episode3. 友人の登場〜Appearance of friends〜
僕たちは電車を降りて、変わらない風景に僕は目をくれず、ただ淡々と目的地に、即ち学校に歩いて行く。
いや、別に風景が全然変わらないことがないことは無い。
あ、ここにあった店潰れてる
あ、こここんな店になるんだ
…………それで終わる。
刻一刻と変わる風景に興味を持てず、すぐに飽きる。
この退屈過ぎる朝の登校をなんとかしたい、だなんて思ってみるが、以下の理由で考えるだけ無駄なことだと結論付けた。
そんな僕は、いや、そんな僕に一つ、大きくため息をつく。
竜のごとく白く舞い上がる息に、何故か興奮を覚える。
「おう遼夜!……と茉白ちゃん!」
「あ、てっちゃん先輩!おはようございます!」
「君か、おはよう」
そこに居たのは、茶髪の舞い上がった髪の毛に、中学の時、バスケ部をやっていたからか、かなりの高身長が特徴的な、アイドルグループに居そうな顔で、どこからとなく積極性を感じさる、瀧谷哲久が足音たてて後ろから走ってくる。
因みに、このかなり冴えた顔で、ウチの学校の女子にはかなり人気がある。
「おはよう二人とも……つか、なぁーにしょげた顔してるんだよ遼夜クン!?」
ガハハハと、高笑いをしながら、上から、すごい勢いで肩を叩いてくる。因みにこれは、いつも人と会ったら、やたらこの肩を叩いている。瀧谷曰く、友情の証らしい。
だが、さっきも言ったが、彼は元々バスケ部。それもあって身長もそうだが握力もそれなりに高く、確か僕との身長差はプラスマイナス20ほどだった気がする。
貧弱な僕の体には、彼の友情は痛すぎるのだった。
「すみませんね、これがノーマルフェイスなんですよ」
「冴えん顔だな」
「冴えないですね」
茉白もそう付け足す。
どうやらここには味方がいないらしい。
そのまま3人で喋って歩いていると、あっという間に校門前まで来ていた。
これでちょっとは退屈な登校を楽しく過ごせたかも。
僕達の前に茉白が立つ。
「では私はここで……」
茉白は中等部、僕とは下駄箱も教室の校舎も違う。
うちの学校じゃ中等部の方が教室は遠い。
彼女は浅く一礼した後、とてとてとて……と短い髪を揺らして走って去って行くのを二人で見届ける。
そしてすぐに友達を見つけたのか、友達と喋って校舎に向かって行く。
「さ、僕も教室行くぞ」
僕はそう言い、僕は下駄箱に向かうために茉白に背を向ける。しかし、瀧谷はまっすぐ真面目な面持ちにどこか寂しくて、物惜しそうな目。それを茉白の背中に向けて、眺めたまま突っ立っていた。
風が吹く。
「お前の大切なもの……それを忘れないようにな」
ボソッと、僕に聞こえるか聞こえないか程度のボリュームで一言、瀧谷は残す。
「何か言った?」
思わず問いかける。
「……いや、なんもだよ。行くぞ!」
普段見せる顔とは違うモノを、見てしまった気がする。
普段おちゃらけたヤツだが、茉白を見ながら……ということは、まさか!
「ま、茉白はやらんぞ!」
「はぁぁ?お前、何言ってんだ?」
【経過】
僕と瀧谷哲久は、「アイツはやめた方がいい」だとか「お前ならもっといい相手がいる」だとか、全くと言っていいほど噛み合ってない話をしながら二人一緒に階段を上って行き、3階で出たら僕は右へ、哲久は左へ進んだ。
そして僕は"2ー7"と、前扉の近くに小さな標識が立っている部屋に入った。
中はポツポツと埋まっている状態で、友達と群がっている人も居れば、一人寝ている人もいれば、勉強を一人進める人も居る。
さて、僕はどうしようか。
そんなことを考えている時だった。
「遼夜くん」
後ろから肩をツンツンとされて振り向いた先には、纏う雰囲気は大人っぽく、淡い水色のロングエアーでおっとりとした目が特徴の女の子がそこに居た。
「昨日の……」
「あぁ、プリント」
昨日この子に出す予定だったプリントを家に忘れてしまってたことを思い出す。
すぐにカバンを漁る。
「ちょっと待ってて……あっ、あった。はい。これでいいんだよね」
「はい、これです。確かに受け取りました」
満面の笑みだった。
彼女は学級委員である、天音栞奈だ。
僕達、理系クラスで数少ない女子生徒の一人で、とても人当たりの良くて、それでもって模試で一位を出したとか、頭脳も明晰。そして「四ツ校の頭」などと呼ばれるほど数々の伝説を残したことで有名な人物である。
