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20 爺さんたちの準備あれこれ

登場人物

    桃太郎  冒険者と名告った宿無し。みみ子の手下

    はぐれ雲のグレさん  桃太郎にくっついてきた気象マニアの宿無し

    猿  本名不明。パソコンオタクの爺さん

    山川 谷男  測量屋だった爺さん。はぐれ雲が連れてきた

    バイク屋  ちょい役

    空原 みみ子、谷戸 晴美、山田 マリ  雲消し三人衆(仮)

    凭浜門守命  異世界の門番 



異世界をうろつくはぐれ雲のグレさんを見かけた。

「くれぐれも迷子にならないようにね」と声をかければ、

「おうよ」機嫌良く返事が返った。

しかし、翌日から姿が見えない。

一時は、まさかと心配したが、門守に聞いたら、

「はぐれ雲殿なら、帰って行ったぞ」

地球上でぶらついているらしい。

もともと宿無しだ。みみ子は心配するのをやめた。


代わりに桃太郎に提案した。

急がないので、帰り道が分かるように道しるべを作りながら進んだらどうか。

その為の資金を渡した。

それからは、ホームセンターと異世界を行ったり来たりしている。


中型オフロードバイクが届いた。

うれしそうな桃太郎と自慢げなバイク屋が、あれこれと話をしているところに、タクシーが来た。

降りてきたのは、はぐれ雲だった。

「おーい桃さん、手伝ってくれや」

タクシーには、いくつもの荷物が満載されている。


「すごい荷物ですね。どうしたんですか」

目を丸くして問う桃太郎に、ホクホク顔ではぐれ雲は答えた。

「三連単を片っ端から制覇した。ありゃあ自慢にゃならねえがな。

おかげで測量機器を揃えられた。ほれ、運んでくれ」

バイク屋も手伝って、荷物は家の中に運び込まれた。


荷物と一緒に小さな爺さんが付いて来た。

荷物の蔭に隠れていたらしい。それくらい小さく、しわだらけで猿みたいだ。

「おい猿。これ頼まあ」はぐれ雲が、慣れた様子でこき使う。

猿と呼ばれた爺さんは、てきぱきと荷物の一部を梱包から解き、組み立てはじめた。

「しまった。机が要るな。ホームセンターで注文すれば良かった」

はぐれ雲が、自分の頭をぴしゃりと叩いて言う。

「通販」猿が言葉少なく答える。


床の上に置いたデスクトップパソコンを囲んで、三人が楽しそうにワイワイガヤガヤと盛り上がる。

「OSを入れるから、しばらく待って」

「これから? 何を入れるの」

「BTORONをバージョンアッップした」

「おお! すげえ」

「ビートロンて何よ」

「国産OS。自動車や家電の制御に使われてる奴のパソコン用。

アメリカから難癖付けられて、広まらなかった。

日本の宇宙探査機の制御は、TRONでしている」

猿は、コンピューターの事なら饒舌になるらしい。

「へえ〜そうなんだ、詳しいんだね」

「うん。マイコンとかパーコンとか言ってる頃からいじってるから」

パソコンという言い方が定着する前、パーソナルコンピューターは、そう呼ばれていた時代があった。

四人とも楽しそうである。男の子だ。


「これに異世界のデータを入れて資料にするんでしょう。

セキュリティはしっかりやって下さい。空原さんには、内緒だと言われています」

桃太郎が念を押す。

「ばっちり。だいたいネットをうろついてるウィルスのほとんどは、Windows狙い」

「電話回線を申し込まなくていいんですか」

「へへ、抜かりは無えよ。申し込んであるぜ」

はぐれ雲は、得意げに胸を張った。


「ねえ、異世界のデータって何?」

バイク屋の言葉に、桃太郎が絶叫した。

「あ〜〜! それ、聞かなかったことにしてください。お願いします」

深く頭を下げた桃太郎を見て、

「分かった。桃さんの頼みとあっちゃあ断れない。

あたしゃ何にも聞いてない」


それで良いのか。

様子を見ていたみみ子は、ちょっとあきれた。

こいつら、勝手に、何やってんだ。


『三連単』は競馬だろう。一着から三着までを着順通りに当てる馬券だ。

当てるだけでもたいしたものだ。当たれば配当が大きい。

それを『片っ端から制覇』となると、もはや人間業ではない。

ずんぐりむっくりの先読(さきよみ)に教えてもらったに違いない。

勝手に資金を作ってくれたなら、ありがたい。手間がかからないと思っておこう。


「こっちは測量機器ですか」

「良い三脚だろ」

「一から測量することになるのか」

「あっちには人工衛星もGPSも無いからなあ」

「大変そうですね。あっちって……聞こえない聞こえない」

「大変でも、地図は欲しい」

「……トータルステーション。高そうです」

「高かった」

「使い方は分かるんですか」

「もうじき来るだろ」

「誰が」

「詳しい奴。声をかけてある」

ワイワイガヤガヤはしばらくの間続いて、バイク屋は帰って行った。



     ◇     ◇     ◇



をち水に力が満ちる日になった。

みみ子は、2リットル入りのペットボトルを三本持って、泉に向かった。

リュックに二本、手にも一本ぶら下げたが、前回よりも行き帰りが楽だった。

白いカラスも懐いてきたように思う。


準備中の月見養生院のスタッフを含めて、仲間全員に配った。

養いの実も食べているせいか、顔色もつやつやして元気が良い。

古家でみんなと水を飲んでいるところへ、オンボロの小型トラックが来た。

降りてきたのは、大きな爺さんだった。

「おお山川君。遅かったな」喜んで迎えたのはグレさんだ。

「すまん。家を出るのに手間取った。初めまして、山川谷男です」

「必要なものは、こっちでそろえると言っただろうに。

何かあったか?」

「家族に色々言われて、ごまかすのが難しかった」

「あ〜。地図作りを頼まれたじゃ、通じなかったか」

「それがまずかった。

俺の知ってるやり方は時代遅れだ。

隠居ジジイが役に立つのかと言われたので、伊能忠敬だって隠居ジジイだったと言ってやった。

喧嘩になった」


現代では、パソコンをクリックすれば、世界中のほとんどの地図が出る。

年寄りの出番は無いと言われて、頭に血が上った。

「それじゃあ、面白くないだろうよ。クリック一つなんてよう。

面倒なことは面白いんだ。面白いことは、めんどくさいんだ」


桃太郎が深くうなずいた。

「確かに。飛行機でひとっ飛びは便利ですが、知らない場所をバイクで走るのは面白いです」

はぐれ雲が懐かしむように目を遠くにやった。

「衛星写真は便利だ。一目で分かる。

風力と風向を調べて、等圧線を書いて、気温と気圧を観測して、ってのは面倒だ。

だから面白かった」

「便利になるのは結果。作るのが楽しいのは、面倒だから」

猿も当然のように同意した。


はぐれ雲が

<面倒なことは面白い 面白いことはめんどくさい>

と大書して、壁に貼った。



     ◇     ◇     ◇


それから何日か、みみ子は鈴を鳴らし、

晴美が弓の弦を鳴らし、

マリが「とりゃっ」と叫ぶ日々が過ぎた。

そんなある日のこと、凭浜高司尊がさわさわと枝を揺らめかせた。


何事かとみみ子が聞きに行ってみると、凭浜高司尊は喜んでいた。

「桃太郎殿とはぐれ雲殿が、途中の山にある幾柱かを目覚めさせてくれたようだ。

ぴかりを授けてくれたのであろう。これで天津聳地嶺とつながれる。様子が分かる」



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