episodeN. 少女の記憶〜Girl's memory〜 I
私は、西園エリ。
年齢、16歳。
誕生日、7月19日。
血液型、B型。
身長、152.6センチ。
体重、秘密。
視力、双方2.0。
IQ指数、推定110〜125
利き手、右利き。
在学校名、なし。
趣味、なし。
特技、将棋。
好きな映画、なし。
好きなゲーム、なし。
好きな食べ物、なし。
尊敬する人、父。
座右の銘、勝たなきゃ、強くなれない。
家族構成─────空欄。
父母共に死亡。
【間隔】
私の母は、私を産んですぐに死んだ。
もともと体が強くなくて、私を産んで体力が尽きたらしい。
だから私は母と話したことも、会ったこともない。
なんならどんな名前で、どんな人だったのかさえも知らない。
私にとって家族が居たとするなら、ただ一人だけ。パパ……じゃない、父だ。
父は将棋のプロ棋士だった。
名前は、西園博。
プロ棋士になれるのは、ほんのひと握りしか潜れない狭き門をくぐり抜けた天才にしかなれないとされる職業だ。
でも父は、その例外だった。
父は、天才ではなかった。
父は23歳という、退会ギリギリでのプロ入りというかなりの遅咲きだった。
途中何度も何度も、昇段まであと少しというここぞという大事な勝負に、何故かポロッと負けて、そしてそれの繰り返し。
そんな不遇というのか、不運というのか、不幸というのか。もっとも、天才とは言い難い経歴だった。
父は将棋の天才では無かったものの、父を知る者は皆言う。
才能はあった、と。
そんなことがあってもめげず、繰り返し挑戦し、決して折れる事のない心が、諦めない心が、父を実らせた。
そんな、決して憧れることはないが、カッコいいと思える才能の持ち主だった。
やっとの思いでプロ入りしたその日に、母と父は結婚した。
実は父と母は幼馴染で、小中高二人はずっと一緒で、気がつけば二人は両思いになってる関係だった。
でも、二人が付き合う事はなかった。父がプロ入りするまでは絶対に告白も結婚もしないと、キッパリ断ったらしい。
そう誓ったから父は諦めなかったのだろう。天才では無い父が、プロになれた一番の原因なのだったと思う。
なんとも漫画や小説やフィクションを思わせるほど、熱く燃えそうな、いい話だと思う。
プロ入り後の父の勝率は、まあまあな高勝率を叩き出していた。
注目される程ではないものの、でも出だしこそ好調。
幸先の良い出だしだった。
…………だった。
……でも、徐々に黒星が増えた。
何故そうなったか、その理由は明白。
私だ。
母が私を生んで、母が死んだからに違いない。
それから父は私の面倒を、一人でするようになった。
そのせいで父は将棋の勉強する時間なんて、ほとんどなかった。
父は努力だけが取り柄だったのに
……その父の努力を、私が奪ったんだ……。
【間隔】
私が将棋に出会ったのは6歳の頃だった。
きっかけは、まあ、言うまで無いだろう。
きっかけは父だ。
しかし、更にもっと詳しく語ると、私は父とは違って天才だったからだ。
私は子供の時から天才だったのだ。
でも、私は一般的に言われる天才とは少し違う。
何故、私が天才だなんて言われているのか。
本当の理由は私と父くらいしか知らない。
これは多分、君達以外に話すことは、まずないだろう。
私の目は生まれつき、見たものを全て記憶できるのだ。
でも、完全記憶能力や超記憶症候群とかと呼ばれてるモノとは少し違う。
私には忘れたくても忘れられないというあるハズの欠点がない。
忘れたい事をスッパリ忘れて、覚えたい事は写真のように覚えているのだ。
それにイチ早く気がついた父は、その私の才能に目をつけ、私に将棋を教えたのだ。
私はのめり込んだ。
暇さえ有れば父と将棋を指していたし、父が対局日なら将棋道場で指していた。
そしてこの能力を駆使してみるみる上達していく。
そして10歳という若さながら、私は奨励会員になったのだ。
私は天才だ。
でも、奨励会も天才揃いだ。
彼らは皆強い。簡単には勝てない相手だ。
ここから鰻登りで異例のスピードで勝ち抜ける、と言うことはなかった。
私の初めての挫折はここだったかもしれない。
でも、私は決して諦めなかったし、挫けなかった。
父がそうして来たように、諦めない、挫けない、私も頑張ると、強い気持ちがあったから。
私は徐々に昇段していった。
【間隔】
西園エリ、奨励会初段、14歳。
その時、父は死んだ。
事故死。
飛行機墜落に巻き込まれた。
当時の記憶はあまりない。
父の死を聞いて、何を思っていたのか、どんな状態だったのか、何をしていたのか、どこにいたのか。丸々記憶がない。
多分、たくさん泣いたんだろう。たくさん怒ったのだろう。たくさん叫んだんだろう。たくさん……たくさんのことを、ぐちゃぐちゃに混ぜたのだろう。
どちらにしろ、私に記憶がないということは、忘れたということは、忘れたいと思ったということであって……まぁ、そうだな。相当辛い出来事だったのは間違いない。
……ははっ。
どうやら私は今では神の子なんて呼ばれたりしてるらしいけど……嗤っちゃうよ。
私の大切なモノを奪った「神」の子供だなんて…………。
─────私は嫌だ。




