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僕は歳をとらず若返る君に恋をする。  作者: わたみ
√N 「勝たなきゃ、強くならない」
14/22

episode13. 最高の瞬間〜The best moment〜


今を一言で言うと、寒い。

瞬間思うことはそれだった。


とは言ってもそのはずだ。今はまだ一月中旬。

冬だ。

寒いに決まっている。

しかし一口に「寒い」と言ったが、今回の冬は今までの中でも異例で異常なほど寒い。

最近では世界的に原因不明の異常気象が目立ち、もしも毎年冬がこのまま寒くなればマズイかも……?と、今日の朝のニュースで言っていた。

しかし、いざ寒さを直に体感すると信憑性が増すモノだ。


「凛さん、寒くないですか?」

「寒いねー、最近寒いからリョー君が日に日に起きるのが遅くなるから困るよ」

「うっ……」


鋭い。


「確かに寒いけど、寒さも忘れるような、そんな楽しい日にしましょ」

「……そうですね」


そう言って、僕の顔を見てニコッと笑う。

僕は寒さで表情は凍りそうであるが、彼女はそれでも笑った。

屈強に笑った。


「そういえば、凛さん」

「?」

「その、アキさんには来るって伝えてあるんですか?」


「あー、実は言ってないんだ……まあ、言うと色々めんどくさそうだし」


凛はそっと視線を逸らした。


「あ、でも、何か予定さえなければだけど、多分だけど家にいると思うよ」


僕は、ふーん。と一蹴(いっしゅう)した。



「さぁ、行きましょうか。このままじゃ寒いしね!」

「そうですね」



そう言うと、僕たちは歩き出した。

そして目の前の改札を通る。





【間隔】




初めての場所だ。


初めての風景。

初めての空気。

初めての香気。 

まるで世界が変わったみたい、とはまた表現が過剰ではあるが、でも違うどこかに来た、ということが身に染みる。



「どこに向かうんですか?」


最近降り積もった白い建物の景色を背に、そこに二人は、漏れ出る白く湧き上がる息を上げながら歩いていく。


「さて、どこ行こうかしらねー」


凛はルンルンだった。

足は軽く跳ね上がり、歩く姿は無邪気な子供のようだった。僕はそれを後ろから付けるように、なぞるように歩いて行く。

凛の後ろ姿の見ている僕だが、顔は見ずにわかる。見たこともない笑顔をしているのだろう。

今日、デートに誘ってよかったと、心から思った。



そんな絵に描いたような好調な状況で、うまく行きそうな感じではあった。


あったのだが。


凛さんの歩幅が段々と小さくなり、気がついたら人形みたいに、真っ直ぐを見つめる凛さんが僕の目の前にいて、うまく行きそうだった流れは少し角度を変えていた。


「ねぇ、リョー君」



そして唐突に凛さんが歩く足を止めたのだ。

同時に僕も止めた。


「自分のことは、自分がよくわかってるって言うじゃない」

「はぁ、そうですね」


「でも、ずっと私について考えた。でも、何も浮かばないの」


僕は驚いた。

凛の雰囲気と言葉の気温差にも驚いたが、それとは別に、凛にも分からないことはあったのかと、なんでもできる神様のような人と思ってたから、そこに驚きはあった。


まあ、でも実は凛さんの言ってることは分からないでもない。

何故なら、それは最近思ったことがあるからだ。

デートに誘う時、まさかあんなに自分が情けなくて、頼りなくて、弱いとは思わなかった。

つまり自分は自分でも完全には分からないと言うことだ。





「なるほど、でも確かに。人間ってそういうものなのかも知れませんね」

「私もびっくりしちゃってね、私の好きなことを考えても何も浮かばないのよ」


「なるほど、つまり……」


「ええ、行き先がわからない」


凛は申し訳なさそうな顔で僕を見た。

出会った頃は同じくらいの背丈だったのに、今じゃ彼女が見上げる形で、僕を見た。


「このまま歩き続けるのも寒くて風邪ひきそうだし……」


「じゃあいいですよ。今やりたいことを教えてください」


「やりたいこと?」

「はい」



彼女は上を向き、考える素振りをしたまま白い息を一度吐く。

そしてその瞬間にパッと言う。