僕とは手に届かない人だ。
「今回は許しますけど、次忘れてきたら……駄目ですよ」
にこっ
と、眩しい笑顔。
「い、以後、気をつけます」
この人を前にすると、同学年なのについ、敬語になってしまうのは何故だろう……
【経過】
それから4時間後くらい経っただろうか。
僕は補修を終え、イチ早く部活に来た。
つもりだった。
しかし、来てみたら部室真ん中につまんなさそうに、肘をついて窓越しに映る空を眺めるクルクルパーマ茶髪男がポツンと一人居た。
「何で君は補修休んどいて部活来てるんだよ」
僕達は今日、授業を受けにきたわけではない。補修を受けにきたのだ。
何故なら、ただ今冬休み中だからだ。
しかし、冬休み中でも学校に行かなければならない。
一応、進学校という一面があるこの学校は長期休暇の1、2週間は補修を受けさせるのが慣しだ。
我々生徒の気持ちを代弁しよう。
"冬休みとは一体何なのか"
しかも、大雪が降り積もっただとかというのもあり、補修が延期になったりして、本当はもう終えている時期なのに、こうして補修を受けているのだ。
「今日で補修終わりなんやろ?」
「まぁ、そう……って君一度も来たことないよね!?どの口が言うんだ!?」
「ええやろ?正直あんなん受ける意味なんて、ないない」
こうして会話している、釣り目とパーマと関西弁という、かなり特徴的なこの男は、柏木拓人。
この能天気な男の発言に、僕はため息をついた。
そして、さらに別の、聞き慣れた低い声。
「まぁ、そんなカリカリしないで、補修が終わったことを今は喜ぶべきじゃないかね」
後ろから一人、肩を叩かれる。
しかし、覚えのあるこの感触……
「君か、瀧谷……」
また厄介なのが一人加わった。
僕は下がった黒縁メガネを指2本で正す。
「まぁ、確かに。そんじゃあ準備だけするぞ」
そう、僕が言い出すと、この教室は部室へと姿を変えた。
それから5分も経たないうちに、人が入って来るようになり、10分もすれば、ざわついていた。
所々交わるパチパチと音が鳴る部室。
普段は物理室として使われる教室も放課後になると、異様な雰囲気漂う姿を変える。
そしてその異様な雰囲気の中に、その根源とも言える対局者が二人が居た。
「んだっ、負けだ負けかぁ〜っ、くぅ〜」
「ありがとうございました」
「いやここ、2五飛車で切ったのが悪ぅこったんか?」
そして、二人を包む異様な雰囲気が一瞬にして晴れる。
そう、物理室は放課後になると将棋部室に姿を変えるのだ。
「いや、パーマの……えっと1四香のとこ、3三銀で詰んでたぜ」
パーマとは柏木のこと。瀧谷が勝手にそう呼んで、この部活内ではそれで通ってる。
後輩も、パーマ先輩で通ってる。
「えっ、まっ………あっ、ほんまや」
瀧谷哲久、柏木拓人、隠岐遼夜。
この部活で、「四ツ高将棋部三羽ガラス」と呼ばれている。
瀧谷は柏木に強い。
柏木は隠岐に強い。
隠岐は滝谷に強い。
この関係性が成り立っているのだ。
そして、三人は互いを高めあって、僕が入ってきた時は最弱層Fリーグだったのが、だったの二年間で、団体戦降級、停滞することなく、気がつけば強豪校の一角になっていた。
つまりこの三人で、四ツ校最大の全盛期を作っていたのだ。
柏木がひょろりひょろりと僕に近づき、うなだれながらもたれかかる。
「メガネくん、助けてくれぇ、アイツをボコしてくれへん〜」
「また瀧谷に10本デスマッチ負けたの?」
「またとは何だ、またとはぁ!?最低でもこれまでこいつには20回は勝ってるで」
「えー?100回はこれ受けてる気がするけどなー、パーマくん?」
「うぐぅっ、む、むきぃぃぃ!!!メガネくん、やってくれ!!!」
俺は後輩に将棋を教えていたのに、それを中断して、ずるずると引きずられる。
しかし、これもいつもの事、同じパターン。
後輩達もこの展開には慣れていて、僕に「ありがとうございました」と添えられ、後輩達各自で将棋を進める。
そして僕は無理矢理に、瀧谷の前の椅子に座らされる。
「はぁ………じゃぁ」
僕は目の色を変えて、駒に触れる。
「やりますか」
盤を見ると三人とも目を変える。
その目はまるでもう獲物を狩る猛獣そのものだった。
「「お願いします」」




