episode14. 自他の認知〜Acknowledgment of self and others〜
僕は思う。
彼女は凄くて、彼女が凄いと。
彼女は今、凄く目を輝かせて、凄く暖かくて、凄く清々しい顔で、凄く楽しそうで、凄く可愛くて、凄く美しくて…………。
凛は何をするにも完璧だ。
何をさせても完璧だ。
何を取っても完璧だ。
それは凄いことなのだ。
そう、凄く凄い。
……凄くて、凄い。
しかし今日、僕はその「凄い」を凄い実感することとなった。
いや、日々実感しているのだが、改めて実感する。
それが何か。なぜか。
それは僕の目の前の景色にあった。
それは……。
【間隔】
「んなぁぁぁぁぁぁーー!また負けた!」
「あら、また勝っちゃった」
目の前の景色、それはゲームセンターのレースゲームで対戦し終えた結果は、見事なまでの惨敗で、嘆き叫んでいる僕。その隣には、美しく可愛い16歳くらいの冴えた少女一人の姿があった。
「いやいや、凛さん。ちょっと強過ぎませんか?素人の動きじゃないですよ?」
「ふふっ、私うまいでしょ」
これで3連敗。
これで素人。
解せぬ。
「はぁ……。なんか才能の差を突きつけられたよ」
「でもリョー君も凄いよ」
「情けですか?」
「ううん、本心」
と凛は即答するも、それでも僕は半信半疑だった。
まあ、凛さんの優しさと受け取ろう。
「どうする?またやる?」
「いいえ、もう降参です」
僕は手を挙げて、席を離れた。
「ここはもっと男の子らしく勝つまでやるべきじゃないの?いいけど」
「僕がそんな男気溢れる男に見えますか?」
「じゃあリョー君はどんな男なの?」
「……勝算の低い勝負には乗らない男かな」
「……。それを私に言うかな」
「いいや、そういう男は賢い男だと思うべきだと思うね」
と、小さい会話を挟みながら凛も重く席を立った。
しかし、だ。
凛さんにカッコいいところを見せたい自分がいないわけではない。
むしろ見せたい。
もっと、カッコいい自分を見せたい。
めっちゃ見せたい!
本当にそう思ってる。
さてさてさて、このまま負けたままでは示しがつかないというものだ。凛さんに勝てるものはなんだろうか?
そう頭の思考をぐるぐるさせながら、歩いていた。
【間隔】
結果。
全敗……。
……。
…………。
どうしてだ……。
おかしい……。
なんでだ……。
そのあとも色々のゲームをやった。
やり尽くした、とまでは行かないが、とにかくやった。
でも、負けた。
沢山、負けた。
ぺたん、ぺたん。
床に両手がついた姿は正しく負け犬だった。
情けない……。
もう、僕にカッコいい姿を演じる心はどこにもなかった。
「リョー君、大丈夫?」
「だいじょばないです。心が痛いです……」
優しい音で話しかけてくれる。
僕の心もなんだか落ち着くものだが。
しかしこれはデートだ。
かっこいい姿を見せなくてどうする。
……でも、そんなことより、ただただ悔しい。
いいや、まだだ。
立ち上がろう。
再挑戦だ。
そして次だ!次こそ!
と、そんな事を思った。
突然。
その瞬間、その優しい音がリズムを刻んだ。
「ふふふっ」
その時気がついた。
それは笑い声だと。
「はははっ、ははははーっ、はは……。はあー」
「……?」
「いやー、リョー君って面白いね」
「僕を見下してるんですか!」
「いやいや、違うよ」
僕は凛の方を振り向いた。
ゲームセンター特有の薄暗い感じの部屋であったが、小粒の涙を添えた明るい表情に、その部屋一番の輝きを見せて、魅せられた。
「リョー君はやっぱりかっこいいよ!」
カッコ悪い姿を見せて、カッコ悪い姿をしている僕に、「かっこいい」と言われた。
確かに、そう言った。
あれ、本当にそう言ってた?
「え、なんて?」
「リョー君はかっこいいって話」
えっ?
瞬間、頭が真っ白になった。
瞬間、顔が真っ赤になった。
今、かっこいいと言ったのか。こんな冴えない僕を、かっこいいと言ったのか?
瞬間、白と赤が混じって、ピンク色になった。
「どこが、です?どこが、いいと?」
「私ね、自分で言うのもだけど、生まれつき頭の回転が早いんだ。だからこう言うゲームも慣れればすぐ分かっちゃうんだ」
初耳だった。
……しかしなるほど、そうだったのか。辻褄は合う。
僕がずっと思ってた凛さんの天才的な才能とはこういうことだったのかもしれない。
「だからこういうゲームは得意だったんだけどね……」
彼女は話を続ける。
「途中ぱっと、リョー君の顔を見たら真剣な顔が見えちゃってね」
続ける。
「かっこいいところ見せようと頑張ってる姿を見てね、真剣な表情を見てね」
「かっこいい。って思ったんだ」
ふふふっ、といつもと同じ笑い声をした。
少し、照れているのだろうか。笑いながらにして、笑うことで何かを誤魔化している表情。
何しろ見たことのない表情だった。
「リョー君」
「はい」
「これはリョー君が私の事を知るためにここに来て遊んでるんだよね」
「ええ、まぁ」
「私も、私について分かったことがあるわ」
「……」
「私ってチョロいのね」
…………ふっ。
「は、はははっ」
「なによ……リョー君」
「はははははっ、は、はははは、はっ、ははっ」
「なによ、リョーく……ふふっ、ふははっ、ふふふはははははっ」
「「ははははははははっ」」
二人は笑った。
二人して笑っていた。
目一杯、精一杯笑った。
笑って、笑って、嗤われるまで、笑って、笑った。
なんで、どうして二人して笑ってるのか、分からない。
でも、一生分くらい笑ったのかもしれない、それくらい笑った。
久しぶりに、心の底から笑った。
【間隔】
「リョー君、ゲーセン以外にも別のところも行きましょ」
「そうですね」
二人は無意識に手を繋いでいた。
手を繋ぎながら二人は立ち上がり、前を向いた。
前を向いて、歩き始めた。
やっと、僕との恋は
やっと、僕の物語は
始まりを迎えたのかもしれない。そんな気がしていた。
いいや、実はもう、とっくに始まっていたのかもしれない。
【蛇足】
「ちなみに私ね、適当なところでわざと負けようかと思ってたんだ」
「へぇ、そうだったんですか」
「でもね、途中でリョー君の真剣さには私も痺れちゃった、って展開でね」
「……それについては僕も反省です。少し熱くなり過ぎちゃいました。
凛さんと遊びに来たのに途中から凛さんに勝つのが目的にしちゃったので、すみません」
「いいのいいの、私はそういうの好きよ。リョー君のそういう一面見れてね、嬉しかったのもあるし……それに……」
それに、私が─────のか、ようやく分かったし。