「ゲーセン」


「げーせん?」

「そう、ゲームセンター!」

「いや、わかるけど」

「実は前から行きたかったんだ」


素直に意外……と言うわけでもないが、そうなんだ、くらいには思った。


「ちなみにリョー君は何回ゲーセンで遊んだことあるの?」

「どうかな、もう覚えてないくらい子供だった時以来行ったことないかも」

「じゃあ丁度いいね、私行ったことないんだ」


凛は僕の手を掴んだ。


「ねぇ、走ろ」

「なんで!?」

「流石に寒いからね、あったまろうよ」

「走ってあったまるなんて、非効率にも程があるって!」

「私意外と体力には自信あるんだ」

「そうですか、僕も自信あるんですよ。体力の無さ加減では」

「それはいけない。体力つけよう!ダッシュだ〜」

「うおぉぉぉぉっっ!!!引っ張らないで!引っ張らないでぇぇぇ!!!」



なんか、なんだろう、どうしてだろう、なんでか知らないけど、走ってゲームセンターを目指すことになった。

……はぁ、災難だ。


でも、これでいいかもしれない。

普段冷静な凛さんだから、こんな顔はなかなか見ない。こういう一面を知れただけで僕は嬉しい。


そうか、嬉しい。

僕は今、嬉しいのか。


心の中が俄然(がぜん)、湧き上がる感情で熱くなった。寒さを吹き飛ばしそうなほどに。

どうにかしてしまったのだろうか。自他も認める寒がりである僕なはずなのに、もう、寒さなんてどうでもよくなってきた。




僕は今、どんな顔をしているのだろう。






【間隔】




「はぁ、はぁ、はぁ、つかれたぁ、はぁ」


まあまあ走った。いや、だいぶ走った。

体感3時間くらい走った(実際は30分くらいだったが)。

もう走れない。

走りたくもない。


「体力落ちてるんじゃなぁい?」

「どうして、そんなに、走れるんだ、よ、はぁ、はぁぁぁ、むりぃ、疲れた、頭いたいー」

「まぁね、私はリョー君と違って体力が戻ってきてるからね」


ああ、そうか。

若返りのせいか。

野暮な話をしてしまって、させてしまった。


そんな強気な口をしている凛であるが、しかし顔は真っ赤に染まっていて、小刻みに肩が揺れているし、彼女の呼吸音は聞こえていた。

更に言ってしまえば、整っている髪の毛が風でボサボサになって、顔を赤らめてる様はいつもとは違う可愛いさがあった。


「さあ行こう!」


どうやら着いたのは大きなスーパーだった。

彼女曰く4階にゲーセンがあるらしい。

早速自動ドアを潜った。

そして、第一に言う。


「あついわね」

「何で走ってここまで来たたんでしたっけ、凛さん?」

「リョー君が走ろうって言い出したんだよ」

「凛さん?」

「どうしましたかリョー君」


記憶の改竄(かいざん)が過ぎるぞ。


まあいいか。と思い、筋肉痛になりそうな足を持ち上げて、歩いていく。




【間隔】




目が、輝いていた。


「リョー君」

「はい」

「初めて来たわ」

「そうですか」

「リョー君」

「はい」

「初めてって緊張するわね」

「その割には嬉しそうですね」

「そうよ、嬉しいもの。嬉しくて緊張してるのよ」


そうか。

僕は少し間を置き、今思ったことをまんま話す。


「凛さんって」

「はい」

「意外と素直なんですね」

「今まで素直じゃないと思ってたのね」


「いえ、今までは素直なのか素直じゃないのかも知りませんでした」


僕は更に洗いざらい話す。


「あと、本当は素直で子供っぽいというのか」

「子供?私は立派な大人なんですけど」


「じゃあ、行動原理とかもそうだし、表裏一体なところとか、そういう色々と分かりやすい人だったんだなって思って」


「それ、褒めてないよね」

「うん、褒めてはないかな」


凛は膨らませて、少し、ほんの少しだけ怒った。


「ううん、でも、少し雲の上の存在だった凛さんが、ようやく見えてきた感じがしてね、僕は……」


僕は続けて言う。




「僕は、嬉しいんだ」



ここに冴えない顔の男が一人いた。

冴えないなりの、精一杯の笑顔をしていた。




冴えないなりに、冴えた顔だった。





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