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21 天津聳地嶺の黒い玉

登場人物

    空原 みみ子  異世界を見つけた婆さん

    桃太郎  宿無しの不審者だったが、みみ子の手下になった

    怪奇現象研究家  月見荘の住人。名前もある(羽加瀬 淳)

登場樹

    未夏彦 みなつひこ

    光放果産比売  ひかりはなちはかうみひめ

    維矢好比売 いやよひめ 



凭浜高司尊が喜んだ翌日、みみ子は古家に呼ばれた。


「ご依頼の件の報告書を一旦まとめましたので、提出します。

ひとまず判明したことをまとめてありますが、まだまだ何か出てきそうではあります。

天津聳地嶺はあまりに大きくて、調査できたのは東側から南方面の裾野周辺だけになります。

このまま調査を継続するかどうか、ご判断ください」

桃太郎が言った。


みみ子は報告書を読んだ。


途中の山は、高さはさほどでもないが、超えようとすると険しい道程ばかりで苦労した。

行き来することを考え、バイクで進める場所を探し、見つけた。

山を超えても空は厚い雲は続いていた。

向こう側を降りて行く途中で、山肌を転がり落ちる光を見た。


この近辺より山の向こうはいくらか草木が多い。

片っ端から木に触れて、意思疎通が出来るものを探しているうちに、未夏彦(みなつひこ)と出会った。

その結果分かったこと。

一、多くの(いつき)が長い眠りについているが、何柱かは目覚めている。

一、天津聳地嶺の頂上付近には光放果産比売(みつはなちはかうみひめ)が座し、七日に一度、光果(ひかりはか)を落とす。

一、光果とは、雲を抜けたところで光を集めた玉である。

  途中で見た光は、光果から放たれたものだったらしい。

  落ちて来る途中、くるくる回りながら、辺りに光をまき散らす。

  光が尽きると黒い玉が残る。(現物を入手済み)


未夏彦に出会ったのは、嶺の南方だった為、北東に進んだところ維矢好比売(いやよひめ)に会った。

距離は維矢好比売から中間の山(根漕山(ねこぎやま)というらしい)が近い。

凭浜高司尊からの依頼を伝えたところ、協力を頼まれた。

徒歩で根漕山を登り、中腹に居た樹と頂上の樹に目覚めてもらった。


ざっくりいうと、そんな感じだ。

凭浜地区からの道程と、天津聳地嶺の南方面と東方面の略図も付いている。

その他に細かい状況も書いてあるが、その辺は流し読みだ。

気になるのは光果。

真っ黒い玉は、意外に小さい。ピンポン球より心持ち大きいかどうか。

桃太郎から手渡された玉をよく見ると、一部に浅い穴が空いている。

袋の中に入ったいくつかの玉は、全てが同じようだ。


「へこみがあるね。これは何だろ」

不思議に思ったみみ子がつぶやけば、桃太郎がうれしそうに説明した。

「私も、はじめは何だろうと思いました。維矢好比売に聞きました。

光果の(へた)が付いていた(あと)じゃないかというので、蔕を探してみました」

「へた?」

「果物や野菜が枝や茎に付くところですよ。柿とか苺とか茄子とかトマトとかの。あれです。

光果の周りを探してみつけました。いっぱいありました。

いっぱいあるのですが、不思議なことに、ぴたりと合うのは一つだけなのです。

おそらく、枝に生った時に一緒に出来たものしか合わないのでしょう。

合う(へた)を見つけるのは、なかなか大変でしたが面白くなって、つい探してしまいました」


指差す方を見ると、窓際の日が当たる場所に並べられた二つの玉があった。

そこにあるのは、どれも蔕と組み合わされて収まっている。

「実験中です。いっぱい転がっているので、何かに使えないかと思いまして」

「いっぱいあるの?」

「ほぼ八百年分以上になるらしいです。無駄にするのはもったいないです」

「使えたら面白いね。うん、面白い。

役目を終えたものを再利用するのって、私好きだわ。

古くなったタオルを雑巾にするとか、服にあいた穴をアップリケで塞ぐとか」

「私も嫌いじゃないです。アップリケはしませんが。

雲の上で存分に光を浴びていた光果です。

山を転がり落ちながら光っていたということですから、光を浴びたらまた光るかもしれない。

結果が出たら、それも報告します」


「うふふ、楽しみ」

みみ子は窓辺に近づき、何気なく光果の一つを手に取った。

確かに蔕のようなものがくっついている。

考え無しにつまんで外した。考え無しだった。

世界が白くなった。


「うわおー」叫んだ。

「うわあああー」という声は桃太郎だ。

開け放したドアの向こう、となりの部屋から「どぴゃーっ」と叫んだのは、猿だ。

まぶしい。激しくまぶしい。みみ子は何も出来ずにうろたえた。

そっと薄目を開けて、様子を見ようとしたが、世界は露出オーバーの写真のように白い。

どうにかしないとまずいのは分かるが、どうしたら良いのかが分からない。

あたふたしているとチャイムが鳴り、激しくドアを叩く音が聞こえた。

「空原さん。蔕をはめてみてください」

桃太郎に言われ、手探りで蔕を押しつけるも、なかなか上手くはまらない。

やっとのこと、パチリ、かすかな感触とともに、光が収まった。


光果を桃太郎に渡し、やかましい玄関に急いだ。

居たのは、店子の怪奇現象研究家だった。

「大家さん、出た! 怪奇現象じゃ。

先ほど、この家を中心に辺り一帯が怪しい光に包まれた。

この我が輩が調査に乗り出そう。任せなさい」

「せっかくですが、間に合ってます。

お騒がせして済みません。さようなら」

面倒なので、さっさと追い返そうとした。

「待てーっ! 待ちなさい。怪奇現象は放っておいてはまずいことになる。

原因を調査して鎮めねば。さらに大変なことが起こるかもしれんのだぞ」


みみ子は息を整え、落ち着いて答えた。

「大丈夫です。原因は分かっています。

あれは、怪奇現象ではなく、物理現象です。光学系?

どうぞご心配なく」

「本当に物理現象なのか。確かなんじゃな」

「はい、光エネルギーの研究をしている人が居まして、実験中なのです。

それが漏れたようですね。あははは」

「言っては何だが、こんなボロ家で?」

「はい。ボロな家でも中身は錦。最先端です。たぶん」


「うむむむ。しかし、あれは、なまなかの光ではなかった。

真っ昼間というのに、ボロ家を中心に、この辺り一帯が明るくなった。

尋常ではない。明らかに不審だ」

帰ろうとしない怪奇現象研究家を押し退けて、みみ子は玄関から身を乗り出し、周囲を見回した。

研究家を玄関の中に引き入れ、思わせぶりに人差し指を口の前に立てる。

「先生、他言無用でお願いします。極秘の研究なのです。

上手くいけば、エネルギー革命が起きます。

先生ほどの方なら、ことの重大性がお分かりでしょう。

無知な野次馬どもに研究を邪魔されたくない。秘密の防衛にご協力ください。

気がつかれたのが、ハカセのような賢明な方で良かった」

そこで、みみ子は思い出した。

怪奇現象研究家の名前は、羽加瀬だった。呼び捨てだと思われませんように。


困った噂がこれ以上増えませんように。アパート経営に支障が出る。




樹さんたちの名前は覚えなくても大丈夫だと思います。

ややこしいですが、雰囲気作りと、頑張って考えたので書きました。


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