episode15. 価値の聴取〜Listening to value〜【前編】
あれから経ち、辺りが薄暗くなってきた頃だった。
あの後は色々行き回った。
服屋に行って買って、昼ごはんを買って食べて、4人(僕、凛、茉、エリ)のコップとか食器とかの小さい家具を買って、お土産を買って……と、やりたいことをやった。
お金はたんまり持ってきたたもりだったが、今日は予想を上回るほど使ってしまった。
でも不満とか不安とか、そういうのは一切ない。
それは僕の頭の中はピンク色に染まったから麻痺してしまったのだろうか。
僕の考えが浅くて、浅ましいからか。
でも。
それでも。
そうだとしても、僕は今に満足をしている。
「結構遊んじゃったねー」
「そうですね。でも楽しかったですよ」
「そうね。じゃあそろそろ日が暮れそうだし。行こうか」
「……そうですね」
もちろん、忘れてはいない。
僕がここに遊びにきたのは、勿論凛さんとデートするためだ。
でも、デートをするためだけではない。
僕にはもう一つ理由がある。
今さっきまでは、「やりたいこと」をやってきたが、むしろこっちは「やらなければならないこと」くらいに思ってる。
アキさん。
その名前の人物に会うために。
そもそもを思えば、凛さんはアキさんと僕を会わせる為に場所をここにした、ということは強く考えられる。
これは推測だし、確証がある訳ではない。
しかしそれが正しいとなると、アキさんと僕を会わせるのには何か意味があるからだと思う。
現状まだ凛さんの内面は少しは分かっても、他の事は「全く」という強い否定型が使えるほど分からないことが多い。
その辺の話が聞けるかもしれない。
それは、チャンスだ。
「ここからちょっと見えるかな、あそこのマンションだよ」
「どこ?」
「あそこ」
「ん、あれですか?」
「そ」
「へぇ、思ったより近いですね」
凛は指で差した。
ここからでも少しだが、見える程度の高いマンション。
徒歩10分強、くらいかな?
普段通りの僕なら絶妙に行くのが面倒くさくなるような距離だが、今は違う。
隣に凛さんがいる。
普段なら前で僕を先導していた彼女は、今では二人並んで手を繋いでいる。
10分なんて、もっと長くていいのに。
【経過】
凛と話していると時間はあっという間に過ぎる。
あの時、指を差していたハズのやや濃い茶色の外見で、近くで見ると結構ガッチリとしていて綺麗な高いマンションがもう目の前にある。
そして凛はスタスタと歩き中に入る。
真っ直ぐを向き、いつもの強い芯を表情に憑かせて、平然に進み、僕に背中を見せる。
僕はそれに釣られて進む。
「何階です?」
「ご」
と、一発即答。
僕は「5」のボタンを光らせる。
そうしたら部屋自体が動き出し、すぐに5階に着いた。
これが文明の利器、エレベーター。
さらにスタスタと歩く。
それは奥の方へ。
「ここよ」
と、立ち止まり、凛はすぐにインターフォンを鳴らした。
ピンポーンと、これを3回。
3回連続で鳴らした。
「え、そんなに押すと迷惑じゃないですか?」
「ううん、こうしろって言われてるの。これは私が来たって合図。
近所さんとか何も伝えてない人が1回。アキの親御さんとか親戚さんが2回、私が3回って感じらしいよ」
僕はそれを聞いて、思った。
これは変な人だな、と。
そう思って考えて察した時、そーっと、家の内側から扉が開いた。
「……やあ、こんな時間に珍しいね、あと久しいね、凛。元気かい?」
そこにはクリーム色のボサボサ髪の、ジトっとした目と細身とは裏腹にダボっとした服が特徴の、20代中盤か終盤くらいの女性だった。
「あらら、隣のキミはなんだい?……あぁ、なんだ、見ない間にオトコでもできたんかい?」
「どうも、初めまして。隠岐遼夜と申します」
「りょーや、りょーや……。ああ、噂のリョー君かい。ギリギリ思い出せたよ。
んまぁ、そんなに畏まらなくてもいいよ。ボクは畏れるほど偉くないし、畏れるほど賢くもないからね」
と言いつつ、僕を眠そうな視線で舐め回していた。
それに僕は恐怖を覚えたが、後には引かない。
「まあまあ、中に入ってよ、君たちも寒いだろうし、ボクも寒い」
「それはどうも、さぁリョー君、入って入って」
「お、お邪魔しまーす……」
と、言うと扉の閉まってる高い音と、扉の閉まった重い音がした。
境界を超えるとそこには玄関があった。
しかし、そこは家主の見た目とは裏腹に、物こそは多かったけど、綺麗にしてあった。
その後リビングにも入ったが、言うことは同様だった。
「アキ。今日は仕事あるの?」
「溜まってるのはあるけど、今日はいつもの深夜頃の予定だから大丈夫」
「……そう。それはよかった。私は隣でゲームしてるから、リョー君をお願いね」
「え?凛さん。何を……」
アキは少考して。
特徴的であるジトっとした目を向けて。
「ふーん。なるほど、わかった」
と、つぶやく。
つぶやくと、アキは机にある二つある椅子の一つに座り、凛は慣れた手でガラガラっと隣の部屋に入った。
そして二人きりの謎空間ができあがった。
気まずい。
「さぁ、座ってよ。多分ボクに用があってボクの家まで来たんだろ」
「……失礼します」
そう言ってアキの対面の椅子に座った。
「だから畏まらなくてもいいのに」
「これは癖みたいなものです」
「凛にもその口調なのか」
「はい」
「へぇ、それは凄いねぇ……。凄いよ。
……あ、これは感心ってって意味もあるけど、どちらかと言うと関心って意味だから」
「はぁ……」
なんか独特な人だなぁ……。
「まあいいや。言い忘れてたけど、ボクの名前は城山茜だ」
「隠岐遼夜です」
「それはさっき聞いた」
「そうでした、すみません」
城山茜。
彼女がアキだと言う。
……あれ?
「……あの」
「ん?」
「なんで『アキ』なんです?」
「茜の『ア』と城山の『キ』だっけな」
あぁ、なるほど。
ん?
なるほどか?
頭文字を取るのでさえ珍しい付け方だと思うが、でも理解はできる。しかし名前から苗字を取るというのも珍しいと言うのか、変わってると言うのか。
とにかく色々と変わった愛称だ。
「それは凛さんが付けたのです?」
「そうだね。変わってるよね、凛って」
「そうですかね、変わってるのは認めますけど、僕は純粋な人だと思ってますよ」
と、ここまでスラスラと進んだが、これは小手調。
本番とは違う。
ここからだ。
ここから、本番に向かおう。
僕は思い切ってここで一口切り出した。
「あの、アキ……茜さん」
「アキでいいよ」
「じゃあアキさん」
「ん」
「凛さんの事を教えてください」
その僕の突然の言葉に、一見変な質問だが、アキは表情を変えなかった。まるでそう言われるのが分かってたようだったし、実際に分かってたような事を言う。
「おーけー、そう来ると思ってたよ」
「話が早くて助かります」
後編に続く……




