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僕は歳をとらず若返る君に恋をする。  作者: わたみ
──僕は未だに恋をしている──
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episode5. 神様の礼儀〜Greetings of God〜



【前書】


超新星が、突然現れた。 



天才にも種類がある。

努力の才能、世界観の才能、諦めない才能、実行する才能、分析の才能、運の才能。愛す才能、愛される才能、学習する才能、熱中する才能、思考する才能、信念の才能


他の人と比べて優劣のでるモノ、すなわち才能。

物事の上達には才能が大きく作用する。



しかし違う。

彼女、西園エリはそうじゃない。

一括りに才能がどうこうの話じゃなく、人外の括りに収集される分類が、西園エリという才能なのだ。


強いて彼女を分類するなら、それは「神様的な才能」だろう。




意味が分からないだろう。

文面を見るに、相当デタラメだというのは、辛うじて分かる程度だろう。


つまりそういうことだ。


僕自身、よくわからないのだ。



奨励会員、正式名称、新進棋士奨励会員の棋譜は、滅多に出回ることがない。西園エリはどんな将棋を指すのかは不明。

ましてはアマチュア時代の棋譜も残ってないとなると、全くもっての情報がゼロ。


「神様的な才能」の詳細は、多岐に枝分かれした信憑性のない噂が今も世間を巡っている。



そんな詳細不明で正体不明な生きる神様が、今……





  

「西園エリなの……」


僕はその言葉に、思考が停止する。

いや、元々寝起きで思考はままならない状態ではあった。

でもそうじゃない。


完全に思考が停止したのだ。


「は?」


と、一言、間抜け顔の冴えない男が間抜けな言葉を選ぶ。


ギロリと顔を横に向けると、そこには小刻みに揺れる肩からして焦って来たのだろうと推測されるだろう妹が呆然と立っている。

僕は瞬間気づいた。

これは冗談の類なんかじゃないと。


もう一度首を戻して、考える。


バサバサに乾いた髪を掻き、考えに考えを重ねた結果、紡いだ言葉。




「は?」




しん、と響く。


ベランダから覗いて見るに、確かに隣の家にトラックが来ていて、どこか忙しい空気が遠くながら伝わってくる。

誰かが住むのは間違いないようだ。


「茉白よ、本当に本当なのだな」

「間違いないね。私、視力は抜群の群抜きにいいんだぁ」


腰に手を当てて胸を張る。


抜群の群抜き……群を抜いていい、と言ったのか?

いや、そんなのどうでも良くて


「…………本当なんだな」 


「うん本当、なんか隣にトラックが止まってて、なにかなぁーっ、て思って見てたら偶然西園エリを見つけたから、猛ダッシュで戻ってきたんだよ」


「本当の本当は本当で本当の本当に本当が本当なんだな」

「だから、ほ ん と う!にぃの言葉を借りるようだけど、私は嘘はつかないよ!そう六法全書にも書いてあるって誓うよ!」



そうか……

僕の思考が、たった一言で完全にまとまった。




「やばいな」




そう、僕は呟いた。



完全に覚醒してしまった頭を絞る。

本心、まだぐっすり寝てしまいたい。だが、一度覚醒してしまうとまた寝るのは………まぁ僕なら余裕か。


だが、僕が取る手段は多くない。


「……さて、折角の大型休日。

 ぐっすり寝ていたかったが……まったく、しょうがない」

「どうしたの?」


刹那


僕はバッと、ベットを飛び降りる。

いや、飛び越えると言った方がいいだろうか。兎が天を掛けるかのごとく、勢い付いた跳躍。

扉をバンッと開け、あっという間に去っていく。


「ちょっと西園エリとやらに会ってくる!

