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僕は歳をとらず若返る君に恋をする。  作者: わたみ
√N 「勝たなきゃ、強くならない」
19/22

episode18. 少女の決意〜 Girl's determination〜



家に帰ると、彼女はいた。


つまらなさそうを映す朧げな瞳で、肘をつきながら真っ暗な部屋に、ぽつんと一人で携帯を覗いていた。


「おう、やっと帰ったか。おかえり」


彼女は僕と凛の目の前にいる。

彼女は僕と凛の目の前で軽い声でそう響かせる。

彼女は日本中が注目する、まさに生きる伝説、希望の少女、神の子、その名も西園エリ。


「西園さん、電気付けないと目が悪くなるよ?」

「ふん、目も頭も悪くなっても私にはどうでもいいね。それにお前らが帰ってくるの遅いんだよ。電気つけるのめんどくせぇから、ずっとここに居たらいつの間にか辺りが暗くなってたんだ」


と、彼女らしい暴論を唱えるのを片耳に、凛はピッ、とボタン押すと部屋は一段と明るくなった。

僕はハッキリ見えた彼女の姿を見て、凛が茉白と西園エリの晩ご飯を作りに行ったのも見て、言う。


「……ということは、西園さんが帰った時はこの部屋は明るかったってことですよね」


……。

エリはフッと笑った。


「ふはっ、いいね。お前冴えない顔してるのに、こういう冴えてほしくないところだけ冴えてるの、正直ウゼェ」


余裕ある顔で、余裕あることを言い始めた。

今その瞬間初めて、西園エリと目と目を合わせたかもしれない。

でも、その目は……僕の知ってるのと違う。そう感じた。


「しっかし私って有名人だったんだな。ちょっと暇だからスマホいじってたら私のニュースがこんなにも出てくるんだ」

「自覚なかったんですか?」

「ん、ああ。私テレビ持ってないし。スマホも持ってるだけだし」

「なるほど」

「でもそれは努力の証拠ってヤツかも」


テレビも見ず、スマホすら触らずに、将棋にだけ熱中してたということだろうか。

それは、現代人としては想像もできない世界だ。


……さて、そろそろ切り出し時だろうか。

なぜ、不戦敗をして帰ってきたのか。という問い詰めを。

しかし、僕も彼女には彼女の事情があるのは知ってる。少し触れづらい内容なのも知ってる。

でも……。



「今日、ちょっと上の奴と揉めたんだ」



何も言わずとも、西園エリはそう言った。


「……なんでです?」

「私にも色々あるんだよ」

「色々、ですか」

「あぁ、色々」


色々、という言葉の大体の検討はついてる。


「一つ、質問してもいいですか?」

「え?そう言われると嫌だなぁ。でもまぁ、答えられる範囲でな」


「なら答えなくてもいいです。質問だけします。

 西園博、という名前を知ってますか?」



西園エリの表情は複雑に崩れた。

西園博、その言葉を使った途端に。

よく分からない、色々組み合わさった表情をした。



「そ、そうか」


そして、彼女は浸るように「そうか」や「そうだったのか」と繰り返し呟き、最後に短く一言だけ。



「よかった」



彼女は目を瞑った。優しい顔で、広く澄んだ空気のような表情で、笑った。

燃えていた炎は、今では弱々しく、ただの弱い女の子になっていた。

でも、そんな柔らかい感情とは裏腹に、絶対に彼女は泣かなかった。




【経過】



少しだけ空間を開けたあと、彼女は口を開く。



「ねぇ。……その名前はどこで知ったの?」


「僕ではない。茉白が調べたら出てきたらしい」

「有能な妹ね」

「自慢の妹だよ」

「無能な兄ね」

「心底そう思うよ」

「ははっ、かっこわる」

「それが俺らしさなんです」


「……そういえば、前から気になってたけど、アンタらの関係って普通じゃないよ」

「と、言うと?」

「仲が良すぎる」


僕は意識だけ反応した。


「…………そうだね。そうだと思う」

「あんなベタベタな兄妹(けいまい)、絶滅危惧種よ?」

「絶滅危惧種って」

「いや。絶滅も何も昔でさえないか」

「じゃあそういうデータがあるんすか」

「ないけど」

「なら問題ない」

「それでいいの?」


「……まぁ、色々あるんです。多分いつか話しますよ」


「……ふーん、なるほど。アンタらも色々あるんだ」

「まあね」


途端、突然、話が途切れた。

これは雑談であって、いつもと変わらない交わしだったが、いつもと違う空気であった。



「で、あの話って広まってるの?」


あの話、すなわち西園博の話だ。



「まだそこまでだと思いますよ。一部の人には広まってるけど」

「なら広まるのも時間の問題ね」

「じ、じゃあ、本当に西園博って君の……」

「間違いないわ。私の()()

「……」

「私が14歳の時に死んじゃったけどね」

「……」


なんとも軽く、躊躇いさえも無く、スッと言った。


「で、なんだっけ。私とアイツらとで揉めてる理由だっけ」

「そうです。なんでです?」


「……ねぇ、私って可愛いと思う?」


「あれ、聞いてた?僕の言うこと」

「どう、かわいい?」

「……凛さん茉白と来て、その下くらい?」


睨みつけられた。

だが怖くはなかった。

いや、怖かった。

でも、いつもより怖くはなかった。


「あっそ」

「あ、でも"パパ"って言うのは可愛いかった」

「死ね」




あっ、やべ。

いつもの西園エリだ。これは本当に怖い。



「私は可愛いのよ。アンタの周りが異常なの。普段街中を歩いていても私より可愛い女なんてそう居ないし。でもなーんでか分からないけど、私とちょっと挨拶したら寄り付かなくなるけど」


いろいろツッコミたいが、一旦置いておこう。

それより……。



「その話、関係あります?」


「この容姿と私の実力から私は将棋連盟から目をつけられてね……」


「いや、僕の問いに答えて欲し───」





()()()()()()()()()()()()八百長(やおちょう)()()()()()




えっ。

あ……そういうことか。


八百長、相手に負けさせるように仕組ませた。


なるほど。

理解した。


西園エリは勝っていたのではなく、勝たされていた。

ただ強くて勝ちまくってても、顔がイマイチでは花がない。

でも、彼女には花がある。

西園エリにはメディアが付き、段々と世間が注目し、今では日本中が注目の的に。

それは将棋連盟には得でしかない。

将棋が栄えれば将棋連盟に利益が出るのは当たり前の仕組みだ。


しかし、それが当の本人に、西園エリにバレてしまったのだろう。



「だからね、今日────」






彼女の言うこと、それは冗談なんかじゃない。

そう、本気だ。




「奨励会を辞退する」







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