episode1. 恋の始まり〜Beginning of love 〜
銀色に光る景色を見ながら、僕は足を進める。
そして右隣には、見た目16歳くらいの見た目の少女が一人、一緒に歩く。
珍しく大雪が降り、観測史上最大の雪が降り積もっただとか。
そしてそれが降り止んで、葉っぱの上に積もった雪が徐々に溶け出し、その水が太陽の光を反射する。
僕はその神秘さを率直に、素直に綺麗だと思う。
図書館の自動ドアを、黒いリュックに黒いコートのポケットに手を突っ込んだ赤色のマフラーを巻いている、黒い眼鏡が特徴の眠そうな冴えない顔の男が一人。
そして白いコートに白いベレー帽を付けた、隣を歩く冴えない男とお揃いの赤いマフラーをつけた、透き通った瞳にさらさらの長い茶髪が特徴の綺麗な女が一人。
合わせて二人が足を踏み入れた。
この図書館は1895年開館の歴史ある図書館らしいが、内装はそんな前に作られたとはとても考えられないくらい立派でピカピカとしていて綺麗。
それでいて丁度いい暖かさが肌を覆い、この広い空間全てにおいて効いて、気持ちがいい。
凍りついていた手足が徐々に溶け出す。
僕はコートとマフラーを脱ぎ、手に掛けて歩き出した。
「ねぇ、わざわざ外出て、何を読みにきたの?」
優しい声が隣から空気を振動させる。
彼女の言う「わざわざ」と聞くと、家から遠い所まで遥々来たのか、と思うかもしれないが、家から図書館までは歩いても10分もかからない。
つまり"雪が積もっていて足場が不安定の中、何をしてきたの?"と言うのが彼女の言いたい言葉だろう。
「課題終わらせに来たんですよ」
彼女はつまらなさそうに「ふーん」と答える。
「……ま、そんなコトだと思った。じゃあ適当に、私は本を読むやら、このリョー君のスマホでゲームでもしてるわね」
僕は彼女の手にあるモノを見て、思考が停止する。
「え、え!?なんで僕のスマホ持ってる!?……ていうか、なな、なんで暗証番号知ってるのっ!?」
この小悪魔こと、大河内凛が、ふふふっと笑って踊りながら、かけてて行った。
もう、"図書館では走っちゃいけないぞ"なんて声をかけても、僕の声は届かないだろう。
「はぁ……まぁいっか」
と、頭を掻きながら一つ漏らし、迷いのない足を階段へと進める。
いつもならこの時間帯は二階の勉強室は満員なのだが、今日は雪が降った後というのもあり、ガラガラだ。
僕は辺りを見渡しても凛がいないのを確認して、適当に座る。
そこで取り組んだのは現代文だ。
問題冊子を広げ、文章を読み進める。
そこに書かれたのは怪奇的で面白い小説文だった。
小説とは物語であり、物語である以上なんと非現実的だと嗤うだろうか。
確かに、彼女に出会わなければ、嗤ってたかもしれない。だが、今の僕はそれを嗤うことはできない。
何故なら……─────
「えいえいっ」
「たっ、ぃたっ……」
シャー芯で手をツンツンされた。
「リョー君手が止まってるよ?」
隣に白いベレー帽をかぶった透き通った目の女が座っていた。
「ははーん、私が隣に座っていても気付かないとは、すごい集中力だね、ふぁいとっ!」
「君ねぇ……」
【間隔】
「宿題進んだ?」
この図書館は閉館は18時まで、僕は時間いっぱいまで取り組んだ。
あとは、僕と凛は帰るのみ。
暗い道を、僕たちは歩いていた。
「うん、現文と古典、あと物理は半分終わらせた」
「へぇ、やるじゃん」
白いベレー帽の女は、僕の顔を覗き見て、ニコッと笑う。
僕は突然の凛の行動に、咄嗟に後ろを向く。多分今の僕の顔は真っ赤に燃えているだろうから……
そして訪れる沈黙。
銀模様を見て、ただひたすらに、ぼーっとしたまま歩いて一言も発さないまま、ふと我に返ると、その目の前にあるのは僕の住んでいる家だった。
「ねぇ…………あの、さ」
今度は、僕が話を提示する。
「あの話、本当なの?」
「あの話って?」
「あ、その……」
僕は歯切れが悪くなり、俯く。
「君が……あと十五、六年後に、君は、死んじゃう……てやつ」
「……」
まるで嘘のような、ホントの事実。
ホントだったら、嗤ってしまうような真実。
そして、ずしん、と鳴る重い沈黙。
「……ねぇ、リョー君と出会った日の事、覚えてる?」
凛はそう切り返す。
出会った日のこと?
もちろん覚えている。
忘れるワケない。
確か3年前、僕が14歳の時。この図書館に通い詰めていたあの頃だ。とある茶色いサラサラなロングヘアーの大人色が板についた、どこか余裕のあるお姉さんと出会う。
このお姉さんは、僕が図書館に行くと、必ず本を読んでいて、毎回毎回会うモンだからお互い顔を知るようになった。
そして最初は、些細な交わしだった気がする。そこからどうやって関係を深くしたのかの記憶がないものの、気づいたら気兼ねなく話をするようになっていて─────
恋に落ちていた。
当時は分からなかったものの、段々と確信へと変わる。そして言ってしまったのだ。
告白を……
ではなく
彼女の秘密を突き止めてしまったのだ。
「あのね、私本当にびっくりしたんだ」
彼女が足を止めて、僕に背を向けて、月を手で隠しなかがら語る。
その背中は当時より小さくなっていて且つ、とても綺麗な背中だった。
「まさか、私が毎日若返ってることを突き止めてしまうなんて思ってなかった」
まだ彼女は続ける。
「実はリョー君と会って三ヶ月くらい経ったら、ここじゃないどこか行こうと思ってたんだ。
私のソレ、バレちゃまずいし」
ちなみにリョー君という名前は、僕の名前「隠岐遼夜」の名前、遼夜から来ている。
「でもね、まさかそれを一ヶ月経たないうちに見破っちゃうんだから、すごいびっくりしちゃったよ」
「……す、すみません」
「いーの、こうやって住む場所を分け与えてくれてる訳だし、正直リョー君には頭が上がらないよ」
「僕が妹との二人暮らしで良かったですね」
「ホントだよ」
と、二人でケラケラ笑う。
彼女は次の誕生日を迎えたら、僕達のように歳を取るのではない。
一歳分若返えるのだ。
それを女性だったら嬉しいと感じるのだろうか。
でも、彼女はそんな風には思ってないだろう。
そしてその若返りはいつまで続くのだろうか。そんなの簡単だ、歳が尽きるまでだろう。
よって彼女の寿命が容姿から判断するに十六歳ほど。よって彼女の寿命が十六に繋がるワケで、僕の質問の意味にも繋がるのだ。
「さぁ、帰ろうか」
彼女は歩いた。
僕もつられて歩く。
だが、僕は凛さんが好きだというのは変わらない。それはこの先ずっとそうだと保証できる。
「ただいま!!」
「ただいま、ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」
いつまでも、永遠には続かない。
刻一刻と僕達の関係は終わりを告げている。
僕と彼女の儚くとも優しい物語はここから始まる。
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そうしたら作者が嬉しくて涙します(笑)