 お前は、部活行く準備を早くしろよ!遅れたらまずいだろ」


階段を飛び降り、洗面所に向かう。

ドタバタと忙しない音が響いた。



テレビで話題の大物と出会えるんだ。しかも隣に引っ越してくる。

奇跡だと目を輝かせる。


さすが「神の子」だ。これは神の導きなのではないかと、信じてしまう。

神様は本当にいるんだ……


いや、となると訂正だ。

僕は奇跡と言ったが、そうじゃなく、運命と言った方がいいだろうか。


否、そんな事どうでもいい。




「にぃ」



そう、一瞬にして涼しくなった兄の部屋に一つ、ふっと、微笑んだ。




「あんな目、するんだ」





  【経過】







「はじめまして、隣に住んでる隠岐です」


猛スピードで着替えて髪を整え、家を飛び出し、隣の家に駆けつける。


西園エリは隣の家の前に居た。





ムッと振り向く彼女はテレビで見るより冴えていて、何より驚いたのは思ってた以上に低かった背丈だ。

でも確かに西園エリだ。

本物だ。


(意外と小さいんだなぁ、これなら背丈は茉白と変わらないんじゃないか?)


そう思うと、髪の長さ、癖毛、胸、……結構似ている気もしてきた。

いや、醸し出す雰囲気さえ除けば結構妹にそっくりだ。


「はじめまして、西園です。よろしくお願いします」


冷たい声。半分棒読みだった。

冷めた目線を向けると、ぷいと背を向けて、家に戻って行く。

そして振り向いて気付いた、寂しい背中。


人をわざと遠ざけているような、どこか壁を作っているような感じだ。

でも僕は諦めない。


「あのっ、西園三段ですよね。僕ファンで、いつも応援してるんですよ!」

「あ、そう。それはどうも」

「なんでこんなところに引っ越しなんて……」

「それ、あなたに関係ないでしょ」

「あとあとっ」

「うるさい、黙れ、付き(まと)うな」


沈黙


「あっ、あの……」

「まだ何………………」




刹那、彼女の時間がピタリと止まった。




西園エリは目を見開き、呟く。


「えっ…………」


首を捻って後ろを見る。




「うそ」


彼女はあからさまに動揺しているし、くらくらと千鳥足になりながら、うろたえた。


彼女の目の先に映ったモノは僕より後ろの、遠くを見ている。


「っ!?あの制服……」


そう西園エリがそう言った瞬間聞こえてくる、慣れた声。

僕は咄嗟に振り向く。



「あ、にぃ!部活行ってくるね!」



自転車を漕いでいる、僕の妹。


隠岐茉白


元気の余った様子で、その有り余る元気をぶつけるかの様にペダルを押し、立ち漕ぎを決めている。薄がかった茶色のボブが特徴の冴えた妹が去って行く。


「四ツ校の、制服……」



途端、涙を浮かばせ、唇を噛む。






「あーあ……ははっ…………くっ、もう最悪っ!!!」


頭を抱え、怒鳴り散らす。

これは怒鳴るというより、悲鳴混じりの咆哮と言った方が近いのかもしれない。

察してはいたが、彼女には()()()()あるのか。

いや、どちらにせよ、何か地雷を踏んだのは間違いない。


「え、あ、ごめ……」


ごめんなさい

と、言おうとするも、走って彼女の家に駆けていく。


気がついたらドアの取手を細い腕を力いっぱいで扉を握り、開く。







刹那

優しい声が聞こえる。

一声聞くだけで、この緊迫した空気に安らぎをもたらす、目の前の神様とはまた別のもう1人の神様。


「朝から大声なんて出して、何かあったのですか?お隣さん」


力いっぱい振り絞っていた手を止め、西園エリが時間が止まったかのように、ピタリと反射的に静止する。



僕は、声元を辿って視界を移動させる。

そこには、さらさら茶色の髪をなびかせた、見た目は16歳くらいの、綺麗、可憐、華麗が特徴の冴えた少女が手を組んで立っていた。


「はじめまして、おはようございます。今日はいい天気ですね」

「誰よ、アンタ」


ふふっ

と、()()()の余裕を装った笑みをうかべる。

しかし、声色だけでは分からないが、()()()とはどこか違う"作ってる"感の強い笑顔。

三年間過ごして、初めて感じる感じ。

間違いない


これは、憤怒だ。


「大河内凛と申します、隣に住んでいる、ただの居候です。

 以後………」


余裕の笑みから変わり、ニヤッと笑って



「お見知りおきを」



そう告げたのだった。






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