犯罪組織だったりしませんよね。

世界の乗っ取りを狙う悪徳商社のスパイということもないですよね。

もしもそうなら、お断りします。

私は、この年まで、清く正しく生きてきました。悪事に手は貸せません」

一息にキッパリと言い切った。


「大丈夫だ。

俺らは、目立たず、地味にさりげなく活動する『友の会」の会員だ。

ついさっき決まった。

悪事に手は染めてねえ。そこは、信用してもらいたい」

グレさんが、どーんと胸を叩いた。

「音無さんでしたか、『友の会』職員に決定ですね」

桃太郎がうれしそうだ。


「よろしくお願いします。

早速ですが、友の会の規約はありますか。無かったら作りましょう。

それから会員名簿も。

月見養生院との取引が始まりますので、口座と印鑑を作りましょう。

出納帳は任せてください。

あと、『友の会』だけだと口座が作れないかもしれません。

何かくっつけた方が良いでしょう」


「爺さんと婆さんばかりだから、『高齢者友の会』はどうかな」

と言ったのは桃太郎。

「ああ駄目。すでにそういう名前のNPO法人がある。

他とかぶらない名前にしないと」

猿がPCの画面を見ながら言った。

「んじゃあ、『ジジババ友の会』だ。どうでえ、かぶらねえだろ」

グレさんが勝手なことを言う。


「分かりました。団体の名称は『ジジババ友の会』と。

代表者は大家さんで良いですか」

音無恭子は真面目にメモを取る。本気なのかノリなのか、分かり難い。


「俺も会員だよね」望月が手を挙げた。

「私もね。会員特典を付けてね。

会員特典だから月見養生院は安くしてもらうと言えば、つじつまが合うわ」


友の会職員になってもらうからには、会の正体を現さねばならないだろう。

妹の友絵も内職をしてもらっているし、姉妹を別扱いに出来ない。

二人を渡り門に連れて行った。

無事、異世界に行けた。

二人とも、めちゃめちゃ驚いた。



     ◇     ◇     ◇



なんだかんだやっているうちに、『ジジババ友の会』の口座を作ることになった。

とりあえず、三億円をぶっ込んだ。これで、あぶく銭の残りはちょうど半分だ。

会館の建設費用にいくらかかるのかは、まだ分からない。

見積もりがまだ出ていない。


古家の解体から会館の完成まで、二人の宿無し老人、一人の家出老人を月見荘に住まわせようか。

そう思いながら、みみ子が三人の顔を見ていたら、猿が手を挙げた。

どこから湧いてきたのか分からないが、すっかり居着いている。

異世界に行ったり、養いの実を食べたりから、離れられないと駄々をこねた。

結局、102と103の広い庭付き二室を四人で使うことになった。

一階にした理由は、荷物の移動が楽だから。


会館に関しては、具体的な目処がつくまで音無恭子に頼んだ。

みみ子は、雲を消す方法を探さなくてはならない。

凭浜高司尊に相談に行った。


「いくら消しても湧いてくるからには、どこかに災いがあるのではないかと思うのです。

災いの大元にある根を断ち切らねば、きりがないように感じます」

高司尊も同じように考えていたという。

天津聳地嶺の様子を見るように依頼したのは、高い嶺から雲の動きを見た樹が、何か知っているかもしれないと思ったかららしい。

空が雲で閉じられてから、樹の多くが眠りについた。

樹の眷属も眠っている。その為、遠く離れた地の様子が分からない。

しかし、期待を裏切って、天津聳地嶺さえも半ば雲に覆われかけていると分かった。

事態は、高司尊の予測を超えていた。


範囲を広げて調べていくしか思いつかないらしい。

「冒険の始まりだ」とか言っている場合ではない。

みみ子はババアだ。鈴を鳴らさなくちゃならない。アパート経営だってある。

しかし、冒険者を募集するにも問題がある。


<異世界に行って冒険しませんか><異世界を救おう>

と言って、応募してくる人間が正気だとは思えない。

さらに、こっちの頭がおかしい、ボケていると思われるのは、ごめんだ。


冒険が好きそうな人を地道に会員に誘ってみよう。

友の会の会員が増えれば、冒険好きだって現れるだろう。


今の世の中、元気で暇な年寄りは、いっぱい居る。




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